パーティ
フェアリスは軽く化粧をして衣装を整えた。
長い髪を結いあげ、蝶の形の髪飾りを付ける。
仕上げに口紅が崩れていないか鏡で確認する。
バナディース夫人として行動することはあまりない。病弱で社交界にあまり出られないで通している。
あの仮面は自分の顔と全く違う顔に作った。
声を変えるのは一苦労だったが。たっぷりとした衣装で体形をごまかしそして様々な癖をあえて作ることで別人になり切った。
何故そんな酔狂な真似をしようと思ったのか自分でもよくわからない。ただプライベートと仕事は分けておきたかっただけだ。
夫はもともと依頼人の家族だった。その夫はフェアリスの仕事を理解してくれたと思うし、仕事をたとえ素顔でやるといっても反対はしなかっただろう。
仮面をつけたのはあくまでフェアリスの意思だ。
パーティ会場には仕事でもあまり顔を出さない。あくまで闇夜鷹の仕事は裏方だ。それに徹する。
それでも仕事関係の人間が結構な数参加しているパーティらしく実は闇夜鷹も招待されていた。
気づかれない自信はあったが気が抜けない。
やれやれとため息をついて馬車へと向かった。
その日、夕暮れ時のガーデンパーティでフェアリスは壁がないが便宜上の表現で壁の花に徹した。
夫とともにあいさつ回りをした後、フェアリスはさほど知り合いもいないし、上流の御婦人たちはフェアリスの素性を怪しんでいる節があり、あまり寄ってこない。
それをいいことに果実酒を片手に周囲を観察していた。
ひときわ騒がしい一団がいた。
きらびやかな多少露出の激しい衣装をまとい全体的に派手な化粧をした若い女性達だ。
お上品な奥様方がとがめるような視線を送り、いかにも紳士然とした殿方達は舐めるような視線を送っていた。
見覚えのある顔がいくつか見えた。舞台女優の集団だ。
基本的に育ちのよろしくない女たちはこのようなパーティに舞い上がりキャッキャとはしゃいでいた。
一人がなれなれしく一人の若い見目好い紳士にしなだれかかった。
よく見れば、それはフェアリスの夫だった。夫は慣れた様子でその女優の手を外す。
そしてさっさとフェアリスのいる場所にやってきた。
「ひどいな、助けてくれないのかい?」
おどけたような物腰でフェアリスに拗ねて見せた。
「助けるまでもなかったようだけど」
軽く返すとそっと横目で見た。
ああいう集団にあまり近寄らないようにしていた夫がどうして腕をとられるほど近くに寄ったのかそれが疑問だった。
「話していた内容に気がとられてね、殺人事件があったそうだけど、闇夜鷹が怪しいんだってさ」
思わずフェアリスは果実酒を吹き出しそうになった。
警察のみならず、舞台関係者にまで怪しまれているとは思わなかった。
「言っていた女優がだれかわかる?」
「マティルダと呼ばれていたよ」
フェアリスは軽く唇をなめた。




