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第二話 隙(後半)

 なので私は、焦《あせ》った。マ、マズイ。早く結婚しないと……。と私が焦っていると、何とこの国の第三王子であるタクト様からお見合《みあ》いの話が舞《ま》い込《こ》んできた! なので私は、決意した。このチャンスを、絶対に逃がさないと!


 お見合いは、お城で行われた。私は何度かお城には、パーティーなどできたことがあった。でもお見合いが行われたのは、私が一度も入ったことがない豪華《ごうか》な来賓室《らいひんしつ》だった。広い部屋で天井《てんじょう》にはシャンデリアが吊《つ》るされて、真ん中には白くて丸いテーブルが置かれていた。そしてそれを挟《はさ》むように、向かい合って二つのイスが置かれていた。


 更に二人のメイドがいて、その内の一人が頭を下げた。

「ようこそいらっしゃいました、レコア様。タクト王子は間《ま》もなくお見えになるので、少々お待ちください」

「は、はい。ありがとうございます……」


 と私は少し緊張《きんちょう》しながら、イスに座った。するとすかさずもう一人のメイドが、私に紅茶を入れてくれた。「ありがとうございます」と礼を言って、私は紅茶を一口《ひとくち》飲んだ。そしてその美味《おい》しさに、驚《おどろ》いた。私は首都《しゅと》で一番裕福(ゆうふく)な貴族の令嬢《れいじょう》なので、もちろん家では高級な紅茶を飲んでいた。でも今飲んでいる紅茶はそれよりも味に深みがあり、美味しかった。さ、さすがお城で出される紅茶は違うと、私は驚いた。


 と私が紅茶に夢中《むちゅう》になっていると、この来賓室のドアが開かれてタクト王子が入ってきた。私はお城のパーティーで何度かタクト王子に会ったことがあるが、やはりイケメンだった。黒い短髪《たんぱつ》で、涼《すず》し気《げ》な目元《めもと》をしていた。そしてテーブルまで近づいてきて私と向き合うと、タクト王子は軽く頭を下げた。

「今日はお見合いにきてくださり、ありがとうございます、レコアさん」


 と丁寧《ていねい》な挨拶《あいさつ》をされたので、慌《あわ》てて私は立ち上がり頭を下げた。

「い、いえ。私の方こそお見合いのお話をいただいて、光栄《こうえい》です」


 そしてまずは挨拶が終わった私たちは、イスに座って向かい合った。するとメイドがタクト王子にも紅茶を注《そそ》いで、タクト王子は一口《ひとくち》飲んで満足《まんぞく》そうな表情になった。よし、今だわ。今はタクト王子も、機嫌《きげん》が良さそうだ。だから私は、質問をすることにした。このお見合いで、最も大事《だいじ》な質問を。

「あの、タクト王子。一つ質問しても、よろしいでしょうか?」


 するとタクト王子はカップをテーブルに置いて、爽《さわ》やかに微笑《ほほえ》んだ。

「はい、何でしょう?」

「どうしてタクト王子は、私とお見合いしようと思ったのですか?」

「え?」


 そしてタクト王子は、私から視線《しせん》をそらせた。え? どうして視線をそらすんですか? 何か私に言えない、やましい理由なんですか? その瞬間、私はピンときた。これは何かある! だから何としても、タクト王子が私とお見合いをしようと思った理由を聞かねばならない! 私は無言《むごん》で、タクト王子を見つめた。するとタクト王子は、私から視線をそらせたまま答えた。

「え、えーと……。あ、あれです! 私は以前お城のパーティーでレコアさんをお見かけして、キレイな人だと思ったんです!」


 ふむ、なるほど。普通の理由ですね。でも、それならなぜ私から視線をそらすんでしょうか? 気になった私は、タクト王子を問《と》い詰《つ》めた。

「タクト王子。他にも何か、理由があるんですか? それなら、ぜひおっしゃってください。これは、とても大事なことなので!」


 するとタクト王子は、観念《かんねん》した表情になって私を見つめて答えた。

「じ、実は他の貴族の令嬢の方々(かたがた)はほとんど結婚されていて、残っているのはレコアさんだけだったので……」


 ガーン! つまり私は、残り物《もの》ってこと?! 私しか残っていないから、仕方《しかた》なく私と結婚したいってこと?! く、屈辱《くつじょく》だわ……。でも私は、冷静に考えた。まあ、いいでしょう。まあまあ、いいでしょう。私は、二五歳だ。そしてこれが結婚する、最後のチャンスかも知れない。


 それに確か、タクト王子も二五歳だ。何だ、お似合《にあ》いではないか。私たち二人は、お似合いではないか! だったら、結婚しよう! できるだけ早く、結婚しよう! と私は、それだけを考えた。だから私は、その後《あと》タクト王子が呟《つぶや》いたことをほとんど聞いていなかった。でもタクト王子は、確かに呟いていた。


「実は私は、恋愛や女性が苦手《にがて》なんです。なので今まで、独身《どくしん》でした。でも最近、両親や兄たちに言われたんです。お前は第三王子だから、結婚しないと体裁《ていさい》が悪い。だから早く、結婚しろと。なので私は仕方なく、形だけの結婚をしたいんです……」


 というタクト王子の呟きをほとんど聞かずに、私はタクト王子と結婚することにした。結婚式は暑《あつ》さを感じ始めた七の月の上旬に、お城で豪華《ごうか》に行われた。


 そして私はお城で暮《く》らすことになったが、私とタクト王子の寝室《しんしつ》は別々だった。私には、ベットがある部屋を与《あた》えられただけだった。不審《ふしん》に思った私は、タクト王子に聞いてみた。

「あの、どうして私たちの寝室は別々なのですか?」

「はい。それは私が、女性が苦手だからです。そしてこれは、形だけの結婚だからです」


 な、何ーー?! この結婚は形だけの、いわゆる白い結婚?! や、やられた。どうにも話が上手《うま》すぎると思った! そうして私とタクト王子は食事も別々で、結婚してからほとんど接触《せっしょく》しなかった。そして結婚してから四日目の今日、私は決意した。タクト王子に私を好きになってもらって、この白い結婚から抜《ぬ》け出そうと。やはり私は、この白い結婚に納得《なっとく》がいかなかったからだ。タクト王子が私のことを好きじゃないなんて、この私のプライドが許さない。


 そしてまずは今日、私は旦那様《だんなさま》に三回も『隙《スキ》』と言わせることに成功した。よし、この調子《ちょうし》だ。この調子で明日も明後日《あさって》も旦那様に『好き(スキ)』と言わせて、私を本当に好きにさせてやる。そしてこの白い結婚から、脱出してやる!

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