通信塔、会議前夜
ストラクチャ中核体との定時接触が終了して、今、僕たちは帰路にある。
アライアンスとしては、プロテウスに要求を突きつけ、それが拒否されたら「大規模なパフォーマンス」で力を誇示した上で、合意につなげる方針を取るそうだ。
僕の提案が採用されたのだ。
前回観測したエッジ識別パターンを渡してきたので、秘密裏に偵察も行うという。
プロテウスの母星がある惑星系の主星、ハンター七五に付随する二つのエッジのものだ。
ひとまず、次回の定時接触までに、具体的な計画を詰めておくとのこと。
僕たちがやるのは、通信塔の皆にアライアンスの方針を伝えて、作戦に参加する者を募るだけだ。
希望者がいなければ、僕とアステルだけで参加する。
現在、現実宇宙に戻るためにストラクチャ表層にいる。
淡い燭光に照らされた闇の中に佇み、二人で瞬かない蛍の乱舞の下、穏やかな時間を過ごしている。
「ジーン、子ども欲しい?」
アステルが思いもよらない質問を投げかけてくる。
「僕はまだ未成年だよ……」
子どもを持つなんて考えたことすらない。
「ジーンは大人。百五十一歳」
自分の実年齢になぜか笑いがこみあげてくる。
「あはは。ほとんど停滞カプセルの中にいたけどね」
アステルはなぜこんな質問をしたのだろう?
いいや、分かっている。
アステルは僕との関係を先に進めたいんだ。
もちろん僕も同じ想いだ。
「少し時間をもらえる?」
きちんと考えてからアステルと話をしよう。
「分かった……」
夜には通信塔に戻り、迎えにきたコハクに中核体での話をした。
「プロテウスはエボルターだったのかい……それは面倒だね」
「アウトノーマは、プロテウスへの勧告を拒否したよ。エボルターとは敵対できないって……」
嚮導者から聞いたことをそのまま伝えた。
アライアンスがとる方針もだ。通信塔から参加者を募集することも話した。
「空に巨大な目玉かい。そりゃ見物だね。アルとノワールは地下にいるよ。今の話を伝えてやっておくれ」
ここは通信塔の地下にある豊穣の角設置区画。
一辺が三百メートルほどの立方体の筐体が置かれている。万能自動工場の本体だ。
ノーザンエンドの豊穣の角より各段に大きい。
筐体の開口部の前に、人型の機械が一機。その威容に圧倒される。
作業ロボット群が、先行製作済みのコックピットブロックを組み込みんでいるようだ。
「脳波共鳴型機動戦術機か。立ち上がると巨大だな」
アルとノワールがメタ・プロキシを見上げながら話している。
僕たちの入室に気づいていないようだ。作業音がひどいからね。
「マエストロは、これの五倍の大きさのビッグフットを個人兵装と呼んでいますよ」
「戦略兵器の間違いじゃないのか」
「そうですね。控えめにいっても戦術兵器でしょうか」
「上位種族の感性は分からんな……」
「いえ、マエストロだからでしょう。ヒロは彼をいたく気に入っていましたが」
最近、ヒロさんの名前がよく出てくるな。少し興味が湧いてくる。
「またヒロか。三七小隊は変わり者揃いだな」
アルも同じ(?)感想のようだ。
「アル、ノワール。今戻ったよ」
会話のタイミングを見計らって二人に呼びかける。
「ジーンか。二人とも帰ってきたな」
「ジーン、アステル、おかえりなさい」
アルとノワールに、コハクに話した内容を繰り返す。
「ふむふむ、メタ・プロキシの初陣にぴったりだと思いませんか?」
ノワールが楽しそうに提案する。
「こいつを出すのか。アエティアでは運べないだろう?」
アルが反論する。もっともな話だ。
「いえいえ、中核体で複製を作ってもらいますよ。ヨハンを乗せていけばそれで足ります」
「ジーンの話では出番がないように思うが」
アルは懐疑的だ。たしかに、メタ・プロキシが必要になる場面が想像できない。
「不確実性への備えです。出番がないのが一番ですよ。少なくともヨハンの社会勉強にはなります」
ノワールも考えがあっての提案だったようだ。
「なるほどな。アステル、アエティアのペイロードにはどれくらい余裕がある?」
「通信塔の全員を乗せられる。データバンクにも余裕がある。ササナミも連れていける」
「そうですか。それでは皆さんの意見を聞いてみましょうか」
明日、全員参加の会議が開かれることになった。
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