第十六話 スキャンダル(前半)
昼。今日の昼食のナポリタンパスタを一人で食堂で食べた私だが、機嫌は良かった。もちろん昼食も旦那様と一緒に食べたいが、浮かれていた。それはニ、三日後に旦那様と畑デートができるからだ。
いやあ。形だけの白い結婚をしている私と旦那様が、畑でとはいえデートができるとは。これも私が旦那様に、『スキ』と言わせ続けた結果だろう。うん、うん。だから今日もがんばって、旦那様に『スキ』と言わせるぞー! と私は張り切った。
するとこの食堂に、二人の男性が入ってきた。一人は白い正装で背は高めで、にこやかな表情をしていた。もう一人は黒い鎧を着てがっしりとした体形で、厳つい顔をしていた。だが私はこの二人に、見覚えがあった。
にこやかな表情をしているのは、このミスマ王国の第一王子であるアヤラ様。厳つい顔をしているのは、第二王子のガミチ様だ。でも私はこの二人と、全くと言っていいほど交流が無かった。結婚式の時、軽く挨拶をした程度だ。そんな二人が、なぜここに?! とにかく私は立ち上がると、丁寧に挨拶をした。
「お久しぶりです、アヤラ様、ガミチ様。結婚式以来、しっかりとした挨拶ができなくて申し訳ありませんでした……」
するとアヤラ様は、右手を顔の前でブンブンと振った。
「いや。いいよ、そんなことは。お互い、忙しかったんでしょう。それよりも、聞きたいことがあるんだ。君は最近、この食堂でタクトと一緒に朝食を食べているって本当かい? しかももうじき、二人で畑を見に行くって本当かい?!」
え? そんなことを、どうしてアヤラ様が知っているんだろう? いや。それよりも、ちゃんと質問に答えなくちゃ。なので私は、丁寧に答えた。
「は、はい。本当です。私はここ最近、旦那様と一緒にここで朝食を食べています。そして近々、旦那様と一緒に畑を見に行く予定です」
するとアヤラ様は、信じられないと言う表情になった。
「な、何と。ウワサは本当だったのか……」
そしてガミチ様も、うんうんと頷いていた。どうやら私と旦那様が一緒に、この食堂で朝食を食べていることと畑を見に行くことは、ウワサになっているようだ。なので私は、気になったことを聞いてみた。
「あの。すみません、アヤラ様。そのウワサは、誰からお聞きになったのですか?」
「誰って、ここの食事担当のメイドのリーナからだよ。そしてこのウワサはもう、この城中に広がっているよ!」
なるほど。リーナが、この話を広めたのか。でも私は別に、リーナを責めるつもりは無い。だってそれらは本当のことだし、別に悪いことをしている訳じゃないから。するとアヤラ様は、感慨深そうに呟いた。
「まさか、あのタクトがなあ……。一五歳くらいの時から、一人の方が気楽で良いと言って食事を自分の部屋で一人で食べていたタクトが。女性には興味が無いと言っていた、あのタクトが……」
そしてアヤラ様は、意気込んだ表情で聞いてきた。
「そんなタクトが、どうして君と?! 一体、どんな魔法を使ったんだい?!」
い、いやあ。魔法というほどのことではないんですが。でも、ここで説明するのはちょっと恥ずかしい。でも相手は、この王国の第一王子だ。答えない訳にはいかない。なので私はちょっと恥ずかしかったが、正直に答えた。
「え、えーとですね。実は私は旦那様とほぼ毎日、勝負をしているんです。どちらが『スキ』と言うかという勝負を……」
するとアヤラ様は、ポカンとした表情の後に笑い出した。
「どちらが『スキ』と言うかの勝負をしてる?! はははは、こりゃあ傑作だ! タクトは実は、負けず嫌いなところがあるからなあ! はははは、そりゃあ傑作だ!」
と気が済むまで笑ったアヤラ様は、真剣な表情になった。
「いや、失礼。別に僕は、君たちをバカにしている訳じゃない。それにしても、そんな方法があったとは……。あ。そう言えばまだ僕たちは、ちゃんと自己紹介をしていなかったね。僕は第一王子の、アヤラ。この王国の、外交を担当している。そしてこっちは、ガミチ。この国の、防衛軍を指揮している。まあ防衛軍と言っても、少数精鋭の軍だ。我が国は近隣の国とは、良い関係を築いているからね。自慢じゃないが、僕が外交で上手くやっている結果とも言える。それに今の国王は、他国に戦争を仕掛けて領土を広げるよりも、自国の産業に投資をした方が結局は国も国民も豊かになると考えている。だから戦争なって、ほとんどしない。でも万が一、他国が戦争を仕掛けてきたら当然我が国を防衛しなくちゃいけないから、一応防衛軍があるんだ」
なるほど、そうだったのか……。と私が納得しているとアヤラ様は、急に神妙な表情になった。
「実は僕たちがタクトに結婚をするように急かしたのは、この城の高官たちが言い出したからなんだ。王子がいつまでも独身でいるのは、良くない。だから、無理矢理にでも結婚させるべきだと。やっぱり高官たちが言うことは無視できないから、僕たちがタクトに結婚を急かしたんだけど……。でもこの結婚は、正解だった。あのタクトが、こんなに変わるなんて。それもレコア、君のおかげだよ、ありがとう……」
そうしてアヤラ様は、再び笑い始めた。
「それにしても、こりゃあ傑作だ! まさか二人で、どちらが『スキ』と言う勝負をしているとは! これは驚いた! こりゃあ、スキャンダルだよ! いや、良い意味での! 信じられないことをしているという、スキャンダルだよ!」
なるほど、スキャンダルか。よし。今日はスキャンダルという言葉で、旦那様に『スキ』と言わせよう。私は、そう決心した。




