プロテウスへの対応策
プロテウスはエボルターだった。
「ということは、アウトノーマは……」
「ええ、エボルターとは敵対したくないそうです」
嚮導者の返答は予想どおりだ。
知的種族共同体アウトノーマには、エボルターを偶像化している種族が多い。
こんな逸話がある。
ファーストコンタクト直後に、小惑星連合が太陽系の一政府として、アウトノーマにある依頼をした。
水星の離心率の修正事業への協力を仰いだのだ。
小惑星連合は、強烈な太陽放射と深い重力井戸での作業に関する技術協力を求めたつもりだった。
ところが、エボルターからの正式な要請に狂喜した各種族から莫大な寄付が集まり、この一大プロジェクトは異例の早さで達成されたそうだ。
「かといって放置はできないよね……」
「無論だ。侵略行為の即時中止と、今までの賠償を要求する。武力を整えているのは……アレだな、砲艦外交であるな」
「武力行使は避けたいのですが……」
「アライアンスの理念は正しい。だが限度はある。蛇野郎どもの野放図な振る舞いは座視できん」
マエストロ、看過するつもりはないようだ。
思い切りスケールは違うが、これは基礎学校のいじめ問題と似ている気がする。
放置するとエスカレートしそうなところが。
―― 幼馴染のトールがいじめの対象になったとき、止めに入った僕もいじめられる結果となった。
気のいいトールは「無視してれば収まるよ」と楽観的だった。
しかし、バッグを隠されたり机にゴミを置かれたりの軽度のいじめから、窃盗の強要、階段で後ろから蹴るなどエスカレートしていった。
僕はアルに学校で起こっていることを全て話した。
「教師に相談しろと言いたいところだが……いい機会だ。自分で解決しろ。アドバイスはする」
アルのアドバイスは「衆目の中で圧倒的な能力差を見せつけたあとに和解する」だった。
僕は、セレス流柔術の基礎訓練を欠かさず行っているので、同年代の子どもより圧倒的に身体能力が高いそうだ。
暴力が振るわれたときに、反撃して速やかに制圧できれば十分な効果が見込めるという。
信用のある調停者が加われば、なお効果的だと言われた。
アルから制圧術の手ほどき受けたが、機械狼のボディでは対人訓練をするわけにもいかず、イメージトレーニングが中心だった。
加害者は二人。痩せた背の高い少年と、みっちり太った相方だ。いつも二人で連れ立っていじめを行う。
今日は計画実行のためにトールには学校を休んでもらった。
教室に入って二人の位置を確認。教室の後方で談笑している。
僕は、大きな音を立て椅子を引き、自分の席につく。
二人の注意がこちらに向いたことが雰囲気で分かる。
机の上にバッグを置き、教材を取り出す。
そのときスタイラスが外れて床に転がる。自然に見えるがこれは誘いだ。
かがんで拾おうとすると、背後から二人の足音。掛かった。
歩法がなっちゃいない。位置が丸分かりだ。
太った方から来るな。
かがんだまま、視界の端で後ろを見る。僕の尻を膝で蹴ろうと構えている。
大きく前に出て躱す。
バランスを崩してたたらを踏んだ少年の手首を取り、外側に大きく捻る。
関節の仕組み上、それ以上腕は回らない。手首の動きに追随するように床に倒れる。
首に膝を落として抑え込み、制圧が完了。
そこに痩せた少年が襲い掛かってくる。
相方が床に転がったので頭に血が登っているようだ。
脚を大きく上げる。前蹴りだ。この少年たちは本当に蹴りが好きだ。
今度サッカーでも勧めよう。
直線的な動きで迫る足首を掴み、そのまま持ち上げる。
転んだ少年をくるりと回して、両膝で二人を固定する。
「はーい、そこまでよ」
手を叩きながら担任のおばちゃん先生が入ってくる。事前に頼んでおいた調停者の登場だ。
二人を開放して起き上がるのに手を貸す。
何ともいえない微妙な表情で顔を背けている。
「この二人が、虎の尾を踏むという諺を身をもって実践してくれました」
にこにこと笑いながら先生が解説する。
「笑裏蔵刀、そんな言葉もあります。いじめても抵抗しないと侮れば、笑顔のままで刀を抜きそうですね」
二人はごくりと息を呑んだ。
いじめに関するの即興の授業が容赦なく始まった。 ――
「――プロテウスの社会構造も知らずに指導層を一掃するなど言語道断です」
僕が過去に思いを馳せている間も、嚮導者とマエストロの応酬は続いていた。
「しかし弱気な対応では、ますます増長しようぞ」
アステルがこくこくとうなずいている。
「もっと頭を使いなさい。そこに詰まっているのは筋繊維ですか?」
嚮導者がマエストロの頭を指さす。
「褒めても何も出んぞ」
マエストロ……強い。
「あの、僕の考えを聞いてもらえますか?」
基礎学校のいじめ問題で思いついたことがある。
「聞きましょう」
嚮導者が促す。
「僕が基礎学校に通っていたころ……」
いじめの発端、そしてエスカレートと、アルからのアドバイスを話す。
「なるほど、興味深い話ですね。圧倒的な力量差を突きつけた上で和解ですか」
「さすがはアルだ。彼こそは真の戦士であるな」
「この場合、調停者はアステルが適任です。アステルはそれでいい?」
「分かった。それでいい」
「小手先の技術では真似ができない規模の演出はできますか?」
上位種族、その中でも上澄みのアライアンス中核体。どれほどのことが可能だろうか。
「たとえば、どのようなものでしょう」
「そうですね。空に巨大な猛禽類の目を浮かべるとか……」
嚮導者に尋ねられて、蛇の天敵を思い出した。
「それだ!」
マエストロの喝采。
「突拍子のないことを考えつきましたね。エボルターの面目躍如ですか……」
嚮導者の虚無が深くなる。
「嚮導者よ。行けるか?」
「検討してみましょう……」
全てを悟ったかのような面持ちで嚮導者が静かに言った。
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