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第一話 隙(前半)

 ゆ、許さないわ。白い結婚なんて、絶対に許さないわ。フフフ。だからまずは旦那様《だんなさま》に、好き(スキ)と言わせて見せるわ。フフフ……。そう決意して私は、左手に紅茶セットを載《の》せて右手で旦那様の執務室《しつむしつ》のドアをノックした。すると中から「はい」と返事がしたので、私は右手で執務室のドアを開けた。


 執務室は広めの部屋で、真ん中に低めの木製のテーブルと、それを左右から挟《はさ》んで二つの高級そうなソファが向かい合って置かれていた。おそらく来客《らいきゃく》があった時に、そのソファに向かい合って座って対応《たいおう》するのだろう。そして奥にはやはり高級そうな木製の机が置かれていて、私の旦那様であるタクト第三王子が書類を書いていた。


 私が執務室に入ると、旦那様は疑問の表情になった。

「おや? どうしました、レコアさん?」


 私は紅茶セットをテーブルの上に置いてから、丁寧《ていねい》に答えた。

「お仕事、お疲れ様です、旦那様。でももう、午前一〇時です。なのでちょっと紅茶でも飲んで、一休《ひとやす》みいたしたらどうでしょうか? 少し休まれた方が、お仕事がはかどると思いますが?」


 すると旦那様は、少し考える表情になった後に答えた。

「なるほど。それもそうかも知れません。なので、紅茶をいただきます」


 そして旦那様は立ち上がり、このソファに近づいてきた。チャーンス。私は旦那様の右側の空間《くうかん》に、正拳突《せいけんづ》きを放《はな》った。

「どりゃああああ!」

「うおっ?!」


 と慌《あわ》てた表情の旦那様に、私は丁寧に説明した。

「隙《スキ》だらけですわ、旦那様。もし私がその気なら、旦那様は大怪我《おおけが》をしていましたよ」

「隙だらけって! いやいや! まずはレコアさんがその気にならないでくださいよ!」


 はい。まずは一回。でも旦那様が反論《はんろん》してきたので、私は説明を続けた。

「いえいえ。旦那様はこの国の、第三王子。つまり、重要なお方《かた》です。なので国に不満を持つ、暴漢《ぼうかん》に襲《おそ》われる可能性もあります。その時のために、隙を作ってはいけないのです」

「いやいや! 執務室に入ってきて、いきなり正拳突きを放つ暴漢なんていないと思いますけど!」


 と再び旦那様に反論されたので、私は答えた。

「いえいえ。とにかく私は、旦那様はこの国の重要人物なので隙を作らないで下さいと言いたいのです」

「そうですか、隙ですか……」


 はい。二回目。私は旦那様に二回も『隙《スキ》』と言わせたので、心に余裕《よゆう》ができた。なので私は旦那様に、まずはソファに座って下さいと勧《すす》めた。すると旦那様が少し疲れた表情でソファに座ったので、私も向かい合ってソファに座った。そして二つの白いカップに、紅茶を注《そそ》いだ。その内の一つを旦那様に勧めると、旦那様は一口《ひとくち》飲んで呟《つぶ》いた。

「それにしてもレコアさんが、正拳突きを放てるなんて知りませんでしたよ……」

「はい。私は貴族令嬢ですが、護身術《ごしんじゅつ》を身に付けたんです」

「はあ。そうでしたか……」

「はい。なので私は、隙がある人を見かけると正拳突きを放つ性分《しょうぶん》になってしまったんです」

「いや、どんな性分?!」


 と旦那様がドン引《び》きしたので、私はフォローした。

「まあ、さっきのは軽い冗談《じょうだん》です。とにかく私は、旦那様に隙を作って欲しくないのです」

「な、なるほど。分かりました。隙を作らないように、注意します……」


 はい。三回目。私は満足したので、カップの紅茶を飲み干《ほ》した。ふと見てみると、旦那様も紅茶を飲み干していた。なので私はカップをお盆に載せると、立ち上がった。そして、軽く頭を下げた。

「それではお昼まで、お仕事を頑張《がんば》ってください、旦那様」


 そうして私は、この執務室を出た。ドアを閉めると、私は勝利の余韻《よいん》に酔《よ》いしれた。フフフ。やったわ。私は、旦那様に三回も隙《スキ》と言わせたわ。全《まった》く私ってば、罪《つみ》な女……。


 と私は勝利の余韻に浸《ひた》りながら、このお城のキッチンに紅茶セットを載せたお盆を置いて自分の部屋に戻った。そしてベットで仰向《あおむ》けになると、考えだした。ふう。まずは今日は、私の勝ちですわ。旦那様に三回も、隙《スキ》と言わせたから。でも、まだ私の気持ちは収《おさ》まらなかった。明日も明後日《あさって》も、旦那様に『スキ』と言わせなければ気が済《す》みません! そして旦那様に、本当に私を好きになっていただきます!


 それにしても、どうしてこんなことになってしまったんだろう? どうして私が、いわゆる白い結婚をすることになってしまったんだろう? そう考えていると、思い出した。なぜ私が、こうなってしまったのかを。


   ●


 ここは惑星《わくせい》ストラにある、ミスマ王国。そして私は、ミスマ王国の首都《しゅと》で一番裕福(ゆうふく)な貴族の令嬢《れいじょう》だった。更に私は、美人だった。目は切《き》れ長《なが》で、艶《つや》やかな金髪を背中まで伸ばしていた。なので年頃《としごろ》になると、当然《とうぜん》多くの男性からプロポーズされた。でもその男性はほとんど、貴族の令息《れいそく》だった。だから私は、プロポーズを断り続けた。


 なぜなら私は、この首都で一番裕福な貴族の令嬢だ。だから他の貴族は当然、私の家よりも裕福ではない。どうしてそんな貴族の令息と結婚しなければならないのかと、私はプロポーズを断ってきた。そうして気づくと私は、二五歳になっていた。

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