第二十七話 透き通る(前半)
朝。食堂で朝食を食べ終えた私は、ぐったりとしていた。昨日の私と旦那様の勝負に、クナさんとサワさんが見学にきたからだ。何とか勝負は引き分けになったが、初めて人に見られての勝負だったのでいつも以上に疲れた。今朝も旦那様と一緒に朝食を食べたが、何だか旦那様も疲れた表情をしていた。
と私がまだぐったりしていると、ドタドタという足音がしてこの食堂に二人の男性が入ってきた。それは紛れもなくこの王国の第一王子であるアヤラ様と、第二王子のガミチ様だった。二人とも何だか、慌てた表情をしている。何だろう、このデジャブ。つい昨日、こんなことがあったような気がする……。なので私は、嫌な予感がした。
とにかく二人が私に近づいてきたので、私は丁寧に挨拶をした。
「これはこれは、アヤラ様とガミチ様。おはようございます。ひょっとして私に何か、御用でしょうか?」
と私に挨拶されたアヤラ様は、にこやかな表情になった。どうやら私を見つけて、落ち着いたらしい。そして私に、話しかけてきた。
「やあ。レコア君、おはよう。早速だけど、おめでとう。この間タクトと、お城の畑でデートをしたんだって? もうこのお城中、この話で持ち切りだよ。あの女性が苦手なタクトが、場所はお城の畑とはいえデートしたんだから!」
それを聞いて、私は少し不安になった。このお城で私と旦那様のデートの話が、持ち切りになっている? 皆ちゃんと、仕事をしているのかしら? それとも皆、暇なのかしら? どっちにしても、このお城が心配だ……。と私は不安になっていたが、アヤラ様は私を持ち上げた。
「本当にスゴイよ、レコア君! 君はいずれ、立派なタクトの妃になるだろう! はーはっはっはっはっ!」
そんなアヤラ様の横でガミチ様は、うんうんと頷いていた。だが、目は笑っていなかった。真剣そのものの表情だった。なんだろう? とてつもなく嫌な予感がする……。するとその、私の予感が当たった。アヤラ様も真剣な表情になると、私に聞いてきた。
「ところでレコア君。君はタクトと、どちらが『スキ』と言うかの勝負をしているんだったね。そしてタクトと、仲良くなったようだね。もしよかったら我々にも、その勝負を見せてくれないかなあ……」
や、やっぱり。そういうことか……。全く、この城の王子と妃は何を考えているんだろう? そんなに私と旦那様の、勝負に興味があるんだろうか? 本当に、何を考えているんだろうか? と私が考えていると、アヤラ様は白状した。
「実は昨日、クナから聞いたんだ。昨日、クナとサワが君たちのどちらが『スキ』と言うかの勝負を見学したって。その理由も、聞いている。最近ガミチとサワの関係が、ギクシャクしている。だからクナはその二人に君たちと同じように、どちらが『スキ』と言うかの勝負をさせてギクシャクを解消させようと考えた。そして昨夜、早速ガミチとサワはその勝負をしたそうだ。それで見事に、二人の関係は少し良くなったそうだ。でも一つ、問題が発生した……」
そこまで話すと、アヤラ様はガミチ様に話をするように促した。するとガミチ様は、真剣な表情で話し出した。
「アヤラの兄貴が言った通り、儂とサワはどちらが『スキ』と言うかの勝負をしたのじゃ。それは思いがけなく楽しくて、儂とサワの関係も少し良くなったのじゃ。でも儂には、不満が残った。なぜなら儂はその勝負で『スキ』と言ってしまって、負けたのじゃ。だから儂は君とタクトの勝負を実際に見て、勝ち方を知りたいんじゃ。だから、どうか頼む。二人の勝負を、実際に儂に見せてくれ……」
とガミチ様は、軽く頭を下げた。う。これはマズい。この王国の第二王子が、私に頭を下げている。これは、断れない。でもやはり私は、嫌だった。私と旦那様の二人で勝負するのでさえ、恥ずかしい。どちらかが相手に、『スキ』と言ってしまうからだ。
それなのにそれを誰かに見られるというのは、もっと恥ずかしくなるからだ。うーん、どうしよう……。と私が渋っていると、アヤラ様がダメ押しをした。
「僕からも頼むよ、レコア君。実は、僕もその勝負を見てみたいんだ。なぜなら僕と妃のクナが、その勝負をするかも知れないからだ。クナはこういう面白そうなことが、大好きだからだ。でももし僕とクナが勝負をしたら、僕が不利だ。なぜならクナは実際に勝負を見て、勝ち方を知っているからだ。もしクナが僕と勝負がしたいと言ったら、僕はその勝負を受けるつもりだ。でもやはり勝負なら、勝ちたい。だから君たちの勝負を実際に見て、勝ち方を知りたい。だから君たちの勝負を、見せてくれ」
とアヤラ様も、軽く頭を下げた。マ、マズイ! これはマズイ! 何とこの王国の第一王子と第二王子が、私に頭を下げた! これはマズイ! もし断ったら、私がどうなるのか分からないからだ。ひょっとして、このお城から追放?……。
そういう訳で、私と旦那様の勝負をこの二人にも実際に見せることになった。ああ。昨日もそうだったが、できれば見られたくないモノを見せるのはキツイ。こんなことをしなければならない私はストレスで、自分の存在感が薄くなっているような気がする。もしかしたら私は今、透き通っているのかも知れない……。あ、透き通るか。よし。今回はこれで旦那様に、『スキ』と言わせよう。




