第三十一話 透色(前半)
昼食を食べ終えて、私は自分の部屋で悩んでいた。どんなドレスを、着ようかと。なぜなら今日はこれから旦那様と、ミスマの塔に視察という名のデートに行くからだ。
前回私と旦那様がお城の畑で行ったのは、デートっぽいことだった。でも今日は、完全にデートだ! なぜなら旦那様が、そう言っていたからだ!
そして私は散々悩んだ挙句、白のフワフワのドレスを着ていくことにした。畑でのデートでは黒くて体にピッタリとするドレスを着て、どうやら旦那様には好評だったようだ。でもいつもそのドレスを着るのは、芸が無い。なので今回は、白いドレスを着ることにした。もしかすると旦那様は、この白いドレスも気に入るかも知れないからだ。うん。こうやって色々試してみて、旦那様が気にいるドレスを見つけよう。
そうして私はいそいそと、このお城の正門に向かった。旦那様とはそこで、待ち合わせをしていたからだ。すると旦那様はそこで、黒い正装で白い馬車の横で私を待っていた。
いやー! やっぱり、黒いドレスを着てくれば良かったー! そうすれば旦那様の正装と、コーディネートできたのにー! 馬車とコーディネートしてどうすんのよー?! でも私が馬車に近づくと、旦那様は褒めてくれた。
「おや、レコアさん。今日は、白いドレスですか。それはあまり見たことはありませんでしたが、良く似合ってますね」
なので私は、ホッとした。どうやら旦那様は、この白いドレスも気に入ってくれたようだから。そして旦那様と私は、四人乗りの馬車の後ろの座席に座った。ちなみに前の座席には、二人の銀色の鎧を着た護衛が座った。やはりこの王国の第三王子である旦那様と、妃の私だけでお城を出る訳には行かないのだろう。そうして馬車は、出発した。
お城から出た馬車は、ガタゴトと石畳の大通りを真っすぐに進んだ。ふと馬車の中から外を見てみると、茶色のレンガ造りの建物が並んでいた。多くの人々も、歩いていた。それらの光景を見て、私は懐かしくなった。旦那様と結婚する前に実家にいる時は、結構馬車に乗って街に出かけていた。
でも旦那様と結婚してお城に入ってからは、久しぶりに街に出た。うーん、久しぶりだ。そして私は、街中を歩いている人々に注目した。皆みんな、幸せそうに歩いている。子どもも大人も、女性も男性も。以前の私は、そんなことは気にしなかった。でも、今は違う。この王国の内政を担当しているのが私の旦那様だと思うと、何だか誇らしい。私の旦那様が、皆を幸せにしていると思うと誇らしい。
そうして馬車は進み、ミスマの塔に到着した。確か高さは約五〇メートルで直径は約一〇メートルで、この首都で一番高い建物だ。でも私は、一度もこの塔に登ったことが無い。なぜならこの塔を登るには内側のらせん階段を登るのだが、それが二五〇階もあるからだ!
なので以前、男とデートした時も塔には登らずに下から見上げただけだった。と塔を見ていた私は、その変化に気づいた。塔の周りに、いくつかの出店が出ていた。不思議に思った私は、思わず旦那様に質問した。
「旦那様。塔の周りに、出店が出ていますね。以前は、無かったはずですが?」
「はい。この塔を観光地にするために、こうしました」
「観光地に?」
「はい。以前のレコアさんの意見を、参考にしました。この王国の珍しい場所を、観光地にしたらどうかという意見を」
なるほど。確かに言ったな、そういえば。そうか。旦那様は本当に、私の意見を取り入れてくれたのか。なので私は、嬉しくなった。旦那様の、役に立ったような気がして。すると旦那様は、出店の一つに近づいた。なので私も、トコトコとその後を追った。そして旦那様はチョコバナナを二つ買って、一つを私に差し出した。
「さあ。せっかくなので、出店のモノを食べて見ましょう」
「はい」
それはバナナの甘さとチョコレートの甘さの両方を楽しめて、美味しかった。チョコバナナを食べながら、私は他の出店を見てみた。やはり食べ物の出店が多かったが、小さなミスマの塔を売っている出店もあった。おそらく、土産物屋だろう。
そうして塔の周りを見回してみると、あることに気づいた。出店に、お客さんがいないのだ。いるのは出店の、店員だけだ。その他には、私と旦那様。それに護衛の二人だけだ。なので気になった私は、聞いてみた。
「旦那様。今日はお客さんが、いませんね?」
「そうですね。おそらく、午前中はいたでしょう。でも午後の今は、お客さんはいません。この塔は今日の午後は、私とレコアさんだけの貸し切りですから」
か、貸し切り?! 一体、どうして?! と疑問に思った私は、旦那様に聞いてみた。
「か、貸し切りって一体、どういうことですか?!」
すると旦那様は、冷静に答えた。
「それは、警備上の問題です。普段この塔には、お客さんがいます。でもそこに、第三王子である私とその妃であるレコアさんが視察をする訳にはいきません。何があるか、分からないので。なのでお客さんには申し訳ないんですが、午後から私たちだけの貸し切りにしました」
な、なるほど……。




