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第二十三話 空きっ腹(前半)

 気づくと私は、ボーっとしながら昼食を食べていた。美味《おい》しいはずのミートソースパスタの味も、よく分からなかった。なぜならさっき私は、旦那様《だんなさま》に告白《こくはく》されたからだ。いや。こんな風《ふう》に思っているのは、私だけだろう。きっと旦那様は、ただ私といるのが楽しいから、そう言っただけだろう。でも私にはそれが、告白に思えた。


 そして私は、今までそんな風に言われたことはない。子どもの頃《ころ》に私に近寄《ちかよ》ってきたのは、お金が目当《めあ》ての人間だった。私がこの首都《しゅと》で一番裕福(ゆうふく)な貴族の令嬢《れいじょう》だから、私に取り入ってお金を手に入れたい大人《おとな》だった。今《いま》思い出しても、嫌《いや》な気分になる。


 そして大人になると私に近づいてきたのは、多くの男たちだった。私が美人だから、プロポーズしてきた男たちだ。だから、悪い気はしなかった。ちょっとデートしたこともあったが、男たちは自慢《じまん》したいだけのようだった。男たちは私のような美人とデートできるんだと、ただ自慢したいだけのようだった。だから楽しいと思ったことは、一度《いちど》もない。


 そんな私は今、考えている。私は今まで、楽しいと思ったことがあったのだろうか? 子どもの頃に遊んだ友だちさえ、私に気を使っていた。私がこの首都で一番裕福な貴族の令嬢だから、私の機嫌《きげん》を損《そこ》ねないように気を使っていた。だから友だちと遊んでいても、楽しいと思ったことは一度もない。ただ一人でいると寂《さび》しかったから、一緒《いっしょ》にいただけだ。私にとって友だちは、ただ寂しさを紛《まぎ》らわす存在《そんざい》だった。


 そして今、私は考えている。私の旦那様の、タクト王子のことを。私と旦那様は今、形《かたち》だけのいわゆる白い結婚をしている。私と旦那様が結婚した理由は、旦那様がこの王国の王子だから結婚しないと体裁《ていさい》が悪いという理由だった。


 でも私は、そんな結婚に納得《なっとく》がいかなかった。だから私は旦那様に、どちらが『スキ』と言わせるかの勝負をしてきた。でも本当の理由は、旦那様に『スキ』と言わせて本当に私のことを好きになってもらうことだ。そうしてこの白い結婚から、抜《ぬ》け出すことだ。


 そして私と旦那様の関係は、変わってきた。以前《いぜん》は私と旦那様は、別々に食事をしてきた。私は食堂で、旦那様は自分の部屋で。どうやら旦那様は、一人で食事をする方《ほう》が気楽《きらく》らしい。だから旦那様は今まで、一人で食事をしてきた。私はできれば旦那様と一緒《いっしょ》に食事をしたかったが、我慢《がまん》してきた。


 でも私が旦那様を『スキ』と言わせてきたからか、数日前から私と旦那様は朝食を一緒に食べるようになった。それでも十分嬉(うれ)しかったが何と今日は、このお城の畑とはいえデートをした。手もつないだ。そして更《さら》に、昼食も一緒に食べることになった。


 だが疑問《ぎもん》に思った私は、聞いてみた。どうして私と一緒に昼食も、食べようと考えたのか。すると旦那様は、私と一緒にいると楽しいからだと答えた。楽しいから、もっと一緒にいたいからだと。そう言われて、私は考えた。『楽しい』って一体《いったい》、何だろうかと。


 気づくと旦那様は、昼食を食べ終えていた。そして私も考え事をしながらも、食べ終えた。考え事をしていたから、料理の味はよく憶《おぼ》えていないが。そして旦那様は、爽《さわ》やかに微笑《ほほえ》んだ。

「それでは私は、午後の仕事があるのでこれで失礼します。午前の畑デートもこの昼食も、楽しかったですよ」


 そう言われた私はハッとして、慌《あわ》てて返事をした。

「そ、そうですか、旦那様。そ、それは何よりです」


 そうして旦那様は、この食堂を出て行った。早速《さっそく》仕事をするために、執務室《しつむしつ》に向かったのだろう。でも私は、考えていた。旦那様がまた、『楽しい』と言ったからだ。畑デートが楽しかったのは、まあ頷《うなづ》ける。でもこの、昼食はどうだろう? 私は考え事《ごと》をしていて、旦那様とほとんど会話《かいわ》もしなかったのに。それでも旦那様は、『楽しい』と言っていた。うーん、どうしてだろう?……。


 とふと気づくと、食事担当のメイドのリーナが私たちの食器《しょっき》を下《さ》げていた。そして、キッチンに向かった。これから、食器洗いをするのだろう。ちょっとリーナと話をしたくなった私は、トコトコとキッチンに入った。するとやはりリーナは、私に背を向けて食器を洗っていた。私はその背中に、声をかけた。

「ねえ、リーナ? ちょっと聞いてもいい?」

「はい。何でしょうか、レコア様?」


 とリーナに質問をしようとした私は、ふと思い出した。午前の畑デートで、リーナが私たちをフォローしてくれたことを。ハッキリ言ってデートは、大成功だったと思う。でもそれは、リーナがフォローしてくれたからだと思う。なので私はまず、リーナにお礼を言った。

「午前の畑デートは、フォローしてくれてありがとう。おかげでデートは、大成功だったわ」


 するとやはりリーナは、私に背中を向けて食器を洗いながら答えた。

「そうですか、それは良かったです。この私も、嬉《うれ》しく思います」


 よし。ちゃんとリーナにお礼も言ったから、リーナは仕事中だけど質問しちゃおう。私はリーナに、改めて質問した。

「ねえ、リーナ? ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」

「はい。何でしょうか?」

「私、ちょっと旦那様の気持ちが分からなくて……。午前の畑デートが終わってから旦那様は、これから昼食も一緒に食べようって提案《ていあん》してくれたの。それはもちろん嬉しいんだけど、その理由が私と一緒にいると楽しいからみたいなの。でも私は、『楽しい』ってよく分からないの。私はホントに旦那様を、楽しませているのかな?」

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