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少年と宇宙  作者: 津本ジオ


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ローラー作戦

マエストロを拠点に送り届け、僕たちは今、ストラクチャ表層にいる。

プロテウスのエッジ識別パターンを入手するためだ。

前回、僕が表層の影響を受けないことが判明したので、アステルの作業をのんびり眺めている。


「やっと見つけた。あれがハンター(Hunter)七五。エッジが二つある」

恒星を示す光点と、周囲を(めぐ)る二つの小さな光。

「この無数の光点の中からよく見つけられたね」

淡い燭光(しょっこう)に照らされた闇の中、数多(あまた)の光点が輝いている。

「現実宇宙と配置が違うけど、座標に相関がある。計算した」

ここは不思議な場所だ。太陽の隣にアケルナルAがあったり、ずっと離れた位置にプロキシマ・ケンタウリが浮かんでいたり。


「識別パターンを記録した」

「これでいつでもプロテウスの母星に行けるんだね」

「うん。アライアンスの決定を待つ」

嚮導者(きょうどうしゃ)から、連絡を取るために定期的に顔を出すように依頼されている。


太陽系のエッジが閉じている今、地球に連絡を取る手段がないためだ。

まあ、プロキシマ・ケンタウリ経由で通信カプセルを送る手もあるけれど。

跳躍艇や、ノワールの通信カプセルほどの速度は出せないので、片道十年はかかるらしい。

それでも十分に速いが、その間に事態が進行しそうだ。

次は一か月後にアライアンス中核体を訪問する予定。僕も同行するつもりだ。


用事は終わったので、アステルが太陽系エッジ〇三を開いて飛び込む。

プロミネンスに包まれた太陽の雄大な姿の目前に転移して、しばらく見惚(みほ)れる。

太陽系のエッジが機能していた時代も、エッジ〇三は転移用の出口としては使われていなかったようだ。

エッジから出た瞬間は全くの無防備だからだ。


例えば、星間ゲートを使用する文明指標Ⅲの種族(標準種族)の場合、ゲートの開放時間を最短にするために、相当な速度でゲートに突入する。

ゲート開放には莫大なエネルギーを消費するので仕方がない。

突入後、ストラクチャ深層を経由して目的地のエッジに転移するが、転移直後にはゲート突入時の運動エネルギーを全て失っている。

現実宇宙とストラクチャでは「系」が異なるためだ。

転移物体は、エッジの基点となる恒星に対して相対速度(ゼロ)の状態で現れる。


太陽から僅か一光分の位置にあるエッジ〇三に転移した場合、アエティアのような特殊な宇宙機でなければ、太陽の劫火(ごうか)()かれ、巨大な重力井戸に沈むだろう。

アステルがこのエッジを使用するのは、地球に一番近いことと、僕と一緒に太陽を間近で見たいからだろうか。


アエティアは太陽に背を向け一路地球に。

ローレンツ収縮で一瞬の出来事に思えるが、八分以上が経過しているはずだ。現実宇宙では光速を超えられないのだ。

通信塔の発着場に着陸して、すぐに会議室に。皆に報告しないと。

会議室に着くと全員が勢ぞろいしていた。


マエストロを無事に送ったことと、一か月後に進展を聞きにアライアンス中核体を訪ねること。そしてプロテウスの母星のエッジ識別パターンの記録を報告。

「ふむ。こちらから打って出ることも可能か……」

アルが物騒なことを言う。アライアンスの決定を待とうよ……。

「踊らされた僕たちも借りを返したいところです。ね、ヨーゼフさん」

「そうだな。協力は惜しまない」

あれ、ヨハンとヨーゼフが仲良くしている。犬猿の仲って感じだったはずだけれど。


そうだ、ヨハンが喜びそうな情報があった。

「脳波共鳴型機動戦術機ビッグフットを見たよ」

アライアンス中核体の拠点で見たものは秘密だが、ビッグフットの雄姿を、皆に話してやれとマエストロが言うので例外なのだろう。

「え、どんなものでした!?」


「うん、メタリックな巨大ピグミージェルボア。アエティアに迎えに来たんだけど、マエストロが乗ってアクロバットを披露しながら帰っていったよ」

「全高五十メートルはあった。空中を蹴って自在に駆け回ってた」

「すっげえ……」

あ、以前の話し方に戻った。こっちの方が彼らしいな。

「そのマエストロが置いていった、ピグミーアヴェンジャーから定期連絡が入りましたよ。木星衛星群を探査しているセンシング・グリッドにはプロテウスの反応は無いようです」

脱線しかけた話をノワールが引き戻してくれた。


マエストロは太陽系に入ってすぐに、プロテウスが最初に送り込んだ拠点建設用マイクロマシン群の探索を開始した。

地球型惑星に予備調査用プローブを送り、自身はピグミーアヴェンジャーで、木星公転軌道を手始めに徹底的に調査していった。


マエストロは木星圏に五百機ものプローブを放出したそうだ。

それぞれのプローブからセンサーが散布され広大な領域をカバーするセンサーアレイシステムとして運用している。

プロテウスは大量のマイクロマシンを侵略先にばら撒くが、目的の惑星に達したマイクロマシン工場は一基の思考機械しか建設しない。

他の惑星や衛星に散らばったものも、全てバックアップとして機能する。


生き残ったマイクロマシンがまだ活動していたら、思考機械の消滅を察知して、新たな災いの種を地球に送り込もうとするだろう。

プロテウスが太陽系に送ったマイクロマシンはすでに解析済みで、活動初期に太陽光発電を使うことから、木星までがぎりぎり運用可能範囲ということだ。


マエストロは一片の禍根(かこん)すら残すつもりがないようだ。

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激動への序章 ~来訪者~

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