閑話 三匹とメイドの内緒話
アル視点での閑話です。
ジーンとアステルが立ち去るのを見送りながら、そっとテーブルの陰に座りこみ四人で密談を始める。
ササナミはメイド服を着ている。最近はいつもこの姿だ。
「なあ、これでよかったのか?」
「何がだい?」
コハクが聞き返してくる。
「アステルは尊き御方の忘れ形見だろう。ジーンとの関係は問題にならないのか?」
ジーンたちが完全に立ち去ったのを確認して会話を続ける。
「なるほど、それを気にしていましたか。私たちにない地球人の感覚ですね」
ノワールに指摘される。地球人の感覚?
「酷な言い方だけど、地球人の寿命はたかだか百年だよ。その程度は寄り道ともいえないね」
目からウロコが落ちる思いだ。時間感覚が違い過ぎる。
「そうか……」
そうだった。この二人は実質的に不老なのだ。
「最初に会ったときの悲嘆に暮れたアステルの方が問題だったよ」
「エボルター種族の滅亡に立ち会ったのだったな」
「ええ、自分の行いが原因だと心を痛めていました」
「ジーンとの出会いがそれを変えたか……」
「そうですそうです。ジーンは、アステルに好影響を及ぼした恩人ですよ」
「なるほど。少々早い気もするが、俺は二人が子どもを持つのに反対しない」
「それはそうと、いくらジーンが大人びていても体は成長途中だろう。子どもは作れるのかい?」
「何度か、夢精をしていたな。正常に成長している証だ」
機械狼の臭覚は鋭敏だ。気づかない振りはしたが一目瞭然だった。
「ジーンの検査は定期的に行っています。性機能もすでに成人と同等です。ジーンは早熟ですね。遺伝的なものでしょうか」
ジーンの遺伝的な両親、ロキ・シノハラとマルグリット・クロケットは実験体として早熟に設計されていたと聞く。その影響か……。
「そして、ジーンはCS候補の特権で、生殖機能のロックが解除されている。いつでも生殖が可能だ」
シェルター市民は基本的に不妊だ。評議会の認可で妊娠が可能になる。
「水を差すようだけど、法的な問題があるわねー。成人年齢は十八歳でしょう。それまでは婚姻はできないわよー」
「今さらだな。そもそもアステルには市民データが無い」
「二人はそれでよくても、子どもはどうなるの? 出生届も出せないわよー」
「ふむ。たしかに子どもには市民登録が必要だ。どうしたものか」
「そこまで考えなくても例外はあるよー。ジーンは出生が不明でも養子になれたでしょう? 市民データを新規に登録しちゃえばいいのよ。協力するわよ」
「そうか。アステルを成人として登録するわけだな」
「でも、ジーンちゃんが十四歳ね……それが問題だわ」
「それなら心配無用だ。CS特例で十五歳から婚姻可能だ。ちなみにジーンは来月で十五歳だ」
「あー、確かに記載されてる! CS規定って詳細が分かりにくいのよねー」
「なぜですかねー。不思議ですねー」
ノワールの視線が泳いでいる。
おい、話し方がササナミみたいになっているぞ。
CS制度には結構矛盾がある。
CS特権で体が成熟していれば生殖が可能だが、婚姻についてはCS特例でも十五歳からだ。
これでは出生登録ができないケースが出てくる。矛盾だ。
昔、CS制度についてノワールを問い詰めたことがある。
生殖とは別の話だが、特権と特例の乖離についても指摘した。
なぜ、わざわざ別枠で特例を設けているのか?
結局、のらりくらりと躱されたが、最後の一言が強く印象に残っている。
「制度に縛られていては、CSも能力を発揮できないでしょう。矛盾も積極的に利用することをお勧めします」
いや、今考えるのはそれじゃない。
「俺が気になっているのは、ジーンが遠征から帰ったら子作りを開始すると宣言したことだ。まだ童貞だぞ」
声を潜めてささやく。
「ジーンちゃん、ある意味勇者よねー」
ササナミもささやき返す。
「他のメンバーに話すかは俺たちに任せるとも言ったな」
「ジーンはある種の風格と無頓着さを併せ持っています。あなた方の歴史でいえば、王や皇帝のようです」
「実は……俺もそう感じている。ジーンを過小評価していたか……」
「男子三日会わざれば……だねえ」
コハクがしみじみとつぶやく。
傍から見れば怪しい光景だろうな。三匹とメイドのひそひそ話だ。
「ササナミ、今回は本当に世話になった。ありがとう」
気を取り直してササナミに礼を言う。
生まれた子どもの市民登録を失念していた。やはり俺は男目線なのだろう。
「気にしないでー。マイダーリンの親友じゃない。当然よ」
「誰が親友だ」
「誰が親友ですか」
俺とノワールの声がハモった。
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