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からくり娘と三人の魔神  作者: ふたぎ おっと
タイル2.リモナとポンコツ旅とランプの魔神
31/38

2-8.誘拐船①

 ふわふわ、ぷかぷか。

 カモメと一緒に飛んでる。

 へへへ、アズの方が断然早いや。

 あ、アズ、ずるい! オレンジのクッションなんて作って。

 あたしにも、あたしにも。

 うわっ。オレンジの海に飲まれる。

 うへへへ、がぶ飲み放題。食べる方のが好きだけど、これはこれでしあわせ。

 あれ、アズは海に入らないんだねぇ。もしかして泳げないの?

 お、魚がいる。

 このまま食べちゃうぞー。

 うわあ! タコのスミ!

 ええい、かぶり付いてやる!

 ペペ、やっておしまい!

「うへへ、うへへへ」

 リモナはよだれを垂らして寝返りを打った。

 男たちはけげんな目でそれを見下ろした。

「こいつ、拉致されてきてんのに、何でこんなに幸せそうに寝てるんだ?」

「はにゃあ、ちがうちがう。タコの足をネジ締めるのはこっち。こっちはスパニャニャニャ」

「おい、これなんて言ったんだ?」男たちは部屋の隅に向かって尋ねた。

 隅には、両手両足を拘束された身なりのいい少年少女らが、肩を寄せ合い座っている。

「タコの足がどうたらと言っています……」一人がイルサーム語で答えた。

「タコの足……?」

 男たちは眉をひそめて顔を見合わせた。

 オルテンザでそんなのが流行っているのか?

「おい、進捗はどうなっている?」

 別の男が階段を下りてきた。

 長衣を着た男だ。

「全然だめだ。まったく外れねえ」

 男の一人が答える。

 頭に白いターバンを巻き、簡素な白い合わせ羽織。腰には三日月状の剣――イルサームによくある格好だ。

 長衣の男は煩わしくため息をつく。「仕方ない。指を切り落とせ」

 イルサームの男たちが一斉に息を飲んだ。「そんなことをしたらこの娘。使いものにならなくなる」

「ふん、女など指の一本や二本なくても足を開けば生きていける」長衣の男は冷たく言い放つ。「それが嫌なら叩き起こして外させろ」

「血も涙もねぇなぁ」イルサームの男は身震いした。「おい、女。起きろ」リモナの頬をぺちぺち叩く。

「はむはむ、カワハギの味ぃ」リモナは男の手を食んだ。そしてペッと口を離して舌を出した。「うえぇ、腐ってるぅ」

 見ていた男たちは思わず笑った。オルテンザ語は分からないが、娘の表情で何を言ったかは想像できる。

 リモナを叩いていた男は顔を赤らめて、思いっきり腕を振り上げた。

「ぅわわあ!」

 思いっきり頬を叩かれて、リモナは飛び起きた。頬がジンジンする。

 しかし上体を起こそうにも両手が動かなかった。

 薄暗い部屋。潮の香りがする。

 目を上げると、白いターバンを巻いた男が、リモナを覗き込んでいた。「おじさん、誰?」

「~~~」おじさんは何か話すが、何言っているか全くわからない。

「え、なんて言ったの?」リモナは寝返りを打って耳を上に向けた。「ちょっともう、分かる言葉で話してよー」

「~~~」おじさんは相変わらず何言っているか分からない。

 リモナはふと、地面が上下に揺れているのに気が付いた。

 え、なんだろうこれ。

 まるで船に乗っているような――。

「指輪を外せって……言ってるよ」

 小さな声で誰かが言った。

 声のした方を向くと、リモナよりも幼い少年少女が、身を寄せ合って座っていた。

「へ、どういうこと?」リモナは目を丸くした。

「は、早くしないと、指切られちゃうよ」さっきの子が脅えた声で言う。

「指切られちゃう? へ、このおじさんと何の約束もしてないけど?」

「そ、そういうことじゃなくて――あ、危ない!」

「え?」

 リモナは目を上げた。

 白いターバンの男が、剣を振り上げていた。

「い、いやいやいやいやいや!」

 リモナは床を転がった。

 男の剣が、さっきまでリモナがいたところに突き刺さる。

「ちょっちょっちょっとおじさん! いきなりそういうのは良くないって!」リモナは身体を捻りながら上体を起こした。「いや、いきなりじゃなくてもダメなんだけど!」

「~~~~!」

 男は相変わらず通じない言葉で向かってきた。

 再び剣を振り上げる。

「いや、待って待って!」リモナは首を振った。「ねえ! この人に何か言ってよ!」さっきの子に訴えかける。

「<指輪を外すって言ってます!>」少年がイルサーム語で叫んだ。

 何を言ったのかさっぱりだが、男の手が止まった。「<本当か?>」男は少年を見る。

 少年は蒼白な顔で頷いた。「ほら、指輪を外して」リモナの方を向いて言う。

「ゆ、指輪?」さっきもそう言ってたけれど。「アズの指輪のこと?」

「~~~」

 男は何か言ってリモナに手を出した。

 指輪を寄こせって言ってるの?

 そんなことをしたらアズラクに怒られるのでは……。

 あ、そういえばアズはどこ?

 指輪こすったら来るんだっけ。

 リモナは手の中でサファイアをこすった。

 すると船が大きく左右に傾いた。

「わわわ」

 男たちがバランスを崩して横に倒れる。リモナと少年少女たちは、船の傾きにつられて転がった。

 上から別の男たちがやってくる。

「<おい! 波がいきなりやべえぞ! 急いで帆をたため!>」

「<こ、これは、もしや……>」部屋の端にいた長衣の男が、息を飲んだ。

 もくもくと煙が立ち込める。

 誰かの泣く声が聞こえる。「僕たち死んじゃうのかな」

「だ、大丈夫! アズだから!」

「——お前、呼ぶの遅えんだよ」

 急に耳元で言われて、リモナはわっと飛び上がった——ように転がった。

 見上げるとアズラクの狼のような青い瞳と目が合った。

「あ、アズだ」

「アズだ、じゃねえよお前。どんだけ心配したと思ってんだ」

「だ、だって、あたしもよく分からないんだけど——」リモナはごろごろ転がった。

「<あ、あいつ……どこから現れたんだ?>」

「<あれが指輪の魔神……>」

 アズラクは声のした方を向いた。

 白い衣装の男共に、長衣の男。白い方は手に三日月型の剣を持っている。

「<何だったんだ、さっきの波。急に収まったぞ>」階段の上から、同じような白衣装が降りて来た。

 隅から聞こえるすすり泣く子供の声。

 そして縛られたリモナ。

 リモナは茶色のまんまる目を丸くしたまま、床をごろごろ転がっている。

 船が再び大きく傾き出した。

「わわわ!」リモナは傾いた方に転がっていく。

「リモナ、こいつらに何された?」アズラクは低い声で言う。

「へ? 分かんないけど、指切られそうになった! あわわ!」

 船は反対側に大きく傾いた。

 リモナは傾きに合わせて転がっていく。

「他には?」

「他? 覚えてないけど、なんか思いっきり叩かれたような……ほわぁ!」

 船は上下に大きく波打った。

 リモナの身体は一瞬浮いて、地面に叩きつけられた。

「お前たち、ここで捻り殺されるのとシャチに食われるの、どっちがいい?」アズラクは低い声で言う。

「<しゃ、シャチ?>」男の一人が言う。「<何言ってんだよ、この海峡にそんなのいるわけ——>」

「見せてやるよ」

 アズラクは不敵に笑った。

 白いやつも長衣のやつも含めて宙に浮かし、船倉から連れ出していく。

 上下左右に揺れる船倉の床を、リモナは浮いたり転がったり、止まっている余裕がなかった。ひっくひっくと泣く声があたりに響く。

「私たち、どうなっちゃうの?」

「うぇぇ、気持ち悪い……」

 酸っぱい生臭いにおいが、船倉に充満する。

 うえぇ。

 この匂いはリモナも流石にきつい。

「み、みんな。船は波に乗れば酔わない——ほわわわぁ!」

 ごろごろ転がる先が、地獄だった。

 いやいや、流石にそっちは無理!

 リモナは身体を捩って軌道修正する。

 ほっ。なんとか吐瀉物に塗れずに済んだ。

 と思ったら、こっちに流れてくる。

「こんなの、タコの墨のが全然いいよぉ!」

 リモナはごろごろ転がって吐瀉物の襲来と戦った。

 ……う。回り過ぎて気持ち悪い。

 すると外から絶叫が聞こえてきた。船はいっそう激しく揺れる。

 うえぇ。何が起こってんの?

 もう限界——。

「うわ、なんだここ。くっせえな」アズラクが降りてきた。

「あ、あ、アズ、う……」

 アズラクは目を見開くと、勢いよくリモナを甲板へ上げた。

 え、ちょお、待って!

 この状態で動かされたら——!

 アズラクはリモナを下向きに海の上に上げた。

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