第5話 責念
ルシアンは詠唱を中断した。
魔族とはいえ相手は戦意喪失した知性ある種であり不必要な殺生は避けなければならない。
「やたら強い人間の武装集団が頻繁にここを通るので困っている。魔族は戦闘も知性も人間より上だが、それは一般論だ。われわれは戦闘員ではないから訓練は受けてないし、ここで静かに暮らしてるだけの農民だ」
リーダー格の魔族は嘆いた。
「そうか、それはすまなかった。国の意向で勇者隊がここを通らざるを得なかった。ところで少し休ませてもらいたい。できれば飲み物があると助かる。一人で攻撃担当してる分、消耗が激しいんだ」
ルシアンがそういうと小さな魔族の子供が薄紫の液体の入ったコップを運んできた。
「夜になるとあそこの小さな穴から月明かりが差し込むんだ。ここでは畑を耕していてわずかな月明かりでも光合成ができるグリムの実を栽培してる。このジュースはここで採れたグリムの実から絞ったんだ。ビタミン・ミネラル・食物繊維が豊富だから回復効果は高い」
おいしい。
さわやかな甘みと酸味のバランスが絶妙でルシアンは回復を実感した。
ふと、札が添えられた小さな盛土にルシアンは気づいた。
「あの盛土は?」
一瞬の間があった。
「弟夫婦とその子供の墓さ。弟の子供は優しい子でね、人間で言えば15歳くらい。弟の嫁は足が不自由で、子供がいつも気にかけていて母親の手伝いをする親孝行な子だったよ」
魔族は次第に肩を震わせ、大粒の涙を流し始めた。
「人間が襲ってきたとき、弟の子は母親の前で両手を広げて守ろうとした。そんな母子を容赦なく殺してったよ、カイザードって人間は……おれたちが何したっていうんだ、迷惑にならないようただ静かに暮らしてるだけじゃないか!」
束の間の静寂ののち
「感情的になってすまない。きみたちが野蛮人ではなくて良かった」
ルシアン勇者隊一行は盛土の前で手を合わせ、休息をさせてもらった礼をして少し重い足取りで遠征を再開した。




