表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年と宇宙  作者: 津本ジオ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

135/140

D-7(作戦決行七日前)

嚮導者(きょうどうしゃ)からの伝達事項を確認し、マエストロの兵器自慢を聞き流し、通信塔に帰投した。

コハクたちに報告を済ませると、すぐに会議が開かれた。

今、会議室に全員が集まっている。皆、真剣な表情だ。

特に、ノワールブートキャンプの訓練生の顔には緊張が(うかが)える。

僕の報告から会議が始まるが、ここはあえて軽い口調で話そう。


「作戦決行は一週間後に決まったよ。プロテウスの母星、ハンター七五eの先行偵察が完了。ある程度状況は判明している」

ミーティングテーブルの上に、ハンター七五eの立体映像が浮かび上がる。

低軌道から撮影された映像で作られた扁平な球体は、詳細な部分まで読み取れる。


ピナクル(岩柱)が地表にそそり立ち、ドリーネ(すり鉢穴)が合体したウバーレ(巨大陥没地)随所(ずいしょ)に見られる。

ウバーレの底から鮮やかなターコイズブルーの水面が顔を覗かせている場所も多い。

「本当にカルスト惑星だったわけだねえ」

コハクが吐息(といき)を漏らす。


「ハビタブルゾーンの一番外側を周回する惑星で、重力は地球の一・一倍ほど。かなり扁平だね」

「データを見ると、地表はかなりの強風に(さら)されていますね」

ノワールがデータを見てそう言った。

「飛翔や帆翔(はんしょう)をする動物は存在しないって記載があるね」

「この強風ですからね」


「生態系は地下に集中しているみたいだよ」

地下に放たれた偵察ロボットからの映像を表示する。

淡い青色に発光する菌類が蔓延(はびこ)る洞くつ。垂直に落ち込んだドリーネ(すり鉢穴)を這い上る赤紫色の(つる)

蔓を走り回る、地球の小型げっ歯類に似た動物たち。


「ああ、唯一、短距離を滑空する猛禽(もうきん)類みたいなのがいるね」

生態系レポートのなかに目を引く記載があった。

「ほう?」

アルの興味を引いたようだ。

「狩りのシーンがあった。表示するよ」


流線型のボディに太い脚で駆ける生物が映し出された。

顔つきはフクロウにそっくりだ。

デルタ形状の短い翼を広げ、ドリーネにダイブする。

狙いは、(つる)を這いまわる小型げっ歯類のようだ。


フクロウは鋭い滑空で獲物に迫る。ふっくらとした輪郭が、風圧でシュッと引き締まる。猛禽の顔だ。

一瞬のフレア(引き起こし)で減速、恐竜のような鉤爪(かぎづめ)を頭部に叩きつける。

鉤爪で蔓に掴まり、ドリーネの内壁に半ばめり込んだ血まみれの()()を、短いナイフのような(くちばし)(ついば)み始める。

「これは圧巻だな」

僕もそう思う。


「それと、アライアンスはプロテウスの通信を傍受、解読したそうだよ。これで侵略に関して、言い逃れができないね」

「さすがに手際がいいな」

アルが感心したように言う。

「通信傍受でプロテウスの母星の名も分かったよ」

そう告げてコンソールを操作する。


鳥のさえずりのような和音が鳴り響く。

「これが彼らの種族名。地球人には発音が難しいので、セルペンスと呼べってマエストロが言ってたよ」

「ラテン語で、()うを意味する言葉ですか。マエストロらしい」

ノワールは博識だ。


「それから発注していた機材だけど、思った以上の規模になってたよ……」

「規模?」

アルの疑問はもっともだ。だが、他に言いようがない。

「まず、メタ・プロキシ。同型機を八機用意したって」

「何だその数は……」

アルが呆れる。


「マエストロからノワールに伝言があるよ」

メッセージを流す。

『ノワール、ヨハンの治療に補助電子脳を入れたと聞いた。並列思考でこれくらいは同時操作が可能であるな』

「一週間しかないのに……」

ヨハンが絶望の声を上げる。

アルから並列思考の訓練を受けていた彼は、その難易度を承知している。


「ヨハン、元気を出して……。カミーラの小型偵察機は目録から選んでほしいって」

嚮導者(きょうどうしゃ)から受け取った目録を表示する。

設計思想すら異なる十種類の機体。

「多い……選ぶのが大変よ」

カミーラもヨハンのような反応だ。


「ああ、これもマエストロから一言あるみたいだよ」

コンソールを操作する。

『これの操縦者は(うるわ)しき乙女と聞く。お勧めは外骨格タイプ(エクソスケルトン)であるな。重力推進を反動制御に全振りした逸品だ。詳しくは仕様を見てくれ』


見た目は翼の生えたヒューマノイドロボットだ。

仕様を見ると、重力推進で飛行するようだ。

重力推進は重力場の傾きを利用して推進するが、潮汐力(ちょうせきりょく)が発生する欠点がある。

潮汐力とは重力場の空間的な不均一性を表す言葉だ。


重力場に近い方はより強く引き寄せられ、遠い部分はその力が弱い。

高G推進になると、搭乗者の体を引き裂くほどの力が発生する。

反動制御は、この潮汐力を打ち消す技術だ。


この機体は推力は控えめだが「反動制御に全振り」の言葉どおり、搭乗者への負担が極めて少ない。

この高重力の惑星で、地上数千メートルから墜落しても一切衝撃は感じないという。

確かにこれはいいものだ。

意見を求められたら勧めておこう。


「最後に今回の目玉、大規模なパフォーマンスが決まったよ。まさか、こんなものを用意するとは、思ってもみなかったけど……」


同期軌道(静止軌道)に浮かぶ巨大なフクロウの目。

先ほどの映像で圧倒的な力を誇示した、捕食者の鋭い目だった。

※種族名→母星の名に修正(2026/05/23)

毎日、23:00に更新しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
激動への序章 ~来訪者~

激動への序章 ~来訪者~

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ