D-Day、決まる
ジーン視点に戻ります。
通信塔の主要メンバーに、アステルと子どもを作ると報告してから一か月。
アライアンス中核体との定時接触の日がやって来た。
いつもの時間に起床して、いつものように朝の準備を整える。
「アステル、アル、おはよう」
ダイニングテーブルにはすでにアステルとアルがついている。
「おはよう、ジーン」
「おはよう、もう一か月か……」
「中核体の準備次第だけど、今日、D-Dayが発表されるかな?」
朝食を食べ終わり、食後のコーヒーに移ったところで話題を振る。
「そうなるだろうな。マエストロは気が短い」
アルは、コーヒーには何も入れずにちびちびと、舌先を丸めてコーヒーを舐めている。猫のような上品な飲み方だ。
「同意」
アステルはミルクと砂糖をたっぷり入れた、カフェオレの香りを楽しんでいる。
僕は、砂糖を少しだけ入れたブラックコーヒーを飲んでいる。
いろいろと試した結果、これが一番口に合うようだ。
アルによると、体調や加齢によって味覚は変化するそうで、ときどき飲み方を変えてみろと助言されたが……。
この一か月、遠征への参加の可否にかかわらず皆多忙だった。
ヨハンは脳波共鳴型機動戦術機メタ・プロキシの訓練に集中している。
分光観測から想定されるハンター七五eの環境、カルストでの動作や注意点などを主に学習したようだ。
アルの提案で水中訓練も課された。
温泉を汲み上げるために掘削したケーシングを拡張して、ノワールが水中訓練場を作り上げたのだ。
実機で訓練場に下りたヨハンは「液体の非圧縮性は知ってたけど……これほどですか」とアルにこぼしていたそうだ。
訓練内容を想像するに、爆発物を使った衝撃対応訓練かな?
カミーラは、今回、小型偵察機に搭乗する可能性があるので、航空偵察の基礎を叩き込まれている。
いかに発見されずに敵地に侵入するか、フライトプロファイルの組み立てから、地形追随飛行の訓練まで、多様な課題を地道にこなしている。
元軍人のアルとヨーゼフも教官として協力している。
一度、アルに届け物をしたときに訓練風景を見る機会があった。
「ロー・ハイ・ローで……ってこの地形だと無理じゃない?」
カミーラが、テーブル型のタクティカル・コンソールの前でうなっている。
「不可能な理由をまとめて意見具申書を提出しなさい」
ヨーゼフが冷淡に告げる。
「はぁ……。書類仕事は苦手なのに」
カミーラが愚痴る。
「意見具申書に支援機能が付いている。それを使え」
足元にまとわりつくロングコートチワワ、フラフィをあしらいながら、アルがアドバイスをする。
「これね。わあ、すごい! だらだら話し言葉で書いても直してくれるんだ。ありがとう、狼さん」
カミーラは、普段はアルを「狼さん」、ノワールを「黒猫さん」、コハクを「でぶ猫さん」と呼んでいる。
そう呼ばれて微妙な顔をするコハクに吹き出しそうになる。
カミーラ本人に全く悪気がないところが始末に負えない。
みんな十分に仕上がっている。
コハクの指導で、アステルは調停者の、あるいは超越者としてのふるまいを学んだ。
僕は現地でアステルの護衛につく。
今のアステルは、シガ・シェルターでの戦闘を境に、格段に身体能力が落ちている。
女性としての機能獲得の代償だ。
彼女には守る者が必要だ。もちろん僕が手を挙げた。
僕は、金星L4で鹵獲した六機のウルフパックを効率的に運用する訓練に一か月を費やした。
ヨハンの脳が入っていたアルファには、ノワールが思考機械をインストールしてくれた。
アルの戦闘経験をインプットしたカスタム仕様だ。心強い。
「行こう、ジーン」
この一か月を振り返っている僕を、アステルが呼ぶ。
「行こう、アステル。それじゃ行ってくるよ、アル」
僕はそう告げて立ち上がる。
「ああ、行ってこい」
アルが答える。
「D-Dayが近い気がする」
二人でアエティアに向かいながら予想を告げる。
「ジーンが言うならもうすぐ」
アステルの不思議な返事。
発着場に到着。アエティアに乗って飛び立つ。
ストラクチャ深層に潜り、アライアンス中核体に。
「嚮導者、定時接触」
「アステル様、お待ちしていました」
「準備できた?」
「はい。今から一週間後に作戦を決行します」
D-Dayが決まった。
奇しくも僕の誕生日だ。
※エピソードタイトルを変更(2026/05/21)
毎日、23:00に更新しています。





