第三十話 すき櫛(後半)
王妃は、ニッコリと微笑んで話し出した。
「レコアさん。あなたとタクトは、無理やり結婚させられたようなモノでどうなるのか私たちは心配してたの。でもあなたはそんなタクトと、良い関係を築いてくれた。一緒に食事をしたり、このお城の畑でデートをしたり。それは私たちが、どうがんばってもできないことだったの。だからあなたには、本当に感謝しているわ。ありがとう」
すると国王は、一つ咳払いをして告げた。
「そ、そうだ。私が言いたかったことも、つまりはそういうことだ……」
そして王妃は、やはりニッコリと微笑んだ。
「レコアさん。あなたはきっと、タクトの立派な妃になるでしょう。でも何か悩みや不安があったら、いつでも相談にきてね。私たちが、力になるから」
そう言われた私は、もちろん深々と頭を下げた。
「はい! ありがとうございます!」
そうして私と、国王と王妃の面談は終わった。さすがはこの王国の国王と王妃で、とんでもない存在感だった。でも彼らとの面談が無事に終わって、私はホッとしていた。すると食事も担当しているメイドのリーナが、話し出した。
「まあ国王と王妃は人格者ですから、おかしなことにはならないと思っていました。それにやはり人格者でないと、一国を治めることはできませんから」
「そ、そうね。でもやっぱり、緊張したー!」
そうして私とリーナは、取りあえず私と旦那様の居住区の食堂に戻った。そこで一息ついた私は、リーナに頼んでみた。
「早速だけどリーナ。このすき櫛で私の髪を、すいてくれない?」
「はい。かしこまりました」
とリーナはイスに座った私の髪を、丁寧にすいてくれた。それが終わるとリーナは、手鏡を持ってきてくれた。手鏡を覗いてみた私は、驚いた。確かに髪がいつもより、キレイだったからだ。汚れなどももちろんなく、またいつもよりも真っすぐなような気がした。そんなキレイになった自分の髪を見ていると、私は幸福感に包まれた。ああ。私は、何て幸せ者なんだろうと……。
すると私は、ふと気づいた。もうすぐ、午後三時になることに。なので私は、左手に紅茶セットを載せて旦那様の執務室に向かった。ノックをしたら返事があったので、早速中に入った私にはソファに座った。すると私と向かい合ってソファに座った旦那様は、聞いてきた。
「おや、レコアさん? いつもよりも髪がキレイなような気がするんですが、どうかしましたか?」
なので私は、答えた。先ほど王妃からすき櫛を頂いて、そしてリーナに髪をすいてもらったと。すると旦那様は、納得した表情になった。
「そうでしたか、なるほど……」
そして旦那様は、何かに気づいた表情になって聞いてきた。
「そう言えばレコアさん。さっき、すき櫛と言いましたよね? つまり、『スキ』と言いましたよね? なので今回の勝負は、レコアさんの負けで私の勝ちでは?」
ああ、そうか。私は、『スキ』と言ってしまったか。つまり今回の勝負は、私の負けか。でも今の私は、そんなことが気にならないほどの幸福感に満たされていた。王妃からすき櫛を頂いて、リーナに髪をすいてもらって、そして旦那様に髪がキレイだと褒めてもらったから。なのであまりの幸福感に少しボーッとしていると、旦那様は提案してきた。
「レコアさん。今回の勝負は私の勝ちなので、一つ頼みたいことがあるんですが?」
え? 頼み? 一体、何だろう? でも今の私は、どんな頼みでも聞くつもりだった。すると旦那様は、少しイタズラっぽく聞いてきた。
「明日の午後、この首都にあるミスマの塔に視察に行くんです。以前レコアさんに提案してもらったように、ミスマの塔を観光地にするためです。なのでその視察に、付き合ってもらえませんか?」
え? 塔の視察に? うーん……。もちろん私は、それでもいいですけど……。でもそれって、公私混同なのでは? ハッキリ言うと、それはただのデートなのでは? と思った私は、旦那様に確認してみた。するとやはり旦那様は、イタズラっぽく微笑んだ。
「はい、完全なデートですね。なので、公私混同ですね」




