第五話 スキップ(前半)
朝食を食べ終わり、私は食堂でボーっと考えていた。今日はどうやって、旦那様に『スキ』と言わせようかと。でも全然、良いアイディアは思いつかなかった。あー。ホントに今日は、どうしよう……。すると一人の、金色の髪をポニーテールにしたメイドが近づいてきた。
「レコア様。お食事が終わったようなので、食器を下げてもよろしいでしょうか?」
「え? ああ、はい。構いませんよ」
「それでは、失礼いたします」
とメイドは、朝食の食器を片付け始めた。それを見ていた私は、ふと思いついた。そう言えば私は、このメイドの名前を知らないと。なので、聞いてみた。
「あの、ちょっといいかしら?」
「はい。何でしょう?」
「今更で申し訳ないんだけど、あなたの名前を教えてほしいの」
「はい。私は、リーナと申します。これから、よろしくお願いします」
「ええ。こちらこそよろしく」
そうしてリーナは、食器をお盆に載せると隣のキッチンに移動した。私はなんとなく、その後をトコトコと付いて行った。するとリーナは、かまどの横で食器を洗いだした。そんなリーナに、私は恐る恐る声をかけてみた。
「あの、リーナ?」
「はい。何でしょう?」
「仕事中に悪いんだけど、少し話しかけてもいいかしら?」
「はい。どうぞ」
よし。これで話し相手ができた。それにしてもリーナは、冷静で淡々と仕事をこなすタイプのメイドのようだ。まあ、いいけど。なので私は早速、リーナに質問をしてみた。
「ねえ、リーナ。あなたはここで働いて、どれくらいになるの?」
「はい。約五年です」
「へー。ねえ、ここの仕事は大変?」
「まあ、そうですね。最初は覚えることが多くて大変でした。でも今では、ほとんどの仕事を覚えてしまったのでそれほど大変ではありません」
「なるほど」
と、そこまで質問して私はリーナのことを少し分かったような気がした。そして、考えた。私ばかりが質問するのは、どうだろうかと。なので私は、リーナに聞いてみた。
「ねえ、リーナ。私ばかり質問しちゃあアレだから、あなたから私に何か質問はある? 何でも答えるけど?」
するとリーナは、背中を向けたまま食器を洗いながら答えた。
「いえ、ございません。レコア様はこの首都で一番裕福な貴族の令嬢で、現在はタクト第三王子の妃です。それ以上の情報は、必要ありません」
「あ、そう……」
ホントにリーナは、冷静な性格のようだ。まあ、いいけど。ちゃんと仕事をしているし、私の質問にもちゃんと答えてくれたから。そこまで考えた私は、思いついた。リーナに、旦那様のことを聞いてみようと。
「ねえ、リーナ?」
「はい。何でしょう?」
「あなたに、ちょっと聞きたいんだけど。あなたは、私の旦那様のことをどう思う?」
「タクト第三王子ですか……」
するとリーナは、少し考えていたのだろう。少しの間の後、リーナは答えた。
「私はタクト第三王子を、大変優秀な方だと思っています。なにしろお一人で、このミスマ王国の内政を担当しておられるので」
「え? そうなの?!」
と私は思わず、声を上げてしまった。そう言えば私は、旦那様が何の仕事をしているのか全然知らなかった……。はあ。私はもっと旦那様と、お話をする必要があるな。もっと旦那様のことを、知らなければならないな……。そこまで考えた私は、思いついた。リーナに旦那様のことを、もっと質問してみようと。旦那様に直接聞いてみる手もあるけど、今はもっとリーナと話をしてみたいから。
「ねえ、リーナ?」
「はい。何でしょう?」
「旦那様は食事を自分の部屋で食べているようだけど、ちゃんと食べているかしら? あなた、知ってる?」
「はい、もちろんです。私はこの居住区の食事を担当しているメイドで、タクト第三王子にも食事を用意させていただいているので」
「え? そうなの?!」
なるほど、そうなのか。それならば、話は早い。私は更に、リーナに質問した。
「それで、どうなの? 旦那様はちゃんと、食事を取ってる?」
「はい。朝、昼、晩と私が用意した食事を全て召し上がっていらっしゃいます」
「あ、そうなんだ」
そう聞いて私は、少しホッとした。やはり食事は、大事だと思うから。だからリーナが用意した食事を全て食べていると聞いて、私はホッとした。そして、考えた。そしたら旦那様には、好き嫌いはないのだろうか? そう聞いてみると、リーナは答えてくれた。
「そうですねえ……。タクト王子は、野菜が苦手なようです。でもその分、果物を多く召し上がっていただくようにしています。まあタクト王子もいい大人なので、今になって好き嫌いを克服するのは難しいでしょう」
「な、なるほど……」
とリーナの答えを聞いて、私は安心した。旦那様は野菜が苦手なようだが、リーナに任せておけば栄養の心配はないようだからだ。それにリーナと話ができたことは、私にとっても収穫だ。これから分からないことがあったら、リーナに聞けば良さそうだからだ。
そう考えると、私のテンションは自然に上がった。あーもー、嬉しい! 嬉しすぎて、スキップしたいくらいだわ! あ、そうだ! 今日は、これで行こう! 今日はスキップで、旦那様に『スキ』と言わせよう!




