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第四十話 スキーム(前半)

 朝。朝食を食べ終えた私は、ずっとこの食堂《しょくどう》で待っていた。メイドの、ユリーと話をするために。ちなみに一緒《いっしょ》に朝食を食べた旦那様《だんなさま》は、もうここにはいない。きっと執務室《しつむしつ》で、仕事の準備をしているのだろう。更に食事も担当《たんとう》しているメイドのリーナも、いない。もうすでに私と旦那様の食器《しょっき》を下げてキッチンで洗って、今は畑仕事《はたけしごと》をしているだろう。


 そうして私は、メイドのユリーを待っている。キスマスターの、ユリーを。今まで何度キスをしたのか憶《おぼ》えていないほどの、キスマスターのユリーを!


 私は昨日《きのう》、ユリーからアドバイスされた。男性とキスをするには、ムードが大事だと。だから私は昨日旦那様とお茶を飲みながら、ムードを作った。私はエキスと言い、旦那様にも言わせた。つまり二人とも、『キス』と言った。これで私と旦那様がキスをするムードができたと思ったが、結局《けっきょく》はキスはしなかった。うーん、何が悪かったんだろう? 完璧な作戦だと思ったのに……。


 なので今日、私は再びユリーのアドバイスを聞こうと思っている。私と旦那様が、三回目のキスをするために! そうして待っていると、キッチンからカチャカチャという音が聞こえた。お。もうすぐ十時か。もうすぐ、お茶の時間だ。なので私はこの食堂に隣《となり》にある、キッチンを覗《のぞ》いてみた。するとやはりユリーは、紅茶セットの用意をしていた。よし。今日こそ旦那様と三回目のキスをするためのアドバイスを聞きだしてやる! 


 なので私はキッチンに入ると、ユリーにそっと声をかけた。

「お仕事ご苦労様《くろうさま》、ユリー。今日も美味《おい》しい紅茶セットを、期待しているわ」


 するとユリーは、紅茶セットを用意する手を止《と》めて私を見て答えた。

「は、はい、レコア様。今日もレコア様とタクト王子に満足《まんぞく》していただける紅茶セットを用意させていただきます!」


 なので私は、そんなユリーに声をかけた。

「あ。紅茶セットを用意する手は、止めなくていいから。私はちょっとあなたと、世間話《せけんばなし》をしたいだけだから」

「あ、は、はい」


 とユリーは再び、紅茶セットを用意し始めた。よし、これからだわ。これから上手《うま》く、旦那様とキスをする方法を聞きだしてやるわ! そして私は、ユリーに話しかけた。

「ユリー。あなたにちょっと、聞きたいことがあるんだけど?」


 すると今度はユリーは、紅茶セットを用意しながら答えた。

「は、はい。何でしょうか、レコア様」

「あなたは昨日、キスをするためにはムードが大事って言ったわよね。それ以外に、何か大事なことはある?」


 するとユリーは、少し考える表情になった後《あと》に答えた。

「えーと……。いや。やっぱりキスをするのに一番《いちばん》大事なのは、ムードだと思いますよ」


 うーん、そうなのか……。なので私は、質問を変えてみた。

「それじゃあ、ユリー。あなたはムードを作るために、どんなことをしてるの」

「えーと……。やっぱり、相手の話をちゃんと聞くことでしょうか?」


 うん? 何だろうそれは? 興味がわいた私は、ユリーに迫《せま》った。

「ちょ、ちょっとそれ、どういうこと?! 詳《くわ》しく聞かせて?!」

「えーと……。まずは相手の話を、ちゃんと聞くことです。そして、共感《きょうかん》することです。つまり相手の話を聞いたら、『うんうん、そうだよねー、分かるー』などの相槌《あいづち》を打《う》つことです。すると相手も自分のことを理解してくれたと思って、私に心を開いてくれます。そうして、良いムードを作るんです。私の場合は、そうしています」


 それを聞いて私は、ユリーを尊敬《そんけい》してしまった。な、なるほど! さすがキスマスター! 説得力があるわ! えーと。相手の話をちゃんと聞いて共感するのね。メモメモ……。するとユリーは、疑問の表情になった。

「あ、あの、レコア様?」

「なあに、ユリー?」

「最近のレコア様は、どうやってキスをするのかに興味《きょうみ》があるんですか?」

「え?」


 い、言えない……。この何回キスをしたのか憶えていないほどキスをしたキスマスターの前では、言えない。私は旦那様と二回キスをしたが、三回目のキスをするために話を聞いていることは言えない。何だか、プライドが傷《きず》つくからだ。なので私は、ごまかした。

「え、えーと……。あ、あれよ! 友だち! 友だちの話よ! その娘《こ》は彼氏と二回キスをしたんだけど、まだ三回目のキスはしてないの! だから、どうやったら三回目のキスができるんだろうって相談《そうだん》されたの! ちなみにその娘は彼氏と毎日のようにキスしたいんだけど、それもどうしたらっていいか相談されたの! そう、友だち! 友だちの話なの!」


 するとユリーは、一応納得(なっとく)したようだ。

「はあ、お友だちのお話でしたか……」

「うん、そう! そうなの! あはははは……」


 でもユリーは、鋭《するど》くツッコンできた。

「それなら、レコア様が直接アドバイスをして差《さ》し上げたらどうでしょうか?」

「え?」


 マ、マズイ。マズイマズイマズイマズイ! ご、ごまかさなきゃ。何とかして、ごまかさなきゃ! なので私は、必死《ひっし》にごまかした。

「あ、えーと……。ア、アドバイスね、アドバイス! も、もちろん私もしたわよ、アドバイスを! でもその娘は、上手く行かなかったの! だからこうして、あなたに聞いてみたの! うん、ありがとうユリー! 早速《さっそく》あなたのアドバイスを、友だちに伝えるから!」

「な、なるほど、そうでしたか……」


 とユリーは、今度こそ納得したようだ。ふ、ユリー。あなたのアドバイスは、決してムダにはしないわ。私は今日こそ、旦那様と三回目のキスをして見せる!

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