第三話 鋤(前半)
朝。私は一人きりの部屋で、目を覚ました。この部屋には私一人しかいないのに、ムダに広い。まあ私がこの国のタクト第三王子の妃だから、仕方が無いのかも知れないが。見回してみると鏡台にクローゼットに、白くて丸いテーブルなどが置かれている。
私は取りあえずシルクの寝間着を脱ぐと、赤いドレスに着替えた。そして私と旦那様の居住区の、食堂に向かった。でもやはりそこには、旦那様はいなかった。何でも旦那様の話によると、自分は一人の方が気楽で好きだから食事は自分の部屋に持ってこさせて食べているそうだ。
なので私は結婚してから朝食、昼食、夕食もここで一人で食べていた。もちろん私としては、旦那様と一緒に食べたいが……。いや、と私は考えた。そうするためにまず、旦那様に私のことを好きになってもらおう。そのために今日も旦那様に、『スキ』と言わせよう。そう考えて私は、パンとコーンスープと目玉焼きとソーセージの朝食を済ませた。
そして自分の部屋に戻った私は、ベットに仰向けになって考えた。さて、今日は旦那様にどうやって『スキ』と言わせようかしら……。と考えてみたが、良いアイディアは浮かばなかった。そこで、この居住区を歩き回ってアイディアを出すことにした。
まずここは、ミスマ王国の城の中だ。そしてこのお城は三階建てで、五つに分かれている。真ん中に、王と王妃が住む居住区がある。そこにはその他に、広い会議室や玉座の間などがある。そして王と王妃が住む居住区の右には、この国の第一王子と妃が住む居住区がある。そこには第一王子と妃の部屋や、第一王子の執務室などがある。
更に第一王子と妃が住む居住区の右に、旦那様である第三王子と妃の私が住む居住区がある。そこには私たちの部屋、旦那様の執務室、この居住区のキッチンや食堂などがある。
そして王と王妃が住む居住区の左には、第二王子と妃の居住区になっている。更にその左は、軍部が使用する建物になっている。こうしてこのお城は、五つに分かれている。
なので私は、この私と旦那様の居住区で、旦那様を『スキ』と言わせるアイディアを出そうとした。やはり別の居住区には王と王妃、第一王子と妃、第二王子と妃が住んでいるからだ。もちろん私は第三王子の妃なので、彼らと一応の挨拶はした。でもまだ、馴染めていない。なので彼らの居住区で出会ってしまったら、何を話していいのか分からない。なので彼らと馴染むまでは、彼らの居住区には行かないことにした。
私はまず、自分の部屋から出た。この居住区は、三階の建物だ。三階に、私と旦那様の部屋がある。二階に、旦那様の執務室などがある。そして一階に、キッチンや食堂がある。なので私は、一階に下りた。三階には、アイディアになりそうなモノは無い。そして二階は旦那様の執務室があるので、仕事の邪魔をしたくない。なので消去法で一階に下りて、旦那様に『スキ』と言わせるアイディアを出そうとした。
そして私はまず、食堂を覗いてみたが誰もいなかった。さっき私が朝食を食べたのだが、それだけなのですでにお城のメイドがキレイに後片付けしたようだ。一応、食堂の中に入って見回してみたがアイディアになりそうなモノは無かった。
なので次は、キッチンに行ってみた。でも、誰もいなかった。やはりまだ朝食が終わったばかりで、昼食の準備をするのは早すぎるからだろう。中を見回してみると、かまどや大きな鍋などがあったがアイディアになりそうなモノは無かった。
うーん、どうしようか?……。と考えた私は、この居住区を出てみることにした。そう言えばまだこの居住区から出たことはほとんどなかったし、外に出てみれば何かアイディアになりそうなモノがあるかも知れないからだ。そう思って居住区から出てみると、そこには広めの畑が広がっていた。
見てみると黒いメイド服を着た数人のメイドたちが、畑の手入れをしていた。順調に野菜が育っている畑で、草取りや水やりをしていた。なるほど。今の時間、メイドは畑で働いていたのか。そしておそらく、この畑で収穫された野菜を使って料理を作っているのだろう。うーん、なるほど……。
そして私は、メイドたちに声をかけてみようと思ったが止めた。仕事中だし、私はまだメイドたちと親しくなかったからだ。でもやはり、メイドたちと親しくなりたい。そうすれば話し相手になってくれるだろうし、メイドしか知らない色々な情報も聞けるだろうからだ。
でも今、メイドと親しくなるのはちょっと無理かな。でも、まあいい。時間は、たっぷりある。少しずつ、メイドと話ができるくらい親しくなっていこう。そう考えてふと見ると、畑の端に木製の棒のようなモノを見つけた。でもよく見てみると、それは棒ではなく鋤だった。スコップに似た、田畑を耕す道具の鋤だった。
その鋤を見つけた私は、ひらめいた。こ、これだわ! 今日はこの鋤を使って、旦那様に『スキ』と言わせよう! そうして鋤を握って私は、旦那様の執務室に行くことにした。




