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13/16

協力者が増えましたわ!

久しぶりの投稿です!

文体とか変わってるかもしれない・・・。

変わってたらごめんなさい!

 キマイラたちの授業のうち、三分の二は各自の教室では行われない。

 クロノス中等学院の授業は基本的に教師が生徒のいる教室に赴くのではなく、生徒が教師のいる研究室へ移動することが鉄則になっている。

 クロノス中等学院に所属する教師たちは皆、国家的に大きな功績を生み出している学者や研究者だ。

 彼らが生み出した多大な功績は現在、キマイラたちの暮らすゲーム世界をそのまま形成しているといっても過言ではない。

 ある者は国中に水を行き渡らせる水路を、ある者は人間の遺伝子の解明を、ある者は古代文字の解明を。

 そして、それだけの実力を持つ彼らを教師として学院にスカウトしたのが学院長のマドマリ・クロノスだ。

 彼女は、彼らに研究の資金提供と研究室の確保を約束する代わり、クロノス中等学院で教師として教鞭を振るう契約を取り付けた。

 契約によりクロノス中等学院の教師たちは皆、各々研究室を持っている。

 そのため、生徒たちは授業後の十五分休憩を使って次の授業を受ける教師の下へ赴かなければならない。

 しかし、生徒たちにとってそれは容易なことではない。

 教師たちの研究室は広大な学院のあちこちに散らばっている。

 クロノス中等学院の校舎は敷地面積にして148,000平方メートル。

 キマイラの前世の世界でいう所の東京ドーム1個弱だ。

 加えて、生徒たちは授業が終わると次の科目を受けるため、教科書を取りに自分の教室まで戻らなければならない。

 無論、全ての教科書をカバンに詰めて持ち歩くなどと言う貴族に有るまじき振る舞いは言語道断だ。

 しかし、授業に少しでも遅れれば罰則が科せられる。

 そのため、生徒たちはこの移動教室の時だけは貴族であることを忘れ、人目を忍んで全力で廊下を爆走する。

 ただ、それが見つかっても罰則を科せられる。

 中には2階の廊下から一回の研究室へ向かうため、窓から飛び降り、退学になった者もいたらしい。

 何とも理不尽な話だ。

 こういった環境によりクロノスを卒業した卒業生たちは皆、貴族でありながら、エルカドル山を息も切らさず登りきる体力を得るという。

 エルカドル山とは、ハインツベルン王国で六番目に高いと言われる標高3800メートルの高山だ。

 産まれて以来、自分の足で1㎞も歩いたことのない様な温室育ちの子息令嬢に、登山者並みのタフネスを与えてしまう移動教室。

 もはや、それは移動教室であるのかすら怪しいが、少なくとも、これが貧弱な生徒たちの精神を鍛え上げていることには間違いない。

 

 


 キマイラがクラスAに入ってから半年が過ぎたころ。

 学院に入学して間もなくは、大変苦戦した移動教室にも今では大分慣れてきた。はずだ。 

 手に大量の教材を抱きかかえたキマイラは階段の途中で息を切らしていた。

 彼女も現在、移動教室の真っ最中である。

 しかし、今、キマイラが抱えている教材の数はどう考えても一教科分の量ではない。

 その日、クラスAの午後の授業は選択科目になっていた。

 昼食の後、別教科を選択していたリヒトとウィリアムに別れを告げたキマイラは教室に戻って教科書を用意してふと思った。


 そう言えば、貿易収支学のカラスル先生と伝統文化学のアルカナ先生の研究室は直ぐ近くでしたわ。

 午後は伝統文化学の後に貿易収支学を受ける予定だったはず・・・。

 教室に戻ってくるのも面倒ですし、せっかく研究室が近いのだから両方の教材を持って行ってしまいましょう。

 うふふ、こう見えても私、人より体力はある方ですし、二教科分くらいならきっと何とかなりますわ!

 何せ学院に入ってすぐの頃はハインツさんよりずっと早く教室移動を済ませてばかりでしたもの!


 しかし、キマイラのリヒトに対する移動教室勝利記録には、たった半月で黒星が付いた。

 

 ・・・まあ、今ではハインツさんの方が早いんですけれど。

 だ、だってあれはずるいではありませんの!!

 まさか、校舎内の移動教室最短経路を開発してしまうなんて!

 しかもそれを私とウィリアムにまで教えて下さる何て!!大変役に立っていますけど!!

 移動教室だけでは絶対に勝っていたのに!

 と言うか移動教室だけが私がハインツさんに勝てる唯一の・・・!

 止めましょう、何だか虚しくなってきましたわ。

 と言うか私、彼に勝てるものが移動教室だけって、移動教室だけって・・・。

 ああ、もう!と、兎に角移動しましょう。

 あれ、結構重いですわね?で、でも研究室までくらいなら、


 「なんてどうして思ったんですのお!?数分前の私の阿呆!!」

 吐き出すようにかつての自分を罵倒する。

 そして、今に至る。

 教材の量だけに目を向けていたキマイラはその後、自分が歩くことになる距離のことまでは視野に入れいてなかった。

 そのため、最初は軽やかに進んでいた足取りも後半になるにつれて重くなり。

 更に、六法全書並みの分厚さを誇る貿易収支学基礎本に体力を根こそぎ奪われて行った。

「ああ・・・、何て浅はかだったんですの・・・こんな、ことならちゃんと一教科ずつ持ってくるべきでしたわ、はあ。」

 息も絶え絶えに何とか階段を登りきる。

 研究室まではあと少し。

 まるで酔っ払いの様にふらふらしながら、廊下を進む。

「え、うわっ・・・、」

 自分の右足に左足が絡まり、教材を放り投げて盛大に転んだ。

 そして不幸なことに、宙を舞った大量の教材が転んだキマイラの上に降り注ぐ。

「きゃあ!い、痛っ!!痛い!」

 貿易収支学基礎本が頭に直撃し、ノートに挟んでいたメモやプリントは未だに彼女の頭上を舞っている。

 キマイラはちょっと涙目になった。


 はあ、本当に・・・何事も楽をしようとしてはいけませんわね、身に沁みましたわ。

 

 自分の横着を反省しながら落ちた教材を拾い集めていく。

 ここにウィリアムがいたら、馬鹿じゃないの、と言ってキマイラの行動を一喝したことだろう。

 プリントやメモをまとめてノートに挟み、教科書を取ろうと手を伸ばした時、別の腕が伸びてきてキマイラの教科書を拾い上げた。

 立て続けに他の資料や貿易収支学基礎本も拾い上げられていく。

 キマイラが顔を上げると、目の前に一人の少年が立っていた。

 制服の上から見ても解るほっそりとした体系。中等部の生徒にしてはやけに背が高い。

 顔にはメタルフレームの眼鏡を掛け、その奥では茶色の瞳が揺れている。そして、寝癖なのだろうか、まるで獣の耳の様な跳ねが藍色の短い髪に二つ。

 少年は、拾い上げたキマイラの教書を軽く叩くと目を細めて言った。

「何でこんなに教材抱えてるのかな?しかも、教科も全然違うし・・・ああ、成程。教室に戻るのが面倒で一回に二教科分の教材を運ぼうとしたのか。それで結局、抱えきれずに転んで廊下にぶちまけたと。君、とんでもない馬鹿だな。」

「ぐっ・・・!」

 少年の正論にキマイラから呻き声が漏れる。

 ボロカスに言われたキマイラは精神的ダメージを受け、さっきとは別の理由でふらふらしながら立ち上がった。

 それを見計らって少年がさらに追い打ちをかける。

「しかも、教材の量だけしか見てなくて研究室までの距離のことは考えてなかったとか本当に間抜け。と言うか、解ってるのか?この教材、帰りも持って帰らないといけないんだけど。まさかそれも考えてなかった?」

「あ。」

「うわ、本気?有り得ないよ。まあ、話には聞いてたからそれなりに覚悟はしてたけどさ。でもまさかここまでとは。俺も流石にびっくりだよ。あー、これは最早馬鹿とか間抜けって言葉じゃ失礼だね。お嬢さん、君はハインツベルン王国一のポンコツだ。おめでとう!」

「そこまで言いますの!?二教科分の教材運ぼうとしただけでそこまで!?確かに横着をした私が悪かったですけれど!!」

「あ、能無しの方が良かった?」

「悪化してる!!」

「それともピーマン?」

「ピーマンて何ですの!?私が緑色だとでも、」

「中身が空っぽって意味だよ。ああ、すまない。伯爵令嬢様は料理なんてしたことないからピーマンの中身なんか知らないかな。」

「知ってますわよ!!寧ろ、ピーマンの事なら誰よりも知り尽くしていますわよ!!」

「え。」

「散々調理しましたもの!ええ、それはもう夢に出て来るほどに。」

「君、もしかしてピーマン愛好家とかそういうの?本当にいるんだ、そういう人・・・。」

「聞いておいてドン引きしないでいただけます!?」

「でも、ならやっぱりピーマンであってる?」

「違いますわよ!!」

「それで、ピーマン頭の君。」

「無視!!家を出て以来、ハインツさん以外に受け流されるのは久しぶりですわ!何故か懐かしさすら感じる。」

「君、キマイラ・イエリエリ伯爵嬢だよね?」

 少年はキマイラの言葉を遮ると彼女の鼻先に人差し指を突き付けた。

 キマイラの視線が彼の指先に寄る。

 少年がニコニコと笑った。

 それは、リヒトやスピッツたちがキマイラに向けて来る笑みとは少し違っているようだった。

 

 何だか彼の笑顔、ハインツさんの笑い方に似ていますわね?

 どうしてかしら?

 

 そして、少年は言った。

「リヒト・ハインツ・ベルンとの婚約を破棄してほしい。」

「・・・は?」

 少年の言葉にキマイラは硬直した。

 リヒトとの婚約破棄は、リヒトと婚約してからずっと彼女の願望であった。

 クロノス中等学院に入学してからのこの半年間。

 あの手この手を尽くして、リヒトに嫌われようと試みてきた。

 しかし、結果は毎日のように惨敗し続ける日々。

 今更、この少年に頼まれずとも、キマイラはリヒトとの婚約を破棄する気満々である。

 ただ、彼女の立てた作戦が上手く言ったためしは一度もないが。

 そんなキマイラだったが、誰かにリヒトとの婚約を破棄しろと言われたのはこれが初めてだった。

 そのため、まだよく理解できていないキマイラに少年は饒舌に語った。

「いや、それというのも。実は俺の妹は元々あの王子の婚約者候補だったんだけどさ、君が先に婚約を取り付けたせいでその話が無しになって。だから次の婚約者を探そうとしたんだけど、あそこまでの優良な相手はそうそういない。それに妹はもう王子の顔に完全に惚れてて、他の男の事なんて考えられないって泣きわめくほどだ。そこで、君が彼との婚約を放棄さえしてくれれば、また妹に婚約の機会が回ってくるかもしれないって考えた俺がこうしてやって来たって訳。」

「あ、ああ、成程。そういうことでしたの。では、貴方は彼が王子だということはご存知なんですのね?」

「妹の見合いで何度かあったからね。で、どう?勿論、君がYESって言ってくれさえすれば、次の婚約者探しの手伝う用意くらいはあるけど?」

「・・・。」 

 すぐに返答せず、黙り込んだキマイラに少年は溜息をついた。

 当たり前だ。

 普通の令嬢であれば、見知らぬ相手から唐突に婚約者との婚約を破棄しろ、などと言われれば誰でも返答に困る。それも、リヒトのような王族、美男、好成績などと言う優良物件であれば尚更だ。

 もう一度言っておこう。普通の令嬢であれば。

「はあ。まあ、そんなにあっさり喜んでなんて言ってくれる訳な、」

「そうしたいのは山々なんですけど、私から婚約破棄は出来ないんですのよ。」

「やっぱりそうだよね・・・ん?そうしたいのは山々って、」

「もう何度かお父様に掛け合ったんですけど、ダメでしたの。だから今はハインツさんに嫌われて、彼の方から婚約破棄してもらおうと試みているんですけれど・・・、」

「え?き、嫌われ・・・?王子に、態々?ちょ、ちょっと待って。俺の頭の方が追いつかな、」

「この半年間全く上手くいった試しがないんですの。」

「ん!?」

「毎日、毎日、どうやったら嫌いになってくれるのか考えているのに。幾ら作戦を立てても笑って受け流されるし、最近はハインツさんが反撃までしてくるようになって・・・ううっ。」

「な、泣いてる?泣いてるの?」

「先週なんて・・・彼、私に何て言ったと思います?」

「え、えーと。君があ・・・嫌いになった、とか?」

 先週の事である。

 その日もリヒトに惨敗して、涙目になっていたキマイラにリヒトはにこやかにこう言った。

『最近、貴方が仕掛けて来る嫌がらせ?が日々の楽しみになっています。ふふっ、一生懸命な貴方の表情は見ていて癒されます。』


「て言ったんですのよおおおおお!!」

「ただの惚気!!」

「私が一生懸命考えた作戦を日々の楽しみって!しかも、嫌がらせのあとに?マーク付けるなんてえ!!本っ当何なんですの!?しかも、癒されるなんて、私はあの人専用のセラピストかなんかですの!?」

「いやいや、良い婚約者じゃない?君の嫌がらせを前向きにとらえてくれて、」

「それだけでも屈辱なのにその後、私、足をくじいて動けなくなったんですけれど。」

「阿保なの!?やっぱり君、ピーマン頭だよね。」

「誰がピーマン頭ですのよ!それで、その後彼、私の事、」

「な、何?」

 少年が生唾を飲み込んだ。

 最早、さっきまでキマイラをからかっていたクールそうな面影はどこへやら。

 二人の周りにはよく解らない緊張感が立ち込めている。

「お姫様抱っこして医務室まで運んだんですのよ!?解りますの?あんな状態で学院の廊下を歩かれた私の屈辱が!!まあ、助けて下さったことには大変感謝していますけれど!!」

「もう止めろお!!最早ただの惚気にしか聞こえないから!!婚約者自慢ならよそでやってくれないかな!?」

「は!?これのどこが婚約者自慢だって言うんですのよ!!」

「今の会話全てだよ!!」

 どうして最近のキマイラは初対面の相手と話すたびに酷く息切れするのだろう。

 寧ろ、普段ツッコミに回っているキマイラがここまでボケに回っていることも稀である。

 余程、リヒトに対するストレスが溜まっているのだろう。

 彼女の勢いに気圧されたらしく、キマイラよりも息切れが激しい少年が呼吸を整えようと深呼吸している。

 この会話が、キマイラのテンションに慣れているウィリアムとのことであったなら、ただキマイラが論破されて終わっていたことだろう。

 しかし、慣れない一般人にはかなり厳しいらしい。

 息切れをしながら、何か一人でぶつぶつ言っている。

「な、なんだこれ。聞いてた話とかなり違うぞ・・・?イエリエリは王子にぞっこんなんじゃなかったの・・・?」

「はあ・・・ど、どうかしましたの?はあ、」

「い、いや。なんでも、ない。」

 やっと呼吸が整ってきたらしい。

 お互いに軽く息を吐き出した後。

「わ、解った。じゃあこうしよう。俺もあんたが王子に嫌われるよう協力する。」

「と、言いますと?」

「俺はここに来るまで妹のために王子の情報を大量に集めてきた。好きな女性のタイプ、嫌いな食べ物、趣味、苦手なタイプ、まだまだある。その情報を君に提供してあげる。当然、必要なら作戦も一緒に建てよう。これなら、どう?」

「・・・。」

 しかし、キマイラはまたしてもすぐには返答しない。

 このパターンは前にも経験しているためだ。


 スピッツさんの一件で身に沁みましたもの!

 もし、また昔のハインツさんについての情報だったらまた彼に返り討ちにされてしまいますわ!


 今度はキマイラが息を飲み、恐る恐る訪ねた。

「それは、最新の情報ですのよね?昔のハインツさんについてのではなく、現在の。」

「?ああ、スピッツ王子の一件があったからね。うん、勿論、最新。」

 それを聞いた瞬間、キマイラは手に持っていたノートを再び床に落とすと両手で少年の両手を握りしめていた。

 少年の手からも先程拾い上げてキマイラの教材が落ちる。

「ん!?」

「宜しくお願い致しますわ!!」

 のちの少年曰く、その時のキマイラの目は、まるでたくさんのプレゼントを目の前にした子供の様に輝いていたという。

「お、おお。決まりだね、よろしく!」

「貴方、お名前は?」

「俺は、ティアート・ミトファー。二年だ。」

「あら、先輩でしたの。これは失礼をいたしましたわ。」

「いや、気にしなくていいよ、ピーマン頭。」

「その呼び方だけは止めて頂けますの?ミトファー先輩。ありがとうございますわ。」

 そう言いながらティアートは床に落ちたキマイラの教材をもう一度拾うと彼女に渡した。

「そう言えば、先輩はスピッツ王子のこともご存知なんですのね?それに一件って、」

「え!?あ、ああ、あの王子は図書室で会えば何でも教えてくれるからね。」

「ああ、それは確かに。」

「ぶなあ、口が滑った。」

「ん?」

「いや、何でもない。あ、このことは勿論、王子には内密に頼むよ。妹の婚約に傷が付いちゃいけないから。」

「はい!」

 キマイラが嬉しそうに返事をするとティアートは彼女に見えないようにニヤリと笑って、その場を去って行った。

 そんなことは知りもせず、上機嫌のキマイラは満面の笑みで協力者が増え合たことを喜んだ。

 しかし、ふと気づく。


 そう言えば彼、教材を何も持っていませんでしたわ。

 今から二年の教室にとりに戻るのでは、どう考えても間に合いませんし、そもそもどうしてこんな所に?

 ・・・授業!?


 キーンコーンカーンコーン

 

 そして、当然のことだが、廊下で長話をし過ぎたキマイラは午後の授業に遅れて罰則を受けたのであった。 

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