↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/39

第四話 鋤(後半)

 でも旦那様《だんなさま》の執務室《しつむしつ》に行く前にまず、私はキッチンに寄《よ》った。紅茶セットを、持っていくためだ。するとすでに金色の髪を肩まで伸ばしたメイドが、紅茶セットの用意をしていた。なので私は、メイドに声をかけた。

「紅茶セットの用意、ありがとう。でも旦那様の執務室には、私が持って行きますわ」


 するとメイドは、申し訳なさそうな表情になった。

「え、あ? そ、そうですか?……。でも、それは申し訳ありません。確か紅茶セットは、昨日《きのう》もレコア様に持って行っていただいたので……」


 そう言われて、私は言い訳《わけ》した。

「あー、いいんです。ほら。あなたたちメイドは、畑の仕事で忙《いそが》しそうですので。それに私も、何か仕事をしたいので」


 やはり私はメイドに、旦那様との結婚は形だけの白い結婚なので、それから抜《ぬ》け出すために旦那様に『スキ』と言わせるためだとは言えなかった。でもメイドは、言ってくれた。

「そ、そうですか、分かりました。それではタクト王子に紅茶セットを持っていくのは、レコア様にお任《まか》せします」

「はい、ありがとう」


 でもメイドは、疑問《ぎもん》の表情になった。

「あ、あの。それは良いんですが、なぜレコア様は鋤《すき》を持ってらっしゃるんですか?」

「え?」


 マ、マズイ。やっぱりメイドに、これを使って旦那様に『スキ』と言わせるからとは言えない……。なので私は、必死に言い訳した。

「え、えーとこれは……。あ、そう! そう! 今日は旦那様と、鋤について熱く語り合いたいからです!」


 するとメイドは、ポカンとした表情になった。

「え? タクト王子と鋤について、熱く語る?……」


 なので私は、再び言い訳した。

「そ、そう! 今日は、そういう気分なんです! オホホホホ!」

「は、はあ……」

「と、とにかく、その紅茶セットは私が持って行きます! それじゃあ!」


 と私は左手に紅茶セットを載《の》せて右手に鋤を持ってキッチンを出て、二階の旦那様の執務室に向かった。右手に鋤を持ったままドアをノックすると、中から「はい」と返事《へんじ》がした。なので私は、中に入った。すると紺色《こんいろ》の正装《せいそう》をした旦那様は、驚《おどろ》いた表情になった。

「あ、レコアさんでしたか……。って、ええ?! なぜ鋤《スキ》を持っているんですか?!」


 よし。まずは旦那様に一回、スキと言わせたわ。いやいや。それはそれとして、言い訳しなければ。うーん……。やっぱり、アレしかないか。私は鋤を頭上《ずじょう》に掲《かか》げると、言い放った。

「はい! 今日は旦那様と、鋤について熱く語り合いたいと思ったんです!」


 だがやはり、旦那様はポカンとした表情だ。

「は、はあ。鋤《スキ》について、熱く……」


 よし。これで旦那様に二回、スキと言わせたわ……。と少し満足していると、私はとんでもないことに気づいた! ま、まさかこれは?……。よし、やってみよう。いや、やるしかない! そして私は、旦那様に聞いてみた。

「御覧《ごらん》の通《とお》り、これは鋤です。そしてそれを、誰《だれ》が持っているでしょうか?!」

「え? もちろん、レコアさんですよね?」

「そうです! その通りです! つまり誰が、何を持っていますか?!」

「えっと……。レコアさんが鋤《スキ》を持っています……」


 な、何と言うことだ……。私は自分の才能《さいのう》の恐《おそ》ろしさに、軽くめまいを感じた。今日は旦那様に『スキ』と言わせるだけでなく、『レコアさんがスキ』と言わせてしまった! お、恐ろしい。自分の才能が、恐ろしい……。でも私は、満足した。もちろん旦那様に、『レコアさんがスキ』と言わせたからだ。だから私は、上機嫌《じょうきげん》で旦那様に告げた。

「さあさあ、旦那様。もうすぐ、午前一〇時ですわ。なのでちょっと紅茶を飲んで、休憩《きゅうけい》しませんか? ちょっと休憩なさった方が、お仕事もはかどると思いますよ?」


 すると旦那様は、ちょっと考える表情になった後《あと》に答えた。

「それもそうですね。それではちょっと、休憩しましょう……」


 そして旦那様は立ち上がり、こちらに向かってきた。だがその途中、真剣《しんけん》な表情でピタリと止まった。そして警戒《けいかい》した表情で、私を見つめた。あれ? どうしたんだろう? と考えた私は、すぐに気づいた。なので私は、旦那様を安心させた。

「ご安心ください、旦那様。今日は私は、旦那様に向かって正拳突《せいけんづ》きを放《はな》ったりいたしませんから」

「は、はははは。今日は、ですか。できればもう二度と、正拳突きを放ってほしくないんですが……」


 さあ。それは旦那様しだいです。それはさておき、私は二つのカップに紅茶を注《そそ》いで一つを旦那様に勧《すす》めた。すると旦那様は早速《さっそく》、一口《ひとくち》飲んだので、私も一口飲んだ。ああ。こうしていると、私たちは普通の仲《なか》が良い夫婦みたいなのに。どうして私たちは、白い結婚をしているんでしょう?……。


 と私は疑問に思ったので、旦那様に聞いてみた。

「あの、旦那様?」

「はい」

「旦那様は、女性が苦手なんですよね?」

「え? あ、はあ……」

「なので今まで、独身《どくしん》だったんですよね?」

「は、はあ……」

「それではなぜ、今こうして私と普通に紅茶を飲んでお話をしているんですか?」

「え? えーと、それは……」


 そうして旦那様は、少し考え込んだ表情になった。そして、答えた。

「多分《たぶん》ですが、昨日のことがあったからでしょう。昨日、私はレコアさんに正拳突きを見せられましたから。私は今まで、正拳突きをする女性を見たことがありません。なので私はレコアさんのことを、今まで私が見てきた苦手な女性ではなく特別な女性だと思っているのかも知れません……」


 ふーむ、なるほど。つまり旦那様が私に女性を感じたら、私は正拳突きを旦那様に見せて特別な女性だと思わせれば良いんですね。なるほど、なるほど。って、そんな訳あるかああああ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。