通信塔、全体会議
「ジーン、子ども欲しい?」
アステルの言葉が頭から離れず寝つけずにいた。
僕とアステルの子ども……どうやって作るのか想像もつかない。
人間のように夜を共にして、というわけにはいかないだろう。
どんな形であるにせよ二人の子どもだ。
欲しいとは思うが感情が追いつかない。
子どもができたとして、きちんと育てられるのだろうか……。
悩みながらも、意識が闇に溶けていく。
アラームで目が覚めた。
今日は朝から会議だ。
まだ、昨日の問いに答えを出せていないが、それでも世界は進んでいる。
手早く朝の準備を済ませて、三人でいつもの会議室に向かう。
通信塔のメンバーが勢ぞろいしている。
コハク、ノワールに加えて、僕とアルのアステルの三人。
ノワールブートキャンプのヨハン、ヨーゼフ、カミーラの三人。
跳躍艇に居候中のササナミ、そして、初の御目見、エミュレータ版ノワールだ。
総勢十名が勢ぞろいしている。
メイド姿のササナミが飲み物を提供している。メイドロボットの衣装を借りたんだな、きっと。
「みんな、よく集まってくれたね。会議を始めようか」
コハクが開会を宣言する。
「では、ジーン。アライアンス中核体での話をもう一度頼めるかい?」
「はい、分かりました。昨日、僕とアステルはアライアンス中核体の代表者と話をしてきました」
ここでは、嚮導者の名前(役職か?)は出さない。代表者としておこう。
嚮導者を知っているのは、コハク、ノワール、エミュレータ版のノワール、僕とアステルだけだ。
プロテウスがエボルターだったこと、アウトノーマの協力が得られないこと、そして、アライアンスが問題の解決に動くことを話した。
「アライアンスは、なぜ他人の問題を解決しようとするのだ。従族に被害でも出たのかね?」
ヨーゼフから質問がきた。
「それは私がお答えしましょう」
ノワールが引き継ぐ。
「聞かせてもらおうか」
「プロテウスにアライアンスの従族が侵略された事実はありません。それでもアライアンスには他種族を助ける理由があるのです」
「それは何かね?」
「詳細は秘匿事項になりますが、彼らは生物の多様性が減少するのを容認できないのです。種族を丸ごと絶滅させるプロテウスの手段など言語道断です」
「ふむ、多様性か……リスク分散? 進化の担保……?」
「まあまあ。考察は後ほど行ってください。ご理解いただけましたか?」
「上位種族は等しく長命と聞く。長期的な視野を持っているのだろう。ひとまずは納得した」
「それは結構なことです。では、次の話に移りましょう……」
その後も会議は続き、遠征の参加者も決定した。
ノワールとササナミは遠征に参加、ヨハンとカミーラもだ。
ノワールは参加すると思っていた。ササナミも当然ついてくるはずだと。
最初、ヨハンは葛藤を示していた。
先日、模擬戦でノワールから完膚なきまでに叩きのめされたようで、自信を失っているのだ。
だが、ノワールの「マエストロから訓練を受けられるよう手配しますよ」の一言に飛びついた。
カミーラはヨハンが行くならと手を挙げた。
ノワールは目論見どおりと悪い笑顔だ。
居残り組はコハク、アル、ヨーゼフだ。
もう一人のノワールも残留を表明して、通信塔の管理を引き受けてくれた。
「拙は争いの場はごめんだね。悪いが遠征は若いのだけで行っとくれ。ノワール、監督を頼んだよ」
コハクの言葉で腑に落ちた。この三人は本質的に争いが嫌いなのだ。
CSのアルでさえも。
会議が終わり、アライアンス中核体に僕たちが連絡に向かうことになった。
「すまないね。ジーン、アステル。何度も通わせる羽目になって」
「いえ、必要なことですから」
「平気」
今日もアエティアに乗り込み通信塔から飛び立つ。
航行中、嚮導者への伝達事項を再度確認する。
一つは、ヨハンの搭乗機、メタ・プロキシの製作依頼。設計データは持った。
それに、カミーラが単独で隠密行動をするための小型偵察機の製作も依頼する。
出番がなくても念のため発注することをノワールが主張したのだ。
操縦系の仕様を渡して、性能、外観などは丸投げだ。
さらに、プロテウスの母星、ハンター七五eへの遠征に参加する通信塔のメンバーを伝達する。
「アステル、中核体からの帰りに昨日の話の続きをしよう」
「うん、分かった!」
アステルが元気よく返事する。よかった。もう体調は戻っているようだ。
あっという間に中核体の拠点に到着。
アステルは、必要なことを伝えてさっさと帰ろうとするが……。
「あの、アステル様。地球での生活のことなど、少しお聞かせいただけませんか?」
嚮導者が遠慮がちに言う。
「いや。次回の定時接触のとき話す」
「何か助言ができればと思ったのですが……」
「そうやって嚮導者は説教に持ち込む。今日は用事があるから駄目」
と言い捨ててアステルは、ストラクチャ深層とつながる、この不思議な空間をあとにする。
呆れ顔の嚮導者を残して……。
そして今、ストラクチャ表層に来ている。
「可能ならアステルとの間に子どもが欲しい」
悩んだ末にしっかりと結論を出した。
「我はもう子どもを産める」
「超越種族と人間のハーフ?」
「ううん、純粋な地球人の子ども」
「そうなの?」
「我の配偶子を作った。形態形質は今の姿を基準にした。神経伝達に関わる遺伝情報は一世代前まで遡って作成した。地球人としての配偶子」
遺伝の仕組みは応用学校の生殖の講義で習った。
つまり、超越種族のアステルは、純粋な地球人の子どもを産めるのだ。
まるで僕のようだ。
地球人をベースに数多の種族の遺伝情報を、継ぎはぎして造られた僕の両親。
その生みの両親から、異星種族の遺伝情報を根こそぎ削ぎ落として生まれたのが、この僕だ。
超越種族のアステルと地球人の僕の間に、ごく普通の地球人の子どもが生まれる。
何とも不思議な感じがする。
「でも、僕は子どもを作れないよ。地球人は生まれるときに生殖機能をロックされるんだ」
重要なことを思い出した。僕たちは基本的に不妊なのだ。
母体検査の際に医療用ナノマシンを投与、胎児の輸精管や輸卵管に定着して精子や卵子をブロックする。
成長に合わせてナノマシンも増殖し、生涯このブロック機構は維持される。
解除は簡単だ。個人毎に設定された解除信号を、許可を受けたペアが受信するだけだ。
これで、一定期間、二人の間で生殖が可能になる。
ペット用の繁殖抑制システムを改良したもので、安全性と確実性は折り紙つきだ。
「それは大丈夫。ジーンがCS候補になったときロックが解かれてるはず」
「本当に!?」
コメンデッド・ソルジャー候補にそんな特権があったんだ。
「CS候補の権利はCSに準ずるってアルが言ってた」
「そうなんだ。シガ・シェルターで急に告げられたから、あまり調べてなかったよ」
「いつでも二人の子どもを作れる。人工授精も可能だけどベーシックな方法がいい」
「僕も同じ気持ちだよ」
―― 淡い燭光に照らされる優しい闇の中、二人は見つめあう。 ――
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