9.試験に対する思い
「今日も早めに行くか」
部活道体験の次の日、前日と同様に早めに学校に来ていた。
東雲あたりがいると予想しつつ通学路を歩いていると、覚えのある人物の背中がみえる。
萩原悟李、オレンジ色の髪が特徴の女の子だ。
クラスは違うが個人的に嫌な能力を持っている人だ。
〈読心〉、心を読むことのできる能力者だ。
近くにいる二人を対象に心が読めるようになっている。
この距離なら俺の心が読まれることはないが、ボランティア部の部室ぐらいの範囲で心が読める。
可能な限り関わりたくない人物だ。
距離をあけつつ歩いて学校に着く。
教室を開けると東野がいた。
「行動力が高いな」
「思いたった日に行動しないとだからな」
俺は挨拶しつつカバンを机に置いて、東野と向かい合う。
「合気道部はどうだった?」
「凄え楽しかった。今日から体験期間だから行くつもりだし、入るつもりだ」
「それは良かったな」
「七ノ瀬はボランティア部に行ったんだよな?どうだった?」
「入ることにしたよ。雰囲気もよかったし」
俺がそう答えると東野は驚いた様子を見せる。
「まじで入ったのか?そこまで興味がある感じはしなかったけど」
「まじも大まじだ。助けてもらってばかりの人生だからな、人の役に立てることがしたかったんだ」
「いいじゃん、俺も何か困ったら相談に行こうかな」
「あぁ、待ってる」
俺がそう言うと東野は机にぐったりと倒れる。
「なんか負けた気がするな。ここまで七ノ瀬が行動的だとは思わなかった」
「待ってるだけじゃ始まらないからな」
「そうだな。よし、俺は今日合気道部に入るわ」
東野は勢いよく起き上がるとそう口にする。
すると廊下の方を凝視してフリーズする。
「どうした?」
俺も東野と同じ方向を見ると萩原がいた。
萩原は俺達の視線に気づいた慌てた様子で立ち去っていく。
「自意識過剰かもだけどあの子に見られてた気がしたんだ」
「あながち間違ってない気がするけど」
「そうか?」
「用事があるような感じでもなかっただろ?そしてこの時間に学校にいる理由は俺達と同じだと思わないか?」
俺がそう言うと東野は納得したように頷く。
「確かに、でも別に人付き合いが苦手そうには見えないけどな。可愛いし」
「なら、他に要因があるってことだな」
「そう言うってことは心当たりがおありで?」
「まあな、能力が原因だと思う」
「能力は……聞かない方がいいか?」
俺も能力を口にするか迷ったが、東野の言葉を聞いて口にしても大丈夫だと判断する。
「その配慮ができる東野なら言ってもいいな。あの子の能力は〈読心〉、短い範囲内にいる二人の心を読む能力だ」
「なるほどな、それは結構難しいな」
「心を読まれたくない人もいるだろうしな」
実際に俺がそうだ。
任務のことを知られるのはダメだろう。
「ま、俺は心を読まれても大丈夫だけどな」
「羨ましいな、隠し事がないって」
「単純だからな俺は。まあ七ノ瀬は隠しごとは多そうだもんな」
「……まあね」
周りからの俺の認識はそんな感じだろう。
それでも仲良くしてくれる人達には感謝しないとな。
そんな事を思っていると教室に人が入ってくる。
入ってきた人物は相澤だった。
「おはよう相澤」
「あぁ、おはよう。聞いた通り朝が早いな七ノ瀬は」
「聞いたって東雲から?」
「そうだ」
相澤はそう言って東野の隣の席に腰を下ろす。
東雲に聞いたということは明確に意図してこの時間にいるんだろう。
「俺は東野直樹だ。よろしく」
「俺は相澤正義。よろしく東野」
二人が挨拶を終えると相澤は本題を切り出すように真剣な表情をする。
「唐突で悪いが、二人は学校の試験にどれだけ本気で取り組むつもりだ?」
あまり意図が掴めずに俺と東野は目を合わせる。
「うーん、俺は出来る限りのことはやるつもり。といっても俺が出来るのは情報提供と作戦を立てることぐらいだけどね」
「俺も七ノ瀬と同じだな。回復なら任せておけって感じだ」
俺がそう言うと相澤は何度か頷く。
「それじゃあ、少し条件を追加しよう。試験の結果と貢献度によってポイントを貰えるのは知っているか?」
「軽くは、ポイントによって就職とか進学で有利になるんだろ?」
「そうだな、パンフレットとかにはそう書かれている。けどなポイントはもっと汎用性が高いんだ。お金や入手の難しいもの、そして――」
相澤は一度大きく息を吸う。
「そしてどうしても会いたいあの子の居場所とかな」
そう口にした相澤の目は真剣そのものだった。
俺が任務を告げられた時に向けられたものと同じ類。
「なんだ相澤、そんな感じで純情なのな」
俺が言葉に迷っていると東野が軽い感じでそう口にする。
東野と会って三日目だが、相澤の本気度が分からない男ではない。
わざと流すような言葉を選んだ。
そんなに期待するな。と伝えたいのだろう。
「榊と気が合いそうだよな」
俺も東野と合わせることに決める。
全力でやるが期待されても困る。
俺には戦闘も索敵も支援も何もできないのだから。
「……そうか、お前達が頼りなんだけどな」
相澤はギリギリ聞き取れる声でそう呟く。
東野と神野と東雲の他にも黄金色の能力がいる。
他の人を見ても他クラスには劣らない能力だ。
むしろ強い方に思う。
この事を口にするか迷っていると東野が教室に入ってくる。
「おはようございます。あら相澤君が早くに学校に来るのは珍しいですね」
「たまにはいいだろ。それに親睦を深めるのも悪くないだろ?」
「そうですね、お友達が増えるのはいいことです」
東雲はそう言って神野の席に腰をおろす。
「三人は何を話していたんですか?」
東雲の言葉に俺と東野は口を止める。
言っていい事か判断がつかなかった。
「特に目立った話はしてないな。雑談だ雑談」
「いいですね、私も学校は案内しましたが、雑談はしていませんから」
東雲はそう言うと簡単な話題を話し出す。
しばらく話していると、少しずつクラスメイトが集まり、東野の隣の席の子が来て相澤は自分の席に戻った。
「ちょうどいい時間なので、最後に一言だけ」
東雲はそう言って立ち上がる。
「試験は私に任せてください。私は強いですから」
相澤との話を聞いていたのか?
勝ちたい理由があるのか?
など気になる事もあったが、それよりも、そう口にした東雲の表情は儚げで印象的だった。




