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第三十三話 一緒に夕食も食べましょう

 ミスマの塔《とう》から、お城に戻る途中《とちゅう》の馬車《ばしゃ》の中。私と旦那様《だんなさま》は、無言《むごん》だった。このミスマの塔の視察《しさつ》というデートは、ハッキリ言って大成功だった。突然《とつぜん》旦那様が、私にキスするくらい。そしてその後《あと》、私たちは無言で塔を降《お》りた。そうして今、馬車に乗っている。日はすっかり落ちて、暗闇《くらやみ》の中を馬車は進んでいる。


 私は、気になって気になって仕方《しかた》なかった。どうして旦那様が、私に突然キスしたのか。なのでその理由を、聞きたくて仕方が無い。でも私から、『どうしてキスしたんですか?』とは聞けなかった。なんだかとても、恥《は》ずかしいからだ。できれば旦那様から、説明してほしい。どうして私に、キスをしたのか。


 でも旦那様は、無言だ。そして私も、何を話したらいいのか分からずに無言だ。うーん。まずは、この二人とも無言なのを何とかしないと。なので私は、思いきって旦那様に話しかけてみた。

「あ、あの、旦那様……」

「あ、あの、レコアさん……」


 すると何と私たちは、同時に話しかけていた。なので私は、旦那様に譲《ゆず》った。

「あ、あの、旦那様からどうぞ」

「あ、あの、レコアさんからどうぞ」


 と私たちは、また同時に譲り合っていた。ああ、何だかタイミングが悪いなあ……。と思っていると、再び旦那様が譲ってくれた。

「あの。どうぞレコアさんから話してください」


 そう言われて私は、考えた。できれば、旦那様の話を聞きたい。私はただこの沈黙《ちんもく》を破るために、他愛《たあい》のない話をしようとしただけだから。でもここで旦那様に譲ってしまうと、また結局《けっきょく》二人とも話せないような気がした。なので私は、旦那様に話しかけた。

「さっき視察した、ミスマの塔は素晴《すばら》らしかったですね。あれならきっと、素晴らしい観光地《かんこうち》になるでしょう」


 すると旦那様は、うんうんと頷《うなづ》いた。

「はい。後は最上階《さいじょうかい》にレストランを作れば、更に素晴らしい観光地になるでしょう」

「は、はい。最上階に……」


 と私は、続きを話せなくなった。なぜなら最上階と聞いて、さっき私と旦那様がキスをしたことを思い出したからだ。今《いま》思い出しても、胸がドキドキする。旦那様が突然、私にキスをしたからだ。なので私は、やはりなぜ突然《とつぜん》旦那様が私にキスをしたのか、その理由が知りたくなった。でも聞くのは、何だか恥ずかしい……。と悩《なや》んでいると、今度は旦那様が話しかけてきた。

「あ、あの。レコアさん」

「は、はい!」

「このままお城に帰ると、ちょうど夕食の時間です。もしよかったら、夕食も一緒《いっしょ》に食べませんか?」

「え? 夕食も一緒に?……」


 取りあえず私は、コクコクと頷いた。もちろん旦那様と一緒に夕食も食べたいし、そうしてリラックスした時ならどうして私にキスをしたのか聞きやすいと思ったからだ。そうしていると馬車は、お城に着いた。馬車を降りた私と旦那様は、そのまま私たちの居住区の食堂に向かった。


 白いテーブルに私と旦那様が向かい合って座ると、食事も担当しているメイドのリーナは少し驚《おどろ》いた表情になった。私と旦那様が、夕食も一緒に食べようとしているからだろう。でも次の瞬間、いつもの冷静な表情に戻るとリーナは告げた。

「おかえりなさいませ、タクト王子、レコア様。それでは早速《さっそく》、夕食のご用意をいたします」


 そしてリーナはこの食堂の隣《となり》にある、キッチンに向かった。そうして少しして、私と旦那様の前に夕食を置いた。私にはパンとスープとサラダと焼き魚を。旦那様にはパンとスープと果物《くだもの》と焼き魚を。なので私たちはまず、夕食を食べることにした。

「「いただきます」」


 そうして夕食を食べながら、私はチラチラと旦那様を見た。私は旦那様に、どうして今日は私にキスをしたのか聞きたかった。そのタイミングを、見計《みはか》らっていた。でも旦那様は黙々(もくもく)と夕食を食べていて、そのタイミングを掴《つか》めない。それにふと見てみると、リーナが私たちの食事の様子《ようす》を見ている。自分が作った料理を、ちゃんと残さずに食べているのかチェックしているようだ。


 なので私は、ふとため息をついた。こんな状況ではとても、旦那様にどうしてキスをしたのかなんて聞けないと。すると旦那様は、疑問の表情で聞いてきた。

「どうしました、レコアさん。ため息なんかついて?」

「え? い、いえ。何でもありません……」


 と答えながら、私は考えた。旦那様には、もう一つ聞きたいことがあったことを。それは、どうして夕食も私と一緒に食べる気になったのかだ。うん、これなら聞いてもいいだろう。なので私は早速、聞いてみた。

「あの、旦那様。一つ伺《うかが》ってもよろしいでしょうか?」

「はい、何でしょう?」

「どうして私と一緒に、夕食も食べる気になったんでしょう?」


 すると旦那様は、少し考える表情になった後に答えた。

「やっぱり、心地《ここち》いいからです。朝食も昼食もレコアさんと一緒に食べて感じたんですが、やはりレコアさんと一緒にいると心地いいからです。なので一緒に、夕食も食べようと思いました」

「な、なるほど……」


 旦那様の答えを聞いて、私は満足《まんぞく》した。今はちょっと、どうして旦那様が私にキスをしたのか理由を聞くタイミングは掴めない。でも、それでもいい。こうして旦那様が、私と一緒に夕食も食べているからだ。よし、キスをした理由を聞くのは後にしよう。そう思いながら私は、夕食を食べ終えた。ふと見ると、旦那様も夕食を食べ終えた。なのでリーナは、私たちの食器《しょっき》を下げ始めた。


 とリーナがこの食堂からキッチンに食器を持って行った時、私に近づいてきた旦那様は説明した。

「そしてさっき私がレコアさんにキスをしたのは、あなたを私のモノにしたいからです」


 そして旦那様は、もう一度《いちど》私にキスをした。

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