第十七話 スキャンダル(後半)
私は左手に紅茶セットを載せて、旦那様の執務室の前にいた。今は、午後三時前だ。私と旦那様の、どちらが『スキ』と言うかの勝負は大体午前一〇時のお茶の時間に行われていた。でも今日の午前中は良いアイディアが出なくて、その時は私と旦那様は普通にお茶を飲むだけになってしまった。
でも、今の私は違う。今の私には、ちゃんとアイディアがある。昼食後にこの王国の第一王子であるアヤラ様と第二王子であるガミチ様と話をして、出たアイディアだ。それは、スキャンダルだ。よし。今日は旦那様にスキャンダルと言わせて、『スキ』と言わせてやる。
私が旦那様の執務室のドアをノックすると「はい」と返事がしたので、私はドアを開けて中に入った。そして紅茶セットをテーブルに置くと、旦那様に聞いてみた。
「旦那様。そろそろ午後三時なので、紅茶でも飲んで休憩いたしませんか?」
すると旦那様は立ち上がり、こちらに近づいてきた。
「ああ、そうですね。そうしましょう」と言いながら。そして私と向かい合って、ソファに座った。私は二つの白いカップに紅茶を注ぎながら、考えた。私は今日は、旦那様にスキャンダルと言わせたい。でも、焦りは禁物だ。ふと旦那様を見てみると、やはり少し警戒している表情だからだ。この、どちらが先に『スキ』と言うかの勝負に勝ちたいという表情だ。
だから私はまずは、旦那様と世間話をすることにした。そうしてまずは、旦那様の警戒を解く作戦だ。私は紅茶を注いだカップの一つを、旦那様に勧めた。すると旦那様は一口飲んで、満足そうな表情になった。でも、仕掛けるのはまだ早い。ここは私も紅茶を一口飲んで、まずはまったりとした雰囲気を作るべきだ。そう考えた私は紅茶を一口飲んで、旦那様に話しかけた。
「そういえば、旦那様。私は今日の昼食後、アヤラ様とガミチ様とお話をする機会がありました」
すると旦那様は、興味深そうな表情になった。
「ほう、兄上たちと? 一体、どんな話をしたんですか?」
「はい。それは……」
そうして私は、考えた。実際にアヤラ様とガミチ様と話したことは、私と旦那様は今度、このお城の畑を見に行くこと。そして私と旦那様で、どちらが『スキ』と言うかの勝負をしていることだ。そしてアヤラ様は、私と旦那様のどちらが『スキ』と言うかの勝負をしているという話に、食いついた。でも、今はその話はしない方が良いだろう。この話をすれば当然、旦那様は警戒するからだ。なので私は、もう一つの話をした。
「実は、今度私と旦那様がお城の畑を見に行くという話などをしました」
「なるほど。そうでしたか」
と旦那様は、この話に興味を持ったようだ。なので私は、この話を続けた。
「アヤラ様とガミチ様は、驚いておられました。女性が苦手な旦那様が、デートのようなことをするとは、と」
すると旦那様は、微笑んだ。
「なるほど、デートですか。そういえば、そうかも知れません。でもそれは、一緒に行く相手がレコアさんだからです。レコアさんは、私が苦手な女性とは違うからです。ですから私はレコアさんに、興味を持ったんです」
それを聞いた私は、ちょっと嬉しくなった。だってそれはもう、私のことが好きだと言っているようなモノだと思ったからだ。だから私は、今のこの流れを続けたいと思った。このまま私と旦那様とどちらが『スキ』と言うかの勝負をして、旦那様に私のことを好きになってもらって、この白い結婚から抜け出す流れを。なので私は、もう少し旦那様と世間話をして旦那様を油断させることにした。
「それにしても私は、第一王子であるアヤラ様がこの王国の外交を担当していることを知りませんでした。そして第二王子であるガミチ様が、この王国の防衛軍を指揮していることを。旦那様が、この王国の内政を担当していることは知っていたんですが。なのでお二人には少し、申し訳なかったです……」
すると旦那様は、優しく微笑んだ。
「いやいや。申し訳ないと思う必要は、無いと思いますよ。二人とも、そんなことは気にしませんし。それに今は、ちゃんと二人の仕事を理解しているのでそれで良いと思いますよ」
「なるほど。そう言っていただけると、助かります……」
そう答えた私は、旦那様に疑問を聞いてみた。
「そう言えば旦那様たちがしている仕事は、誰が担当させたんでしょうか? そして、どうやって決めたんでしょうか?」
すると旦那様は、説明してくれた。
「それを決めたのは、国王です。つまり私たちの、父親です」
「え? そうだったんですか? 国王、自らが……」
「はい。国王は、成長した私たち兄弟を、よく観察しました。第一王子であるアヤラは、人付き合いが上手い。だから、外交を担当させようと。そして第二王子であるガミチは、武術に興味を持っていた。なので、防衛軍を指揮させようと。そして第三王子である私は、人付き合いが苦手で武術にも興味が無い。でも、勉強はできた。だから、この王国の内政を担当させようと考えた。と国王は私たちに、そう説明しました」
なるほど、さすが国王だ。そして、良い父親なのだろう。ちゃんと息子たちの長所を見極めて、担当を決めたのだから。うーん、さすが一国の王だ……。と、そこまで話を聞いた私は、旦那様に仕掛けることにした。この王国の王子たちの話をして、旦那様は完全に私を警戒していないからだ。私は、さりげなく聞いてみた。
「なるほど。やはり国王は、有能な方だと思います。なぜなら三人の王子は国王の見極め通り、それぞれの長所を生かしてこの国を治めているからです。何の問題も、トラブルもなく」
すると旦那様は、何度も頷いた。
「確かに、そうですね。問題もトラブルももちろん、スキャンダルもありません。スキャンダルなどがあると、やはり国民の支持を失うので」
「はい、確かにそうですね。そして、旦那様。旦那様は今、スキャンダルとおっしゃいましたよ? つまり、『スキ』とおっしゃいましたよ?」
そう言われた旦那様だが、特に悔しそうな表情にはならなかった。
「ああ、そうですね。確かに私はスキャンダル、つまり『スキ』と言ってしまいましたね。なので今日の勝負は、私の負けですね。でも、それでも構いません。それよりも私は今、レコアさんが私の兄たちと父である国王を認めてくれたことが嬉しいんです……」
そうか。旦那様は勝負に勝つよりも、自分の兄や父親を認められたことの方が嬉しいのか。それに旦那様は女性が苦手なのに、私と畑デートをしようとしている。なのでやはり旦那様は、素敵な男性だなと私は改めて惚れ直した。




