第二十五話 すき毛(前半)
昼。私は今日も食堂で旦那様と一緒に昼食を食べた後、考えていた。もちろん、今日はどうやって旦那様に『スキ』と言わせようかと考えていた。ちなみに旦那様は、もうこの食堂にはいない。きっと今頃執務室で、午後の仕事の準備をしているんだろう。さて今日は、どうしようか?……。
と私が考えていると、ドタドタという音がして二人の女性がこの食堂に入ってきた。二人とも慌てた表情をしているが、その二人は紛れもなくこの王国の第一王子の妃であるクナさんと、第二王子の妃であるサワさんだった。なので私は、聞いてみた。
「どうしました、クナさんとサワさん? そんなに慌てて?」
するとクナさんは、私に顔を近づけて意気込んだ表情で聞いてきた。
「どうもこうもないわよレコアちゃん! あなた、あのタクト君とお城の畑でデートしたって本当?!」
「え? ええ、まあ……」
「し、信じられないわ。あの女が苦手なタクト君が、場所がお城の畑とはいえデートするなんて……」
ふと見ると、サワさんは真剣な表情でコクコクと頷いている。そしてクナさんは、更に意気込んだ表情で聞いてきた。
「それにこれはウチの旦那から聞いたんだけど、あなたたちはどちらが『スキ』って言うかの勝負をしているって本当?! それであなたたちは仲良くなったって、本当?!」
ああ。そういえば私と旦那様は、どちらが『スキ』と言うかの勝負をしていると話したな。この間、この王国の第一王子であるアヤラ様と第二王子であるガミチ様に。なのできっとクナさんは、アヤラ様からその話を聞いて知っているんだろう。と納得した私は、答えた。
「そうなんです、クナさん。実は私と旦那様は、毎日のようにどちらが『スキ』と言うかの勝負をしているんです。そして私たちの心の距離が、縮まったような気がします。なので私と旦那様は、お城の畑とはいえデートをすることができたんだと思います……」
するとクナさんは、真剣な表情で頷いた。
「うーん、なるほど……」
そしてクナさんは、とんでもないお願いをしてきた。
「レコアちゃん! ぜひ私たちに、その勝負をしているところを見せてもらえないかしら! お願い!」
「え?」
ど、どうしよう。ハッキリ言って、私たちが勝負をしているところを人に見せるのは恥ずかしい。それはつまり人前で、私と旦那様のどちらかが『スキ』と言うことになるからだ。でもこれは、他でもないクナさんのお願いだ。うーん、どうしようか?……。と私が悩んでいると、クナさんは真剣な表情で説明した。
「お願い、レコアちゃん! 別に私たちは、興味本位であなたたちの勝負を見たい訳じゃないの! これにはちゃんと、理由があるの!」
え? 理由? 何だろう、それは? と私は、その理由が知りたくなった。するとクナさんは、サワさんを促した。
「さあ、サワちゃん。ちゃんとレコアちゃんに、説明してみて」
「は、はい……」
するとサワさんは、恥ずかしがっている表情で説明を始めた。
「え、えーと。実は私は、妊娠三カ月なんです。あ、この話は前にもしましたね……。で、ですね。それがきっかけで、最近私とガミチ様の間がギクシャクしているんです。理由は、今度産まれてくる子どもが男の子かどうかなんです。私とガミチ様の間には、女の子の子どもが一人います。でも女の子は、お世継ぎにはなれません。なのでこのお城の高官たちは、今度は私がお世継ぎになる男の子を産むことを期待しているんです。あ、このことも以前お話ししましたね……。そ、それでですね。実はガミチ様も、男の子を期待しているようなんです。ハッキリとは言いませんが、やっぱり期待しているみたいなんです……。でも私は男の子でも女の子でも、どっちでも良いと思っているんです。それで私とガミチ様の関係が、ギクシャクしているんです……」
うーん、なるほど。今度産まれてくる子どもが男の子か女の子かで、サワさんとガミチ様の間がギクシャクしている訳か。それは問題ね。それは私も、どうにかしたい。でも、それと私と旦那様がどちらが『スキ』と言うかの勝負と何の関係があるんだろう? と私は、疑問に思った。するとクナさんは、サワさんを労った。
「うんうん。よく話したわ、サワちゃん。夫婦の問題を他人に話すのは、ちょっと恥ずかしいから。それも大人しいサワちゃんが、よく話したわ……」
そしてクナさんは、再び真剣な表情でお願いしてきた。
「という訳で、今サワちゃんとガミチ君の関係はギクシャクしているの。もちろん私は、何とかしたいと思ってる。そしてそんな時に、私は旦那から聞いたの。レコアちゃんとタクト君の勝負の話を! これは使えると思ったわ! サワちゃんとガミチ君が勝負をすれば、二人の関係を変えることができると思ったの! 今の二人には、そういうコミュニケーションが必要だと思ったの! だからお願い、レコアちゃん! あなたたちが実際に、どんな風に勝負をしているのか見てみたいの! そしてその勝負をサワちゃんとガミチ君がして、二人のギクシャクを解消してあげたいの!」
うーん、なるほど。そういうことか……。クナさんの気持ちは、よく分かる。私もできれば、サワさんの力になりたい。でもやっぱり人前で、私と旦那様のどちらかが『スキ』と言うのは恥ずかしいなあ……。と私が悩んでいると、クナさんは切り札を出した。何だか、金色のモノを取り出した。
「あ。もちろんタダで二人の勝負を見せてとは言わないわ。そこで、良いモノを持ってきたの! じゃーん! 見てこれ、レコアちゃん! これは、すき毛なの! カツラとかウィッグとは、ちょっと違うの! カツラやウィッグは頭に被るモノだけど、このすき毛は髪の内側に入れてボリュームを出すの! すると、ゴージャスな雰囲気になるの! そしてそんなレコアちゃんを見たら、きっとタクト君は『スキ』って言うと思うの! ねえ、だから二人の勝負を見せてくれない?」
うーん、すき毛か……。クナさんにこんなモノまで用意されたら、断れないなあ……。それじゃあちょっと恥ずかしいけど、二人に私たちの勝負を見せますか! そう決意した私は、気づいた。 す、すき毛! こ、これは使える! 今回はこれで、旦那様に『スキ』と言わせよう! なので私は、クナさんとサワさんの前で宣言した。
「それではお二人に、お見せしましょう。私と旦那様の、男と女の意地とプライドをかけた勝負を!」




