強襲
二本の超伝導ケーブルが合流する地点に戻ると、懸垂昇降機にワイヤーを噛ませる。
昇降機にワイヤーは物理的に接触していない。電磁駆動で動く。
単分子ワイヤーに導かれてエネルギー伝送シャフトに向けて進む。
「ベイブ、あとどれくらいでシャフトが崩壊するの?」
「二時間ちょい」
余裕はあるか……。でも急ごう。
シャフトに到着。これからは垂直に登る。
上昇は昇降機任せだが、腕を広げるだけでブレーキになるほどの気圧だ。できるだけ空気抵抗の少ない姿勢をとる。アステルと共に上昇開始。
ケーブルの支持架やエネルギー分配器の位置はマッピング済み。障害物に近づいたら自動的に速度が落ちる。
「ベイブ、速度を上げるよ。九メートル」
「分かった」
秒速九メートルでの上昇を昇降機に指示。
空気抵抗がすごい。
身動きしないように気をつけているが、多少の動きは昇降機が補正してくれる。
数々の便利な装備を用意してくれたノワールさんに感謝。
順調にシャフトを登っていく。
「上に着いたら、隠れ家の制圧とヨハンの体の確保だね」
「うん。四十分ほどで着くから余裕がある。ササナミに運んでもらう」
最悪、停滞カプセルにエネルギーを供給しながら、つきっきりで移動することも考えていた。
アステルがエネルギー変換施設を残してプラントを破壊してくれたから、まだ停滞カプセルへのエネルギー供給は止まっていない。
その後も延々と登り続け、ようやく隠れ家のエレベーターピットに到着した。
大深度地下対応モードを解除。背中が自由に曲がる。動きやすさにほっとする。
お世話になった単分子ワイヤーを処分して侵入の痕跡を消す。念のためだ。
「ササナミさん、戻りました」
『おかえりー。今ドアを開けるね』
ササナミさんの返事。すぐにエレベーターのドアが開く。
ドアの前に二人の人影、保安課のエージェントだ。
梯子を上り、エレベーターホールに立つ。
「第一目標破壊。これより隠れ家を制圧する」
なるべくCSっぽくエージェントに告げる。アルの口調を真似ただけ。
『応援を呼んだわ。使っていいわよー』
「いえ、保安課の人は下げてください。地下にも例の甲虫がいました。危険です」
『えー、いったい何匹いるのよ、あれ。了解よ、悪いけど頼むわね』
「行こう、ベイブ」
一旦、機械制御室に寄りアステルがコンソールを操作。
たちまち倉庫のシステムを掌握。終末の審問官が手を入れた裏システムだ。
宿直室の映像がディスプレイに表示される。
「すごい……」
横で見ていた女性エージェントがぽつり。
映し出された四名の構成員はテーブルを囲んで口論している。このまま立てこもるか脱出を試みるかでもめているようだ。
アステルに合図して倉庫の通用口に向かう。
「跳躍艇に連絡して」
エージェントがまだ監視しているかもしれない。スロートマイクに囁やく。
『アルだ。どうした?』
跳躍艇から返事が返ってきた。
「エネルギープラントを破壊したよ。これから隠れ家を制圧する。それからヨハンを運びだす」
『よくやったな、ジーン、アステル。回収に向かう。合流場所はお前たちが降りたムーンプールでいいだろう』
アルにほめられた。ちょっと嬉しい。
「ベイブ、開けて」
「分かった」
アステルが通用口の扉を見つめると、スライドして開く。
中に入ると警備員詰所の前。さらに進むとアステルが天井を見る。
「通風孔にカメラ。たぶん保安課が仕掛けたもの」
なるほど、こうやって監視していたのか。僕たちの行動も見られていると考えた方がいい。
通路を抜けると広い空間に出た。大きな倉庫だ。壁際にずらりと並ぶラック。積まれているのは各種サイズのコンテナ。僕たちが詰め込まれた縦長タイプもある。
「この奥に宿直室があるんだね」
バイザーに表示されるマップを確認しながら言う。
「無力化ガスを使う?」
「そうしよう」
宿直室は倉庫の隅に設置されていた。窓越しに倉庫内が見渡せる部屋だ。
銃を構えて僕が先行。幸い遮蔽物には不自由しない。自走式の作業車や仕分けロボットが多数止まっているからだ。
アステルと交互に宿直室に近づいていく。宿直室には四人の構成員の姿が見える。
「窓に穴を開けて。我が投げ入れる」
アステルがポーチから小さなボンベを取り出す。
僕は狙いをつけダブルタップ。ポリカーボネート製の窓に小さな穴が二つ開く。
すかさずアステルがバルブをひねり投てき。
予想外の速度とコントールで、穴の一つにボンベがめり込み薬剤を散布する。
四人は一瞬でくずおれる。相変わらずの即効性。
「GO,GO,GO!」
僕は叫ぶ。
先行する僕。アステルがバックアップにつく。
バイザーに警告。上に何かいる。見上げると同時に爆散。甲虫が隠れていたようだ。
アステルありがとう。
窓の直前で部屋の中に動き。灰色の甲虫が出現した。部屋の隅に隠れていたようだ。
反射的に倒れ込みながら横に跳ぶ。
刹那、窓に水平の輝線。顔の上をレーザーが通り抜けた感覚。
窓が溶断され爆発的に吹き飛ぶ。大きな窓が倒れ込んでくる。
危ない! と思った瞬間、スラスターが作動。
血液が下半身に集まり気が遠くなるが、すぐに加速が止まる。
床に倒れ込みながらアステルの安否を確認。
アステルは立っていた。ゆっくりと銃を構え甲虫に向けて発射。
甲虫が赤熱して弾け飛ぶ。
「これが最後の一匹。終わった」
※アステルバルブ→アステルがバルブに修正。「が」が抜けていました。(2026/04/29)





