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第十三話 スキニー(後半)

 私は左手に紅茶セットを載《の》せて、右手にリーナから借《か》りたスキニーのパンツを持って旦那様《だんなさま》の執務室《しつむしつ》のドアの前にいた。フフフ。今日はこれで旦那様に、『スキ』と言わせて見せるわ。フフフ……。そしてスキニーのパンツを持ったまま右手で、ドアをノックした。すると「はい」と返事がしたので、私はドアを開けて中に入った。


 そんな私を見て旦那様は、ギョッとした表情になった。

「ああ、やはりレコアさんでしたか……。って、一体《いったい》何を持ってるんですか?!」


 フフフ。早速《さっそく》旦那様が食いついてくれましたわ。なので私は、スキニーのパンツを高々と掲《かか》げて告げた。

「はい、旦那様! 私が持っているのは、細長《ほそなが》いスキニーのパンツです!」

「な、なるほど……」


 フフフ。さあ、今日も始まりますわ! 私が旦那様に、『スキ』と言わせる勝負が! でも旦那様は、薄々(うすうす)それに気づいている。なので旦那様が警戒《けいかい》していたら、『スキ』と言わせることは難しい。なので私はまず、旦那様に紅茶を飲ませてリラックスさせて警戒させないようにした。

「旦那様、そろそろ午前一〇時です。なので一旦《いったん》お仕事を中断《ちゅうだん》されて、紅茶でも飲んでリラックスしませんか?」


 すると旦那様は、ニッコリと頷《うなづ》いて机にペンを置いてイスから立ち上がった。そしてこちらのテーブルに、向かってきた。フフフ。まずは第一段階は、成功だわ。旦那様は、紅茶を飲もうとしている。そして紅茶を飲んでリラックスしたら、勝負を仕掛《しか》けるわ。フフフ……。


 と旦那様が私と向かい合ってソファに座ったので、私は二つの白いカップに紅茶を注《そそ》いでその内の一つを旦那様に勧《すす》めた。

「さ、どうぞ、旦那様」

「はい、いただきます」


 と旦那様は紅茶を一口《ひとくち》飲んで、リラックスした表情になった。フフフ。これでよし。でも、まだですわ。まだ勝負を仕掛けるには、早いですわ。なので私も紅茶を一口飲んで、旦那様に質問した。

「ふう、美味《おい》しい紅茶ですわ。やっぱりこうしていると、リラックスしませんか?」

「はい、そうですね。リラックスしますね」


 フフフ。チャーンス! 今ですわ! 私はそれとなくスキニーのパンツを見せて、旦那様に聞いてみた。

「実はこのスキニーのパンツは、料理担当のメイドのリーナから借りてきたんですが、旦那様はどう思います?!」


 すると旦那様は、ちょっと考える表情になった後《あと》に答えた。

「え? ええ、まあ、素敵《すてき》なパンツだと思いますよ」


 くっ。『素敵なスキニーのパンツ』とは言わなかったか。でも、まだまだよ! 勝負は、始まったばかりよ! なので私は、更《さら》に仕掛けた。

「えーと、旦那様。このスキニーのパンツの、デザインや色はどう思われますか?」

「え? そうですねえ……。デザインは細身で動きやすそうで、色も黒で落ち着いた感じがします」

「そう、そうです! つまり旦那様は、このスキニーのパンツをどう思われますか?!」

「はい。素敵なパンツだと思います」


 くっ、またしても『素敵なスキニーのパンツ』とは言わないのかああああ! でも、まだまだよ。私は必ず旦那様に、『スキ』と言わせて見せるわ! と私が次はどう仕掛けるのか考えていると、旦那様は疑問《ぎもん》の表情で私に質問してきた。

「あの、レコアさん。ちょっと聞きたいことがあるんですが?」

「え? はい。何でしょう、旦那様?」

「レコアさんはどうやら私に、『スキ』と言わせたいようですが、自分が『スキ』と言っちゃうのはどうなんでしょう? レコアさんはすでにこの部屋で、何度も『スキ』と言ってるんですが?……」

「え?……」


 旦那様にそう質問されて、私は激しく動揺《どうよう》した。た、確かに……。私と旦那様は今、形だけの白い結婚をしている。でも私はそれに納得《なっとく》できなくて、旦那様に私のことを好きになってもらいたいと思っている。なのでまずは旦那様に、『スキ』と言わせたい。そうして段階《だんかい》を経《へ》て、旦那様に私のことを本当に好きになってもらいたい。なので今回はスキニーのパンツを持ってきて、旦那様に『スキ』ニーのパンツと言わせたいと思っていた。そうすれば今回も、私の勝ちだと思っていた。


 でも、旦那様の疑問はもっともだ。旦那様に『スキ』と言わせるためとはいえ、私が『スキ』と言ってしまうのはどうなんだろう? なんだかそれは、フェアじゃないような気がする……。なので私は、旦那様に右手の人差《ひとさ》し指《ゆび》を指《さ》して宣言《せんげん》した。

「た、確かに旦那様のおっしゃる通《とお》りです。なので私はこれから、『スキ』と言わずに旦那様に『スキ』と言わせて見せます!」


 すると旦那様は、ニッコリと微笑《ほほえ》んだ。

「なるほど、そうですか。分かりました」


 そして私は今回の勝負で、最後の仕掛けを放《はな》った。

「それでは先ほど旦那様も認めた、このデザインも色も素晴《すば》らしい細長いパンツをどう思いますか?!」


 するとやはり旦那様は、ニッコリと微笑んだ。

「はい。デザインも色も素晴らしいパンツだと思いますよ」


 や、やっぱりダメだったか……。こうして今回の勝負は、引き分けに終わった。いや。今回は旦那様は、一回も『スキ』とは言っていない。それなのに私は、何度も『スキ』と言ってしまった。そう考えると、今回の勝負は私の負けってこと?! く、悔《くや》しいですわ! おぼえてらっしゃい、旦那様! 次は必ず、『スキ』と言わせて見せますわ!

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