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第三十四話 透き見(前半)

 朝。私はボーッとしながら、朝食を食べていた。なぜなら昨日《きのう》、二回も旦那様《だんなさま》にキスされたからだ。わたしはそれで頭が一杯《いっぱい》で、ボーッとしていた。でも旦那様は、いつも通《どお》り普通に朝食を食べていた。なので私は、疑問に思った。旦那様は昨日、私に二回もキスしたことを何とも思ってないのだろうか? 私はそれで、頭が一杯になっているというのに……。


 そう考えると私は逆切《ぎゃくぎ》れして、旦那様に軽く怒りがわいた。本当に旦那様は今、何を考えているんだろう? できるなら、聞きたい。でも聞くのは、恥《は》ずかしい。『どうして昨日、二回もキスしたんですか?』なんて聞ける訳《わけ》ないよー! と私が悩《なや》んでいると、朝食を食べ終えた旦那様はこの食堂から出て行った。


 はあ、やっぱり聞けなかったか……。と考えながら、私も朝食を食べ終えた。すると食事も担当するメイドのリーナが、私たちの食器《しょっき》を下げるためにやってきた。なので私は、思わず聞いた。

「ねえ、リーナ。あなた、キスしたことある?」


 するとリーナは、いつも通り冷静な表情であいまいに答えた。

「さあ、どうでしょうか」

「えー、何よそのあいまいな答えは?!」

「まあ私のことはさておき、どうしましたかレコア様? つまり今レコア様は、キスについてお悩みですか?」

「まあ、そうなの。実は私は昨日、旦那様にキスされたの。それも二回も」


 するとリーナは、やはり冷静に答えた。

「そうですか。それはおめでとうございます、レコア様」


 リーナにそう言われて、思わず私は聞いた。

「そうなのかな? これって、おめでたいことなのかな?」

「はい。私はそう思いますよ、レコア様」

「どうして?」

「はい。タクト王子とレコア様が、本当の夫婦に近づいた証拠《しょうこ》だと思いますので」

「うーん、そうかも知れないけど……」

「それなのになぜレコア様は、お悩みなのですか?」


 そう聞かれて、私は考えた。あれ? 私って、何を悩んでたっけ? と考えた私は、思い出した。どうして旦那様が、私に二回もキスをしたのか、その理由だ。なので私は、リーナに答えた。

「どうして昨日突然(とつぜん)、旦那様が二回も私にキスをしたのかその理由を知りたくて……」

「なるほど。それではレコア様、実際にタクト王子にお聞きになってはどうでしょうか?」

「うん。それで、聞いてみたの。そしたら旦那様は、『私を自分のモノにしたいから』って答えたわ。もー、これってどういう意味?!」


 するとやはりリーナは、冷静に答えた。

「どうもこうも、そういう意味だと思います。おめでとうございます、レコア様」


 旦那様は、確かに私に言った。『私を自分のモノにしたい』と。確かにそれは考えるまでもなく、そういう意味だろう。でも私は、混乱《こんらん》していた。突然旦那様に、二回もキスされて。するとリーナは、真剣な表情で私に聞いてきた。

「それでは、レコア様に伺《うかが》います。レコア様はタクト王子に、これからどうしていただきたいんでしょうか?」


 そう聞かれて、私は考えた。私は旦那様に、どうして欲しい? 一生懸命に考えた私は、答えた。

「え、えーと……。私は旦那様に、もっとキスをしてもらいたいと思う。そうすれば私たちの心の距離《きょり》が、もっと近づくと思うから。そうして本当の夫婦になって、この白い結婚から抜け出すことができると思うから……」


 するとリーナは、とんでもないことを言い出した。

「なるほど。それでは、レコア様。タクト王子に、そう言ってみたらどうでしょうか? もっと、キスしてほしいと」

「いやいやいやいや! 無理無理無理無理! そんな恥ずかしいこと、言えるわけないよ!」


 だがリーナは右手の拳《こぶし》を力強く握《にぎ》り、力説《りきせつ》した。

「確かに少し、恥ずかしいかも知れません。でもレコア様がそう望《のぞ》むのなら、言ってみる価値はあると思います。なぜならそう言えばタクト王子は、レコア様にキスをする可能性が高いからです。いえ、きっとします。レコア様を自分のモノにしたいと言い、昨日レコア様に二回もキスをしたタクト王子ならきっとキスをするはずです!」


 え? そ、そうかな……。もし私が旦那様にキスしてほしいと言えば、してくれるかな?……。でもそれは、やっぱり恥ずかしい! っていうかこんなことばかり考えて、私はもう旦那様にどんな顔をして会えばいいのか分からない! と考えていると、リーナは私の気持ちを見透《みす》かしたようだ。

「レコア様は今、タクト王子と会うのが気まずいとお考えでしょうか? 確かに、そうかも知れません。でも、ここが勝負どころです。今日もタクト王子と一緒《いっしょ》にお茶を飲むために執務室《しつむしつ》で二人きりになって、キスをするのです! そうして二人は更に、本当の夫婦に近づくのです!」


 い、いや。それはどうだろう。私が旦那様の執務室でお茶を飲むのは、旦那様に『スキ』と言わせるためだ。断じて旦那様と、キスをするためではない! そう考えたが、やはり私は気が重くなってきた。今日は旦那様と、どんな顔をして会えばいいんだろう?……。

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