第十四話 スキンケア(前半)
朝。私と旦那様は食堂でテーブルを挟んで座り、向かい合って一緒に朝食を食べていた。これは私にとって、ちょっと意外だった。今まで私たちは、別々に朝食を食べていた。私は、この食堂で。旦那様は、自分の部屋で。それがこうして、一緒に朝食を食べるようになるとは。私はちょっと、感動していた。
でも、まだだ。昼食と夕飯は、まだ別々に食べている。でもいつか、昼食も夕食もこの食堂で一緒に食べられる日がくるような気がした。それは今まで私が、旦那様に『スキ』と言わせていたら朝食を一緒に食べるようになったからだ。旦那様に『スキ』と言わせていたら、私と旦那様の心の距離が縮まったような気がするからだ。
だからこれからも旦那様に『スキ』と言わせて、もっと心の距離を縮めよう。そうしてこの食堂で朝食だけでなく、昼食も夕食も食べられるようになろう。そしていつかこの形だけの白い結婚から、抜け出そう。私は、改めてそう決意した。
そんなことを考えていたから、私はボーっとしていたのだろう。旦那様から、声をかけられた。
「どうしました、レコアさん? 何だか、ボーっとしているようですが?」
「え? あ、はい。大丈夫です。ちょっと、考え事をしていたもので」
すると旦那様は、爽やかに微笑んだ。
「そうでしたか。それにしても誰かと一緒に、こうして朝食を食べるようになったのは久しぶりです。子供の頃、以来でしょうか? 私は一五歳くらいの頃から一人でいる方が気楽になって、それから食事は自分の部屋で一人で食べるようになりました。でもこうして誰かと一緒に食べる方が、食事は美味しく感じられます」
「そうですか、それは良かったですね」
すると私は、ふと考えた。だったら今、昼食も夕食もここで一緒に食べませんかと提案しようかと。でも、今は止めた。もちろん私は、昼食も夕食も旦那様と一緒に食べたい。でも旦那様は、そうは考えていないようだ。もしそう考えているのなら、『誰かと一緒に食べる方が食事は美味しく感じられる』と言った旦那様がすでに提案しているはずだ。
だからまだ旦那様には、一人で食事をした方が気楽だという気持ちがあるんだろう。でも、焦ることは無い。いや、焦ったらいけないような気がする。せっかく旦那様が私と一緒に朝食を食べるようになったのだ。これは、大きな変化だ。ここで無理に昼食も夕食も一緒に食べましょうと提案したら、それがきっかけでまた旦那様は一人で朝食を食べるようになってしまうかもしれない。だから、ここは我慢だ。
だから私は、旦那様が私と一緒に昼食も夕食も食べようと言い出すまで我慢することにした。そうして私と旦那様が朝食を食べ終わると、食事担当のメイドのリーナが小皿にイチゴを載せて私たちの前に置いた。それを見て、私は疑問に思った。昨日の朝食にはイチゴは、無かったからだ。だから私は、リーナに聞いてみた。
「あら、リーナ? このイチゴは?」
するとリーナは、丁寧に説明した。
「はい。このイチゴは昨日、畑で採れたものです。なので早速デザートとして、お二人に召し上がっていただこうと思いました」
なるほど、そういうことか。なので私と旦那様は、早速イチゴを食べてみた。それは甘さと酸っぱさのバランスが絶妙な、とても美味しいイチゴだった。すると旦那様も、満足そうに頷いた。
「うん。今年も、良いイチゴが採れたようです。私は果物が大好きなので、嬉しいです」
なるほど。そう言えば旦那様は野菜が苦手で、その代わり果物が好きだったはずだ。なので私は、提案してみた。
「旦那様。それでしたら今度、私と一緒に畑を見に行ってみませんか? 私の感想ですが、旦那様は執務室で仕事をしていることが多くてあまり外に出ていないようなので。なのでたまには、外に出てみませんか?」
すると旦那様は、少し考える表情になった。そして、答えた。
「そうですねえ……。今はちょっと仕事が忙しいですが、一段落したらそれもいいでしょう。何だか今は、そんな気持ちもあります」
よし! 私は思わず心の中で、ガッツポーズをした。私と旦那様が一緒に畑を見に行くのは、ちょっとしたデートだからだ! よし、楽しみが一つ増えた! そうして私と旦那様がデザートのイチゴを食べ終わると、リーナは聞いてきた。
「はい。お二人ともイチゴも召し上がったようですが、お味はどうでしたか?」
すると旦那様は、ニッコリと微笑んだ。
「はい。甘さと酸っぱさのバランスが絶妙で、大変美味しかったです」
「はい! 私も、そう思いました! すごく美味しいイチゴでした!」
そう言われたリーナは、軽く頭を下げて説明した。
「そうですか、それは良かったです。イチゴにはビタミンCが豊富に含まれているので、お勧めです。お肌のハリを保つ効果もあります」
ふーん、そうなのか。イチゴにはビタミンCが豊富に含まれていて、お肌にも良いのか。つまり、スキンケアにもなるのか。だったらこれから、たくさん食べよう。そう思った時、私は気づいた。ス、スキンケア! こ、これは使える。これで旦那様に、『スキ』と言わせることができるかも知れない! フフフ、旦那様。『スキ』と言わせる勝負は、何も午前一〇時のお茶の時間だけに行われるモノではありませんよ?




