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少年と宇宙  作者: 津本ジオ


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エネルギープラント崩壊

エネルギー伝送シャフト内を下降していく。

約百メートルおきに設置されている超伝導ケーブルの支持架を補助支点にしながら下降を続ける。

支持架を発見しだい、自動で補助支点を形成するよう懸垂昇降機に指示。分子収束エミッターはかなり賢い。

僕たちの体重を支える目的ではない。単分子ワイヤーの振動を抑えるためだ。

単分子ワイヤーは下降のための強力なツールだが、触れるもの全てを切り裂く凶器にもなる。


僕の身動きがワイヤーに伝わったとしよう。それは波となって地上まで伝わりまた帰ってくる。

たまたま障害物が現れて避けるために動くと、それもまた新たな波としてワイヤーを走っていく。

波と波が重なりあってより大きな波になることもある。

その波が超伝導ケーブルに接触して切断でもしようものなら、大電力が単分子ワイヤーを伝わり、僕は一瞬で炭化するだろう。


アステルの空間認識能力と懸垂昇降機に頼りきった下降なので、正直やることは少ない。

時おり現れるエネルギー分配器を避けるくらいだ。シャフトの維持に使われる電力を供給するシステムだ。

地下三十キロに達すると、ひと際大きい障害物が目に入る。超伝導ケーブルがゆるくカーブを描きシャフトの壁面に開いた穴に吸い込まれている。

眼下にはもう一本の超伝導ケーブル。ケーブルは一直線にエネルギープラントにつながっていると思っていたが違ったようだ。


シガ・シェルターに続く超伝導ケーブル、エネルギープラントからの超伝導ケーブル。

両方とも壁面の穴に消えている。二つのケーブル導入口は上下に百メートルほど離れている。

「たぶん、エネルギー変換施設がある」

壁面を調べていたアステルが言う。

「重要な施設?」

「うん。そこから思考機械にもエネルギーを供給してるはず」

「そっちから調べよう」

「分かった。通れそうな空間はある」


複雑に絡み合ったケーブル支持架と、シャフト壁面に本格的な支点を設置する。ここからは保護チューブに包まれたケーブルを使用する。

設置中、体に違和感を感じた。体が重いのだ。いや、正確には空気の粘性が増して動きにくい。

これが、大深度地下の気圧か。


シャフト壁面の開口部からエントリー。アステルのワイヤーと絡まないように注意。

急勾配のダクトに沿って下降。徐々に傾斜が緩やかになる。後ろ歩きでじりじりと進むと、エネルギープラントからの超伝導ケーブルと合流。

ここからは、二本のケーブルが水平に続いている。


懸垂昇降機に下端固定を指示すると、ワイヤーが切り離され床面に微粒子を噴射。急速に固定具を構築してワイヤーを保持。

ここからは超伝導ケーブルに沿って徒歩だ。ケーブルを挟んでアステルと並んで歩く。

水中ほどではないけれど体にかかる抵抗を感じる。

無反動銃をホルスターから抜き、セーフティーを解除。警戒しながら進む。


「何となくエネルギープラントの正体が見えてきた」

「どんなプラント?」

「鉱物をプラズマして上部マントルの圧力で圧壊。相転移のエネルギーを収集していると推測」

「なるほど……」

正直ピンと来ない。

「強力なパルスで送られた電力をこの先の施設で安定させてる」

「それを、シガ・シェルターと思考機械に送っている?」

「そのはず」

ダクトを進むと広大な空間に出た。

訓練に従って、左右に分かれて遮蔽物(しゃへいぶつ)に隠れる。


中央には直径五十メートルほどの巨大な円筒がそそり立っている。そして周りを取り囲む数百基のシリンダー群。

二本の超伝導ケーブルは中央の円筒に接続されている。

「真ん中の円筒が変換システム。周りのがバッファリングシステム」

アステルからの通信。

この巨大なシステムがエネルギー変換施設……。

「制御システムがあると思う。それを探そう」

「分かった」


「移動する」

僕が先行して円筒に近づく。アステルはカバーに入る。

シリンダーの陰に入り銃を構えて周囲を警戒。

「OK」僕がカバーに入ると合図を送る。

「移動する」アステルが宣言。

今度は僕がカバーにまわり、アステルがこちらに駆けてくる。

同じシリンダーに身を隠す。


少し斜めに移動したので空間の奥が見通せる。

「あれは……」

僕のつぶやきにアステルが答える。

「もう一つの超伝導ケーブル。あの先に思考機械が存在してる可能性が高い」


交互に進んで巨大な円筒に近づく。

アステルがぺたぺたと円筒にさわっている。僕は警戒。

「あった」

アステルが制御システムを見つけた。

「調べられる?」

アステルは集中している様子で黙り込む。


やがて……。

「さっきの推測が当たった。エネルギープラントは人間が近づける環境じゃない。ここから何とかする」

「頼む。ベイブ」

「警備ロボットが来る。ベイブに任せた」

「任された」


シリンダーの陰から例の灰色の甲虫が襲ってくる。三機だ。

セレクターを三点バーストに。

中央の甲虫に狙いをつける。空気抵抗で腕の動きが遅い。甲虫もこの環境では動きに切れがない。

トリガーを引く。短く発射音が三回。命中。反動で銃口が跳ね上がる。

バーストモードでは衝撃が伝わる前に三連射が可能だ。

いつものダブルタップで使用するセミオートとは異なる反動制御機構が使用される。

甲虫は沈黙。


強引に銃口を下げ次の目標を狙う。

跳躍してこちらに向かってくる甲虫だ。力強く跳ねたが空中で速度を失う。余裕を持って三連射。

この濃密な大気の中での跳躍は悪手(あくしゅ)だ。

これも無力化。


最後の一機は形状が違う。背中に武器を背負っている。

「レーザー!」

アステルからの警告。

すぐさま横っ飛びにかわす。空気抵抗に阻まれ……ない?

ノワールさんが言っていた軽減機構か!

どのような仕組みか分からないけれど助かった。

本当に頼りになる黒猫さんだ。


僕が立っていた場所を青白い輝線が通過する。

体が接地する前に照準。トリガーを絞る。全弾命中。甲虫が大きな炎に包まれる。

消火システムが作動、冷却ガスが散布され火勢が弱まる。

振り向くと、アステルがサムズアップ。アステルが消火してくれたのか。感謝。

制御システムを掌握できたようだ。


「エネルギープラントはかなり高度な技術で設計されていた。プラントをマントルの高圧力から守るシステムはジーンのスラスターに似てる。粗雑な設計だけど規模が大きい」

「止められたの?」

「うん。プラズマ炉を停止して耐圧システムをオフラインにした。プラントは地層になった」

「思考機械の場所は分かった?」

「日本海と呼ばれていた海の沿岸。地殻の中にある」

「よし、作戦完了だね」


「ここに蓄えられたエネルギーが尽きたらシャフトも崩壊する。急ぐ」

それは大変だ!

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激動への序章 ~来訪者~

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