不吉な情報
ジーン視点に戻ります。
朝、ベッドから起きあがり、浴室でシャワーを浴びる。
久しぶりに悪夢にうなされて、寝汗がひどかったのだ。
軽くシャワーを済ませてインナーを身につけ、鏡の前に立つ。
よし、顔色はいつもどおりだ。
シャワーを浴びる前はひどい顔をしていた。
ダイニングに行くと、アステルがちびちびとミルクを飲んでいた。
アルは早朝から出かけているようだ。
「おはよう、アステル。体は大丈夫?」
相変わらず顔色が悪い。ここ数日ずっとだ。
「おはよう。大丈夫。今日で終わり」
何が終わるのだろう。体調がよくなるなら喜ばしいことだ。
「そう。体調が戻るならよかった」
「心配かけた」
「今日は中核体と定時接触の予定だね。どうする?」
「問題ない。行く」
軽く朝食を食べて一休みしてから発着場に向かう。
途中、通信塔の長い外周通路でジョギング中のヨハンと出会う。
「おはようございます! ジーンの兄貴。アステルの姐さん」
「おはよう」
ヨハンの思いがけない呼びかけに言葉を失っている間にアステルがあいさつを返す。
兄貴に姐さんって……。マフィア物のコンテンツみたいだ。
「お、おはよう。精が出るね」
「基礎体力を付けなきゃですから。地道にがんばります」
「基礎は大事」
アステルがぽつんと言う。
「はい!」
元気よく返事を返して、ヨハンは走り去っていった。
「何だろね……」
「さあ」
発着場に到着、二人でアエティアに乗り込む。
リビングダイニングに二人分のシート。宇宙機の雰囲気はない。二人の新居といった風情だ。
白い床と壁、それに天井が全天球ディスプレイとして作動。見上げる空はいつも晴れ。
地表には氷片混じりの暴風が吹き荒れることもあるが、上空は常に雲一つなく深い紺色に輝く晴天だ。
濃紺の空へとアエティアは昇っていく。
宇宙を目指して(アエティアにしては)ゆっくりと上昇中に、地表から直接ストラクチャに入れないか聞いてみる。
「入れる。でもアエティアの体積分の真空が発生する」
「なるほどね。それは周りに迷惑だね」
発生した真空に周囲の空気が流れ込む。少なくとも大きな音がしそうだ。
実際に何が起こるかあとで調べてみよう。
大気圏を抜け、静止軌道辺りでストラクチャ深層に飛び込む。
後ろに見えるスノーボールアースの大きさで、大体の距離は掴めるようになった。これも慣れだな。
周りは白いオーロラの揺らめく空間。ただしこれは、アステルの感覚が捉えた風景。
正確にはアエティアの感覚だ。アステルにはもう見えないそうだ。
ますます人間に近づいている。
アエティアはオーロラの中をゆったりと進む。
今日はマエストロが一緒じゃないからか、この光景を楽しむように進んでいる。
やがて、遠くに金色の円盤が見えてくる。アライアンス中核体に通じる「扉」だ。
一回転、綺麗なロールを決めながら円盤に突入。アステルは何か楽しそうだ。
「嚮導者、定時接触にきた」
「アステル様、お待ちしておりました」
通信ウインドウが開き、虚無の表情の嚮導者が姿を見せる。
「アステル様、久しいですな。ジーンも息災であるな」
嚮導者の横からマエストロがひょこりと顔を出す。
チベットスナギツネと、(デカい)ピグミージェルボアの夢の共演……か?
「マエストロ、嚮導者さんと一緒にいたんですね」
「ジーン君、いいえジーン。私にも敬称は不要です」
「分かりました、嚮導者」
「嚮導者が、我が浮島にいるのは兵器製造の監査のためだ」
「マエストロは放っておくとオーバースペックの兵器を作りたがるのです……」
「相変わらず嚮導者は口うるさいのう。オーバースペックではない。不確実性への備えであるぞ」
お調子者と真面目コンビのトークショーみたいだ。
子ども向けの教育コンテンツにしたら人気が出そう。
「マエストロ、一緒にいる理由は分かったよ。でも兵器製造ってことは……」
「うむ、悪い知らせである。プロテウスはエボルターだったのだ」
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