D-7(作戦決行七日前)
嚮導者からの伝達事項を確認し、マエストロの兵器自慢を聞き流し、通信塔に帰投した。
コハクたちに報告を済ませると、すぐに会議が開かれた。
今、会議室に全員が集まっている。皆、真剣な表情だ。
特に、ノワールブートキャンプの訓練生の顔には緊張が伺える。
僕の報告から会議が始まるが、ここはあえて軽い口調で話そう。
「作戦決行は一週間後に決まったよ。プロテウスの母星、ハンター七五eの先行偵察が完了。ある程度状況は判明している」
ミーティングテーブルの上に、ハンター七五eの立体映像が浮かび上がる。
低軌道から撮影された映像で作られた扁平な球体は、詳細な部分まで読み取れる。
ピナクルが地表にそそり立ち、ドリーネが合体したウバーレが随所に見られる。
ウバーレの底から鮮やかなターコイズブルーの水面が顔を覗かせている場所も多い。
「本当にカルスト惑星だったわけだねえ」
コハクが吐息を漏らす。
「ハビタブルゾーンの一番外側を周回する惑星で、重力は地球の一・一倍ほど。かなり扁平だね」
「データを見ると、地表はかなりの強風に晒されていますね」
ノワールがデータを見てそう言った。
「飛翔や帆翔をする動物は存在しないって記載があるね」
「この強風ですからね」
「生態系は地下に集中しているみたいだよ」
地下に放たれた偵察ロボットからの映像を表示する。
淡い青色に発光する菌類が蔓延る洞くつ。垂直に落ち込んだドリーネを這い上る赤紫色の蔓。
蔓を走り回る、地球の小型げっ歯類に似た動物たち。
「ああ、唯一、短距離を滑空する猛禽類みたいなのがいるね」
生態系レポートのなかに目を引く記載があった。
「ほう?」
アルの興味を引いたようだ。
「狩りのシーンがあった。表示するよ」
流線型のボディに太い脚で駆ける生物が映し出された。
顔つきはフクロウにそっくりだ。
デルタ形状の短い翼を広げ、ドリーネにダイブする。
狙いは、蔓を這いまわる小型げっ歯類のようだ。
フクロウは鋭い滑空で獲物に迫る。ふっくらとした輪郭が、風圧でシュッと引き締まる。猛禽の顔だ。
一瞬のフレアで減速、恐竜のような鉤爪を頭部に叩きつける。
鉤爪で蔓に掴まり、ドリーネの内壁に半ばめり込んだ血まみれのそれを、短いナイフのような嘴で啄み始める。
「これは圧巻だな」
僕もそう思う。
「それと、アライアンスはプロテウスの通信を傍受、解読したそうだよ。これで侵略に関して、言い逃れができないね」
「さすがに手際がいいな」
アルが感心したように言う。
「通信傍受でプロテウスの母星の名も分かったよ」
そう告げてコンソールを操作する。
鳥のさえずりのような和音が鳴り響く。
「これが彼らの種族名。地球人には発音が難しいので、セルペンスと呼べってマエストロが言ってたよ」
「ラテン語で、這うを意味する言葉ですか。マエストロらしい」
ノワールは博識だ。
「それから発注していた機材だけど、思った以上の規模になってたよ……」
「規模?」
アルの疑問はもっともだ。だが、他に言いようがない。
「まず、メタ・プロキシ。同型機を八機用意したって」
「何だその数は……」
アルが呆れる。
「マエストロからノワールに伝言があるよ」
メッセージを流す。
『ノワール、ヨハンの治療に補助電子脳を入れたと聞いた。並列思考でこれくらいは同時操作が可能であるな』
「一週間しかないのに……」
ヨハンが絶望の声を上げる。
アルから並列思考の訓練を受けていた彼は、その難易度を承知している。
「ヨハン、元気を出して……。カミーラの小型偵察機は目録から選んでほしいって」
嚮導者から受け取った目録を表示する。
設計思想すら異なる十種類の機体。
「多い……選ぶのが大変よ」
カミーラもヨハンのような反応だ。
「ああ、これもマエストロから一言あるみたいだよ」
コンソールを操作する。
『これの操縦者は麗しき乙女と聞く。お勧めは外骨格タイプであるな。重力推進を反動制御に全振りした逸品だ。詳しくは仕様を見てくれ』
見た目は翼の生えたヒューマノイドロボットだ。
仕様を見ると、重力推進で飛行するようだ。
重力推進は重力場の傾きを利用して推進するが、潮汐力が発生する欠点がある。
潮汐力とは重力場の空間的な不均一性を表す言葉だ。
重力場に近い方はより強く引き寄せられ、遠い部分はその力が弱い。
高G推進になると、搭乗者の体を引き裂くほどの力が発生する。
反動制御は、この潮汐力を打ち消す技術だ。
この機体は推力は控えめだが「反動制御に全振り」の言葉どおり、搭乗者への負担が極めて少ない。
この高重力の惑星で、地上数千メートルから墜落しても一切衝撃は感じないという。
確かにこれはいいものだ。
意見を求められたら勧めておこう。
「最後に今回の目玉、大規模なパフォーマンスが決まったよ。まさか、こんなものを用意するとは、思ってもみなかったけど……」
同期軌道に浮かぶ巨大なフクロウの目。
先ほどの映像で圧倒的な力を誇示した、捕食者の鋭い目だった。
※種族名→母星の名に修正(2026/05/23)
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