第789編「Pump & Love」(鍛えた身体も、愛する気持ちも、誰にも負けない)
ジムの鏡張りの壁に、自分たちの姿が映る。トレーニングウェアに包まれた引き締まったボディ、汗の滲む肌、力を込めた腕のライン。
「よし……今日はベンチプレス、自己ベスト更新しよう」
そう意気込んだのは美玲。肩までの黒髪をポニーテールにまとめ、黒のスポーツブラとレギンスを身に着けている。均整の取れた筋肉はしなやかで、ベンチプレス台に寝そべる姿勢からも、普段のトレーニングの成果がうかがえた。
「ちゃんとフォーム気をつけてね。私が補助するから」
隣に立つのは杏奈。ハーフアップの茶髪が軽く揺れ、タンクトップから覗く肩の筋肉がなめらかに光る。彼女はパーソナルトレーナーの資格も持つほどの本格派で、美玲のトレーニングのサポートを欠かさない。
「いつも通り、肩甲骨を寄せて、グリップは肩幅より少し広め……」
「うん、わかってる!」
美玲は深呼吸をし、ラックにセットされたバーベルを持ち上げた。今日は50kg。これまでの自己ベストは48kgだった。
「1回目……いいよ、その調子」
杏奈が上から見守る中、美玲はゆっくりとバーベルを下ろし、胸の上ギリギリで止める。そして力強く押し上げた。
「っ……!」
2回、3回と繰り返すうちに、腕と胸の筋肉が震え始める。しかし、美玲の表情にはまだ余裕があった。
「あと2回、いける?」
「いける……!」
4回目、杏奈の声が優しく響く。
「ナイスコントロール。最後、しっかり押し切って!」
5回目、腕が限界を訴え始める。しかし、美玲は歯を食いしばり、最後の力を振り絞って押し上げた。
「っしゃあ!更新!」
バーベルをラックに戻し、深く息を吐く。腕はパンパンに張っていたが、それ以上に達成感があった。
「すごいよ、美玲!自己ベスト更新、おめでとう!」
杏奈が嬉しそうに微笑みながら、手を差し出す。美玲はそれを強く握り返した。
「ありがとう、杏奈がいたから頑張れた」
「当然でしょ。だって、私の大事なパートナーだもん」
汗に濡れた肌を撫でるように、杏奈の指が美玲の腕を辿る。トレーニング仲間として、そして恋人として、お互いの身体も心も支え合ってきた。
「次は杏奈の番でしょ?」
「うん。でもその前に……ちょっと水飲んで、一緒にストレッチしよ?」
二人はタオルで汗を拭きながら、ジムの片隅に移動した。
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「やっぱり、ストレッチも大事よね」
美玲はマットに座り、太ももの裏をじっくりと伸ばす。
「筋トレだけじゃなく、柔軟性も鍛えないと怪我しちゃうからね」
杏奈はそう言いながら、美玲の背中に手を当て、ゆっくりと前屈をサポートした。
「よし、そのまま……うん、ハムストリングス、ちゃんと伸びてる」
「杏奈の手、気持ちいい……」
「ふふ、でしょ?」
優しく触れられる感触に、美玲の頬がほんのり熱を帯びる。トレーニング中はストイックな二人だが、こうして触れ合う時間には、少し甘えたくなる気持ちが芽生える。
「杏奈の背中も伸ばしてあげるね」
美玲は杏奈の後ろに回り、そっと彼女の肩を押した。杏奈の背筋は美しくしなり、しっかりとストレッチされる。
「……美玲の手、温かいね」
「杏奈の身体も、すごくしなやか」
二人はしばらく静かに呼吸を合わせ、ストレッチを続けた。
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トレーニングが終わり、プロテインドリンクを片手に帰り道を歩く。
「ねえ、今日のご褒美は何にする?」
美玲が尋ねると、杏奈は少し考え込む。
「うーん……焼き肉?」
「タンとハラミ、食べたい!」
「じゃあ決まりね。高たんぱく、低脂肪。筋トレ女子の正しいご褒美ディナー!」
二人は笑い合いながら、駅へと向かった。
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食事を終え、シャワーを浴びた後、ベッドに並んで横たわる。杏奈の肩に頬を寄せ、美玲はそっと囁いた。
「杏奈……今日はありがとう」
「何が?」
「一緒に頑張ってくれるから。こうやって支えてくれるから」
杏奈は微笑み、美玲の頬にそっと触れる。
「私も同じ気持ちだよ。美玲がいるから、私ももっと強くなりたいって思える」
「……これからも、ずっと一緒にトレーニングしようね」
「うん。そして、もっと鍛えて、もっと強くなって……ずっと、美玲のそばにいる」
その言葉とともに、杏奈の唇が美玲のものに重なる。
トレーニングも、愛も、決して妥協しない。二人の心も、身体も、これからも強く輝き続けるのだから——。




