密告
マディソンは最近入ったタレコミに眉をしかめた。
マルテネス殺害の付近で、ある人物を目撃した。それは闇夜鷹だと思われる。
フェアリスは殺害現場に事件発生時、絶対近寄らなかったと断言していた。
証人は家族なのでそれなりに信ぴょう性は薄いが。
しかし、その闇夜鷹の人相風体を聞いて、思わず頭を抱えてしまった。
極めて高身長の細身の男。それが目撃者の言う闇夜鷹だった。
フェアリスは女性としてはかなり身長の高いほうであるが。男性と比べればせいぜい中肉中背といったところだろう。
明らかに闇夜鷹の特徴と異なる人間を闇夜鷹だと声高に行っている。
「どう考えてもこのタレコミはガセですよね」
同僚もため息をつく。
「まあ、闇夜鷹がピンヒールでも履いてたなら別だが」
ピンヒールの足音は極めて独特なので、履いていたらすぐにわかる。そしてピンヒールの足音を立てる人間を男だと判断する人間はまずいない。
「いったい何があったんだろうな」
タレコミの主とどういう怨恨沙汰があったのかとフェアリスに尋ねてみるべきだろうか。
「でも、おかしくないですか、怨恨沙汰があったなら、それは面識があったということじゃないですか、それでなんで似ても似つかない特徴を言うんですか?」
「意味不明だな」
「売名行為ですかね」
有名人がらみで新聞あたりにネタを売って。何しろ情報源は女優だ十分あり得る。
「それで、闇夜鷹から恨まれたらどうするんだか」
「今度確認に行くわ」
フェアリスがどんな顔をするか、それとも仮面をかぶったままその顔を見せないのかわからないが。
闇夜鷹はその仮面に表情を乗せることをやめていた。
動かない顔に目の前の刑事たちは居心地悪そうに肩をすくめる。
「いろいろと変ですね」
そう言いながらお茶を飲む。
口のところは開閉ができるので、飲み食いができる。無駄に凝った仕組みだ。
「私に確実に濡れ衣を着せたいのであれば、きっちり私の正しい人相風体を話せばいい。何故に私の違う容姿の人間を闇夜鷹だと言い張ったのかがわからない」
そして天井を仰いで考え込むしぐさをする。
「背が高かったと言いましたね」
そして改めて向き直る。
「つまり犯行時刻にたまたま現場付近に通りがかった人間がいた。それがとても背が高かったという目撃証言なのでは?」
「なるほど、それをなぜか闇夜鷹だと思い込んだのは謎ですがね」
「どうも芸能界のほうでも私が怪しいという噂が立っているようで」
そう言って顔を両手で覆う。カチリと金属の打ち合うような音がした。
仮面が外され、素顔になったフェアリスはうんざりという顔をした。
「夫の付き合いで出たパーティで、闇夜鷹の悪口を言いまくっていた女優がいたわ、マティルダって名前だったけど、まさかその女が密告者なんて言わないでしょうね」
マディソンは実に気まずい気持ちで視線をそらした。
正解だったからだ。




