第十二話 スキニー(前半)
今日の私は、機嫌が良かった。それは私と旦那様が、初めて一緒に朝食を食べたからだ。なのでその余韻に浸って、私は旦那様が執務室に行ったこの食堂に一人で残っていた。
いやー。これはもう、私と旦那様の心の距離が縮まったんじゃないだろうか。この調子だと、意外と早くこの白い結婚から抜け出せるかも知れない。いやいや、油断は禁物だ。私は完全にこの白い結婚から抜け出すために、今日も旦那様に『スキ』と言わせるのだ! と決意を新たにした。
でも私は、誰かに自慢したくなった。今日は旦那様と一緒に朝食を食べて、この白い結婚から一歩抜け出せたことを。さーて、誰に自慢しようかなー? と見回してみたが、この食堂には誰もいなかった。でも朝食の食器がすでに片付けられているから、食事担当のメイドのリーナは今、キッチンで食器を洗っているのかも知れない。
そう思ってキッチンに行ってみると、やはりリーナが食器を洗っていた。私はその背中に、声をかけた。
「ねーねー、リーナ。ちょっと話したいことがあるんだけど?」
「はい。何でしょうか、レコア様」
「私ねー、今朝、すごいことをしちゃった」
「はい、存じております。タクト王子と一緒に、朝食を召し上がったことですね?」
「え? 何だ、知ってたの?」
でも、それは当然だ。リーナは食事担当のメイドだから、私と旦那様に朝食を用意していた。だから、知っていて当然だ。なーんだ。何か、つまんないな……。するとリーナは、食器を洗いながら私に背中を見せて振り返らずに話し出した。
「全くレコア様は、とんでもないお方です」
「え? どうして?」
「もちろん今朝、タクト王子とこの食堂で一緒に朝食を召し上がったからです」
「え? やっぱりそれって、すごいこと?」
するとやはりリーナは、食器を洗いながら答えた。
「私はこの五年間、食事担当のメイドでしたがいつも食事をタクト王子の部屋に持って行っていました。隣の食堂で食事をなさったことは、ただの一度もありませんでした。はい。ただの一度もです。それなのにレコア様は、タクト王子と食堂で食事を召し上がった。それはやはり、レコア様のおかげだと思いますから」
「あ。やっぱり、私のおかげだって気づいたー? えへへ。実は、そうなの。えへへ」
と私がリーナに褒められて良い気分になっていると、再びリーナは話し出した。
「実は私がレコア様がすごいと思っている理由は、もう一つあります」
「え? それは何?」
「はい。それはタクト王子が、女性と一緒に朝食を召し上がったことです。私が知る限り、そんなことは一度もありませんでした。はい、ただの一度も」
「へー、そうなんだー」
でもまあ、それも当然か。旦那様は、女性が苦手だからなー。うんうん。そう思っていると、さらにリーナは話し出した。
「もしかしたらレコア様は、タクト王子と本当の夫婦になることができるかも知れません」
「え? それって……」
「はい。おそらくこの城にいる誰もが、知っていますよ。タクト王子とレコア様の結婚は、形だけのいわゆる白い結婚だと。ただそれはレコア様がお気の毒なので、誰も言わないだけです」
「そ、そうなんだ……」
「でも」と、リーナは話を続けた。
「でもレコア様なら、この食堂でタクト王子と一緒に朝食を召し上がることができたレコア様なら、タクト王子と本当の結婚ができるかも知れません」
そしてリーナは、振り向いた。その表情は、真剣そのものだった。そして、私に告げた。
「そのためにはもちろん、私ができることならどんなお手伝いもさせていただきます。ですから私に、何なりとお申し付けください」
そうか。私には、味方がいたのか。正直私は、旦那様に『スキ』と言わせて白い結婚から抜け出すのは孤独な努力だと思っていた。でも、違った。ここに少なくても一人、味方がいた。そして今朝は、旦那様と一緒に朝食を食べることができた。だから私は、この白い結婚から一歩抜け出した手ごたえを感じた。よーし、やるぞー! 私は絶対に、この白い結婚から抜け出すぞー! と私は改めて決意した。
さて。そのために、今から旦那様に『スキ』と言わせよう。今日は何を使って、旦那様に『スキ』と言わせようか?……。と考えていると、リーナがスカートではなく細身のパンツを穿いていることに気づいた。疑問に思った私は、聞いてみた。
「ねえ、リーナ。どうして今日は、細身のパンツを穿いているの?」
「ああ、これですか。今日はこの食器洗いが終わったら、畑で力仕事をしようと思っています。それはスカートではやりずらいので、こうして今からスキニーのパンツを穿いているんです」
なるほど。さすがリーナだなー、仕事ができるなーと感心していると私はひらめいた。そうだ、スキニーのパンツ! よし、今日はこれで行こう! そう決心すると、私はリーナに聞いてみた。
「ねえ、リーナ! そのスキニーのパンツって、予備はある?! 他にもある?!」
「え? はあ、ございますが……」
「そしたら私に、ちょっと貸してくれない! お願い!」
「はあ、構いませんが……」
こうしてスキニーのパンツを手に入れた私は、ほくそ笑んだ。フフフ。今日はこれで、旦那様に『スキ』と言わせて見せるわ。フフフ……。




