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第九話 すきま風(前半)

 私が朝食を食べ終えると、食事担当(たんとう)メイドのリーナが近づいてきた。ああ。いつものようにテキパキと食器《しょっき》を片付《かたづ》けるんだろうと思っていると、意外《いがい》なことに話しかけてきた。

「レコア様、ちょっとよろしいでしょうか?」

「え? 何、リーナ?」

「はい。朝食を食べ終わったようですが、少々ここでお待ちいただけますか?」


 私は疑問《ぎもん》に思って、聞いてみた。

「え? どうして?」

「はい。クナ様とサワ様が、ぜひレコア様とお話をしたいそうです」

「え?! クナ様とサワ様が?!」


 クナ様と言えばこの国の第一王子の妃《きさき》で、サワ様は第二王子の妃だ。二人とは結婚式で少し挨拶《あいさつ》した程度で、あまり親《した》しくない。その二人が、私に話がある? 一体《いったい》、何だろう? まさか私を、いびりにきた?! おうおう。最近この城に入った新人のくせに、私たちを無視《むし》するとはいい度胸《どきょう》じゃねーか、とか?!


 いやいや。結婚式で少し挨拶した時は、二人とも気さくな感じだったけど。いやいや。結婚式で、いきなりいびる人はいないだろう。でももう、私はこのお城に入ったんだ。だからこの城での上下関係を、教えてやるわ! とか。ありえる、それは十分《じゅうぶん》ありえる。どうしよう?! 怖《こわ》いよー!


 と私がビビッていると、この食堂に二人の女性が入ってきた。それは間違《まちが》いなく、クナ様とサワ様の二人だった! クナ様は背が高く美人系で、今は黒いドレスを着ている。サワ様は背が低めで可愛《かわい》い系で、今は黄色のドレスを着ている。なのに、その二人の様子《ようす》が変だ。


 クナ様は明《あき》らかに怒った表情で、サワ様は何だか落ち込《こ》んだ表情だ。な、何があったんだ?! とにかく私は何でも言うことを聞くので、いびらないで下さーい! と私がビビッていると、早速《さっそく》クナ様が言い放《はな》った。

「全《まった》くこの城の高官《こうかん》たちときたら、私たちの顔を見れば『お世継《よつ》ぎの男の子を産《う》んでください、産んでください』ってうるせーよ! だったら、テメーが産めっての! 産めねーくせに! 大体《だいたい》私はもう、男の子と女の子を一人づつ産んでるっつーの! それでも『お世継ぎの男の子は多いほどよいのです』とか、マジうぜー!」


 え? 何だか生々(なまなま)しい話だけど?……。 と私がポカンとしていると、クナ様が近づいてきた。

「ちょっと聞いてよ、レコアちゃん! 私たちがここにくる時、ばったり高官に会っちゃったのよー! そしたらその高官がサワちゃんに、こう言ったのよ! 『一人目は女の子だったので、二人目の今回は男の子を期待します』って! なによそれー! 産まれてくるのが男の子か女の子なんて、分かる訳《わけ》ないじゃん! あ。サワちゃんは今、妊娠《にんしん》三か月なの。だから私は、言ってやったわ! そんなに男の子が欲しけりゃ、テメーが産めって! あー、でもまだモヤモヤするー!」


 なるほど。それでクナ様は怒っていて、サワ様は何だか落ち込んだ表情なのかと私は納得《なっとく》した。するとサワ様も私に近づいてきて、まずはクナ様が挨拶をしてきた。

「あ、とにかく久《ひさ》しぶりー、レコアちゃん。結婚式の時以来(いらい)だねー。もうちょっと早くきて色々(いろいろ)話したかったんだけど、ちょっと忙《いそが》しくてー。で、レコアちゃん。お城の生活はどう? もう慣《な》れた?」


 ほっ。どうやら二人は、私をいびりにきた訳ではなさそうだ。それでころか、私を気遣《きづか》っているようだ。なので私も、丁寧《ていねい》に挨拶をした。

「はい。こちらこそ、お久しぶりです。クナ様、サワ様。私もお二人と色々とお話をしたかったんですが、やはり私も少々忙しかったもので。でもこうしてお二人とお近づきができて、嬉《うれ》しく思います。あ。お城での生活ですが、メイドたちとも親しくなって段々慣れてきています」


 するとクナ様は、うんうんと頷《うなづ》いた。

「そっかー、メイドたちとも親しくなったのかー。うん、それはいいねー。やっぱり女同士《おんなどうし》じゃないと、話せないこともあるしねー。女同士、団結《だんけつ》しなくちゃねー。とにかくレコアちゃんが、元気そうで良かったよー。あ。それと私たちには『様』とか付けなくていいからー、堅苦《かたくる》しいからー。『さん』でいいよー。ね、サワちゃんもそれでいいよね?」


 するとサワ様は、静かに微笑《ほほえ》んだ。なるほど、そうなのか。どうやらクナさんは豪快《ごうかい》と言うか、姉御肌《あねごはだ》の性格のようだ。そしてサワさんは、ちょっと大人《おとな》しい性格のようだ。と私が考えていると、クナさんは説明した。

「それにしてもさっき私が大きな声を出して、ビックリしなかった? レコアちゃん? まあこの城で第一王子の妃なんかやってると、こうなるってことで。いや、元々私がこういう性格だっていうのもあるけどね! はははは!」


 そしてサワさんは、やはり静かに微笑んでいた。うん。やはり二人の性格は、私が予想《よそう》した通りのようだ。するとクナさんは、右手をサワさんのお腹《なか》にあてた。

「とにかく、男の子でも女の子でもいいから元気に産まれてきてね! それだけで十分だから!」


 うんうん、そうだよね。それが、一番だよね。なので私も、サワさんのお腹に右手を当てて呟《つぶや》いた。

「元気な子供が産まれてきますように……」


 するとクナさんは、ニカっと笑った。

「はは。やっぱりレコアちゃんは良い娘《こ》だ。よし。私たち三人、団結してこの城で生きて行こう!」

「はい!」


 そして私たちは、微笑み合った。うんうん。クナさんとサワさんと、親しくなれて良かったなー。でも私と旦那様《だんなさま》の間《あいだ》には、すきま風が吹《ふ》いてるよ。うん? すきま風? よし。今日はこれで行こう!

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