第817編「境界に咲く」**(どちらでもなく、どちらでもある私たち)
雨上がりの舗道を、ふたりの足音が並んで響く。
「ねえ、今日のコーデ、どう?」
そう言いながら、凛音はゆるくロールアップしたワイドパンツの裾をつまんでみせた。黒のタートルネックに、オーバーサイズのダブルブレストジャケット。シルエットはシャープでありながら、柔らかな落ち感のある生地が、中性的な色気を演出している。
「……似合ってる。やっぱり、ジャケットの肩幅のフィット感が絶妙ね」
対する柚季は、少しだけ袖の長い**ドロップショルダーのシャツ**を着ていた。ボタンを一つ外し、鎖骨のラインを曖昧に見せているのが、計算された抜け感を生み出している。
「それ、**シアー素材**? 光の加減で透けるの、綺麗ね」
「そう、シフォンのブラウス。でもボトムはメンズライクにしてるよ。タック入りの**テーパードパンツ**で、メリハリをつけるのがポイント」
ふたりはどちらも、性の枠組みに囚われないファッションを愛していた。日によってボーイッシュにもなるし、フェミニンにもなる。けれど、どちらかに固定されることはない。
「凛音、最近のトレンドだと何が気になる?」
「そうだな……**ジェンダーレスジャケット**の流れはやっぱり強いよね。テーラードのカットラインはシャープだけど、ウエストは絞らずストレート。あの絶妙なバランス、たまらない」
「わかる……肩パッドを入れすぎず、自然に構築的なシルエットを作るのがいいよね。私は、もう少しルーズな**ハーフスリーブジャケット**とかも好きだけど」
「いいね、抜け感があるのに、きちんとモード」
そんな話をしながら歩いていると、ガラス張りのセレクトショップが目に入る。
「ちょっと寄ってみない?」
店内は、ミニマルなディスプレイの中に、モノトーンやアースカラーの服が並ぶ。
「ほら、これ。**ダブルフェイスのコート**、絶妙なオーバーサイズ」
「え、かっこいい……でも、この丈感だと、パンツはどう合わせる?」
「**スリムテーパード**ならバランスは取れるけど、あえてワイドパンツで全体をドレープさせるのもあり」
「うん、マニッシュな中にしなやかさを出せるね」
そう言いながら、柚季がコートの生地を指で撫でる。凛音はその指先にそっと触れた。
「……ねえ、今度さ、ペアコーデしない?」
「ふふ、それなら、おそろいの**ユニセックス・シャツ**を着ようよ」
「いいね、それなら、私たちらしい」
ふたりは微笑み合いながら、境界のないスタイルを選び続ける。
どちらでもなく、どちらでもある。
それが、私たちの愛のかたち。




