古い仮面
とはいえ、そのような話が出たら、呪具屋のところに行かないわけにもいかず。マディソンは呪具屋の前に立つ。
正確には、その裏手の小物屋だが。
店主はおらず、無表情な人形が店番をしていた。
「通るぞ」
人形は滑らかに会釈する。表情がこわばっていなければ生きた人間と見まごうばかりだ。
呪具屋は、仮面をつけてそこにいた。
その手にもう一つの仮面を手にしている。
「それは?」
手にした仮面は、かろうじて人の顔と分かるぐらいに大雑把に作られた仮面だった。
白く塗られた無機質なそれを呪具屋はそっと撫でた。
「これは父の仮面」
おそらく怪訝そうな顔をしていただろうと思った。
いったいどういう時にその仮面を使っていたのか見当もつかない。
「この仮面をつけて、父は貴方に会っていたはず」
この目鼻がかろうじて判断がつく程度のぞんざいな仮面をつけていたと言われても自分が覚えているのは端正な顔だけだ。
「精神に影響を与える呪具の使用を今は禁止されているけれど、当時はまだ法が徹底していなかったから」
そう言って細い指が仮面をなぞる。
「この仮面をつければ、相手が最も快いと思われる顔に見えるよう調整されている。父は、ほとんどの時間、この仮面をつけて生活していた」
「あんたには、その顔はどう見えていたんだ?」
「小さい頃は、父の素顔とほとんど変わらなかったと思う、子供にとって、親の顔ほど安心できるものはないから。それからあとは、父の素顔をベースにして、少し美化された程度か」
までぃそんは、その仮面を見下ろす。誰もつけていない状態では、ただの粗削りな仮面にしか見えない。
「つまり、同じ顔を見ていたつもりで、みんな別の顔に見えていたわけか?」
「そう」
「じゃあ、呪具や本人にはどんな顔に見えていたというんだ」
「それは知らない、おそらく父の心の中にだけある顔だったんでしょうね」
転生者という噂、もしかしたら、今の顔ではなく転生前の顔が先代には見えていたのかもしれない。あるいは、彼にとって理想の美貌だったのか。
「今は使うことができないけれど、使わないならということで、うちに置いてあることだけは許されている」
「そうか」
しばらく仮面を凝視していたが、本題を思い出した。
「すまないが、マルテネスについて聞きたいことができた」
「なにか?」
「マルテネスはあんたの本名を知っていたか?」
「教えていなかった。教える必要もない」
「マルテネスは貴女の素性は知らなかった。間違いないね」
「もしかして、疑われているのか?」
やれやれと顎に手をやって仮面をはずした。
「もし知られたとしても、殺害するほどのことではないと思うがね、多少のトラブルにはなるが、死活問題とは言い難い」
それは最初に自分も思った。しかし、世の中には、そういう簡単な計算ができない人間も王王にいる。だからこそ、マディソンのような人間が必要なのだ。
「マルテネスが死んだ以上、知らなかったと証明することはできないってことか」
やれやれと、呪具屋は首を振る。
「早く新犯人が捕まることを祈ります、協力は惜しみません」
それだけ言うと、フェアリスは口をつぐんだ。
これ以上何も聞き出せないだろう。マディソンはそう考えると、その場を辞した。




