第七話 スキル(前半)
朝。食堂で朝食を食べ終えた私は、やはり考え込んでいた。今日はどうやって、旦那様に『スキ』と言わせようかと。しかし、と私は考えた。まさか旦那様が、私が旦那様に『スキ』と言わせようとしていることに気づくとは。いや。いつかは、気づくのではないかと思っていた。でもそれが、こんなに早いとは驚きだ。さすが、旦那様だ。さすがこの国の内政を一人で担当している、第三王子だ……。
いや。こうして旦那様に、感心している場合ではない。なぜなら私は旦那様に『スキ』と言わせ続けて本当に私のことを好きになってもらって、この形だけの白い結婚から抜け出したいからだ。そのためにも今日も旦那様に、『スキ』と言わせなければならない。さて。今日はどうやって旦那様に、『スキ』と言わせようか……。
と、ふと気づくと私の前から食器類がなくなっていた。私はもう朝食を食べ終えたので、メイドのリーナが食器を下げてキッチンで食器を洗っているハズだ。だがその、食器を下げたリーナの姿を見た記憶が無い。きっと私が、ずっと考え事をしていたからだろう。そして私は、ふと考えた。取りあえずリーナと、話をしてみようと。そうすれば気分転換にもなるし、良いアイディアが出るかも知れないからだ。
そう考えて私は、この食堂の隣にあるキッチンに向かった。でもそこには、リーナの姿は無かった。その代わりに、金色の髪を肩まで伸ばした別のメイドがいた。そしてそのメイドは、紅茶セットを用意していた。なので私は、思わずそのメイドに声をかけた。
「あら、あなた。もう、紅茶の用意をしているの?」
するとそのメイドは、恐縮しながら答えた。
「え、あ、はい。もうじき午前一〇時なので、そろそろ用意をしなければと思いまして……」
なるほど。するとこのメイドはきっと、今まで旦那様に紅茶セットを執務室まで持って行っていたんだろう。それにしてもこのメイド、見覚えがあるわね……。と記憶を辿った私は、思い出した。そう言えば数日前に、私がこのメイドの代わりに紅茶セットを旦那様の執務室に持って行ったことを。でもその時は、このメイドから名前を聞いていなかった。でもできれば私は、このメイドとも仲良くなりたい。そうすれば、話し相手になってくれるだろうから。だから私は、名前を聞いてみた。
「それじゃあ、あなたの名前を教えてくれない?」
するとそのメイドは、やはり恐縮しながら答えた。
「え、あ、私ですか? はい。私は、ユリーと申します。よろしくお願いします、レコア様」
「なるほど、ユリーね。こちらこそ、よろしく」
と答えた後で、私は聞いてみた。
「ところで、リーナがいないようだけど。あなた、リーナが今どこにいるのか知らない?」
「あ、はい。リーナさんは朝食の仕事が終わったので今は、畑で仕事をしています」
なるほど。やはりリーナはすでに、仕事を終わらせたようだ。なので私は、ユリーに質問してみた。
「今までは、あなたが旦那様の執務室に紅茶セットを持って行っていたの?」
「は、はい」
「そう。でもこれからは、できるだけ私が旦那様の執務室に紅茶セットを持って行きたいからそうさせて?」
「え? あ、はい」
ふう。まずは、これでよし。そして私は、ユリーに質問を続けた。
「ところであなたは、ここで働いてどのくらいになるの?」
「は、はい。えーと、二年ほどです。今もリーナさんに、色々と仕事を教わっている最中です」
「なるほど。リーナはここを、取り仕切っているメイドなの?」
「え? ええ。そうですね、そんな感じです」
なるほど。リーナは仕事をテキパキとこなして、できる女性だと思っていたけど、ここを取り仕切っていたのか。今のところ私とリーナの関係は良いと思うから、これからもそうしよう。いや。できればもっと、関係を良くしたい。メイドと対立しても、何のメリットもない。下手をすると、仕事に手を抜かれることもあるからだ。逆に関係が良くなれば、メイドしか知らない情報も手に入るからだ。私が今まで住んでいた実家にも、やはりメイドがいた。そこで得た、教訓だ。
そして私はまだ、この城にきて一週間くらいしか経っていない。つまり、この城の中のことをほとんど知らない。だからこの城の中のことを知りたいときは、リーナに聞こうと考えた。でも、とふと考えた。今ここにいる、ユリーとも関係を良くしておこうと。やはりメイドとは対立するよりも、良い関係でいたい。なので私はまず、ユーリに礼を言った。
「今まで旦那様の執務室に、紅茶セットを持って行ってくれてありがとう。でもさっきも言ったけど、これからは私が持って行きたいの。別に、あなたの仕事に不満があるとか、あなたの仕事を奪う訳じゃないことは分かってほしいの」
「は、はい」
そして私は、話を続けた。
「私は、あなたの仕事を評価しているわ。だからもこれからも、紅茶セットの用意はしてほしい。ただ、旦那様の執務室に持って行くのは私がしたいわ」
するとユリーの表情は、少し和らいだ。
「あ、ありがとうございます。それではこれからは、そうさせていただきます」
「ええ。お願いするわ」
ふう。これで、いいだろう。実際私は、ユリーの仕事を評価していた。今までユリーが用意してくれた紅茶セットで紅茶を飲んでいたが、それはとても美味しかったからだ。私にも同じように用意できるか、自信が無い。やはりそのスキルは私より、ユリーの方が上だろう。
と、ふと考えた。スキルか、よし。今日はスキルと言う言葉を使って旦那様に、『スキ』と言わせよう!




