表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合ショートストーリー集 ~百合好きなのでさまざまなジャンル・シチュエーションの百合を描いていきます~  作者: 霧崎薫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

793/1280

第791編「金細工のキス」(指先に宿る想い、絡めた銀の糸——ふたりだけの宝物)

 金槌が金属を叩く乾いた音が、アトリエに響いていた。窓から差し込む午後の陽射しが、作業台に並べられたシルバーパーツや天然石を照らし、優しくきらめく。


 美優みゆはルーペを覗き込みながら、慎重に細工を施していた。指先でシルバーのワイヤーを微調整し、繊細なフィリグリー(銀線細工)の模様を絡めていく。


「……よし。あとは、石留めだけ」


 彼女の向かいでは、恋人のエリカが同じようにピンセットを手に取り、ブルートパーズのルースを慎重にセッティングしていた。


「美優、このリングのデザイン、やっぱりすごく綺麗。繊細なのに、ちゃんと芯がある」


 エリカが感嘆するように言うと、美優はルーペを外し、少し照れたように微笑んだ。


「エリカの石留めが丁寧だから、デザインが活きるのよ」


「ふふ、そう言ってくれるのは嬉しいけど、美優のデザインがなかったら、私はただの石を留める人になっちゃうわ」


 エリカの指先には、シルバーのリングに収められたトパーズが輝いていた。青く透き通るその石は、どこか二人の関係に似ていた。


「ねえ、このリング……私たちの記念にしない?」


 エリカの提案に、美優は目を瞬かせた。


「記念?」


「うん。付き合って三年になるでしょ?そろそろ、お揃いのアクセサリーが欲しいなって思って」


 美優は少し考え、それからゆっくりと頷いた。


「……いいわね。二人だけの、特別なリング」


###


 翌週の休日、二人はじっくりと時間をかけて、お揃いのリングを作ることにした。


 エリカは18Kゴールドの細いワイヤーを手に取り、リングの土台となる部分を形成していく。バーナーで金属を熱し、ゆっくりと曲げながら、滑らかな円を作る。


 一方、美優はそのリングに施すデザインを緻密に考えていた。彼女が選んだのは、ヴィクトリアン様式のアンティーク風の装飾。フィリグリー技法を用い、細い金の線を織り込むようにして、優美な曲線を作り上げる。


「エリカ、これ見て」


 彼女は小さなスケッチブックを開き、細かく描かれたデザインを見せた。


「この部分、左右対称にして、二つのリングを重ねると一つの模様になるようにしたいの」


「わあ……素敵。まるで、お互いを補い合うみたい」


「そう。私たちの関係みたいに」


 エリカは微笑み、美優の指にそっと触れた。


「ねえ、美優。これが完成したら……ずっと一緒にいようね」


「もう、ずっと一緒にいるでしょ?」


「そうだけど……もっと、確かめたいの」


 美優はエリカの真剣な瞳を見つめ、ゆっくりと頷いた。


「……だったら、このリングが、私たちの約束になるわね」


###


 リングが完成したのは、それから数日後だった。


 細やかなフィリグリーの模様が絡み合い、二つのリングを重ねると、一つの花が浮かび上がるデザインになっていた。中心には、エリカが選んだブルートパーズが留められている。


「美優……本当に素敵」


 リングを指にはめながら、エリカは感動したように微笑んだ。


「あなたが作ってくれたデザインだからよ」


「そして、美優がいたから、私はこの石を選んだの」


 エリカはリングを見つめた後、美優の手をそっと取った。


「ねえ……指輪の交換、しない?」


 美優は驚いたように目を見開いた。


「交換?」


「うん。結婚とか、そういう大げさなものじゃなくていい。ただ……二人の気持ちを、形にしたいの」


 美優はしばらく黙っていたが、やがて静かに微笑み、エリカの指にリングを滑らせた。


「……これからも、一緒にいてね」


 エリカも同じように、美優の指にリングをはめる。


「もちろん。どこまでも、ずっと」


 そして、二人はそっと唇を重ねた。


 金細工のように繊細で、けれど確かに強い想いが、ふたりの間に絡み合っていく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ