プロテウスの母星
ノワールを抱っこしたササナミを見送り、一息ついているとアルが帰ってきた。
「お帰りアル。ヨハンの訓練はどうだった?」
「お帰り」
「マエストロの動きが見ものだったぞ。ジーンとアステルもやってみるといい。いい勝負になりそうだ」
マエストロの対異種族近接戦闘訓練か。ちょっと怖いがおもしろそうだ。
「うん、考えとくよ」
「さっきノワールが来てた」
「ああ、ササナミの件か。聞いている」
「ササナミからお土産をもらったよ。食べる?」
銘菓スノーボールアースを出してアルに勧める。
「ふむ、いただこう」
両肩の装甲プレートがスライドして極細のマニピュレータが現れる。アルの食事用の「腕」だ。
黒文字を器用に操り口に運ぶ。
「美味いな。ジンの風味がよく合う」
アルにも好評のようだ。
「このお菓子用に調合したボタニカルを使ったクラフトジンのジュレだって」
ノワールに教わったこぼれ話をアルに伝える。
その夜は、突然くっついた、ノワールとササナミを話題にして三人で盛り上がった。
「おはよう、アル」
アルにあいさつをしてダイニングで朝食を始める。
アステルはあまり食欲が無いようで、少量のシリアルとミルクだけだ。
大丈夫か聞いたところ「体を変化させてるせい。大丈夫」と答えるだけで詳しく教えてくれない。
僕もあまり食べる気になれず、温かいソバを軽く食べて済ませた。
「昨日のマエストロとヨハンの訓練だがな」
アルが朝食後の会話を振ってくる。
「うん、何?」
「ヨハンは、異種族近接戦闘以前に基礎体力不足だそうだ」
「だろうね」
「それは今後続けるとしてだ。マエストロが気になることを言っていた」
「何と言ってたの?」
「反応速度は申し分ないが未熟な肉体が枷になっておるな」
しゃがれた声でアルが言う。マエストロの声真似だ。意外と芸達者なアル。
「そっくり」
アステルがくすくすと笑う。
「脳波共鳴型の兵装を持たせたらどうかと提案された」
「それは?」
「脳波で操作する搭乗タイプの戦闘機械だな。フィードバック機構付きだ。マエストロも持っているそうだ」
「おお、何か格好がいいね」
僕も男の子だ。大きな機械に乗って操縦することに興味がないはずもなく。
「ヨハンはサイボーグ化のあと、ろくに訓練もしなかったらしい」
「ずいぶんと馴染んでる感じがしたけどね」
「そうだな。お前に向けてウルフパックを蹴り飛ばしただろう。あれはかなり難易度が高い」
「正確にこっちに飛んできたね。たしかに難しそう」
「反動で重傷を負っては世話がないがな」
「その兵装、ヨハンがきっちり訓練すれば物になりそう?」
「ああ。コハクに相談した。前向きに検討するそうだ」
よかったね、ヨハン。ここでは皆が真剣に向き合ってくれる。
「僕も興味はあるけどね。今は自分を鍛えることを優先したい」
「ジーンはそれでいい」
今日はノワールブートキャンプの定例会の日だ。
いつもの会議室で、ノワールを中心に置き、コハクがどっしりと睨みを利かせ、ササナミが司会を受け持つ。
今後は基本的にこのスタイルで行くそうだ。
「開会のあいさつは無しでー。どんどん行っちゃうよー。まずはアル提案のヨハン君の武装の件からだよ」
「ササナミ……あんたそんな性格だったのかい」
コハクの突っこみ。気持ちはよく分かる。
シガ・シェルターに降りたときに同じことを思ったから……。
「猫をかぶってましたー。今もかぶってますけど」
ササナミの頭の上にはノワールがぐでーっと貼りついている。
「おい、あまり脱線するな。話を進めろ」
アルが会議の進行を促す。
「はいはーい。ひとまず豊穣の角のデータバンクを漁ってみましたー」
各々の席にウインドウが開いて全高十メートルの人型兵器「メタ・プロキシ」が表示される。
「最近は、終末の審問官だのプロテウスだの物騒だからねえ。地球人の手で守れる方がいいだろう。しばらくは防衛体制を強化するよ」
コハクが今後の方針を語る。
「この機体は、ヒロが趣味で設計したものです。試作機ですね」
ノワールの口から久しぶりにヒロの名前が出た。三七小隊のヒロ・ヤマガタ元特技兵のことだ。
三百年以上前に活躍したチームの一員。何かと縁がある気がする。
「ヨハン、今作ってるから完成したらたら試してみな。試作機だからね。慎重に扱うんだよ」
「コハクさん、ありがとうございます。注意深く扱います」
ヨハンがまるで別人のように素直な少年になっている。
「防衛体制の強化絡みで、次はカミーラの斥候訓練の進捗についてでーす」
ササナミの緩い口調が場の緊張を許さない。
「ササナミ、待ってください。重要なお知らせがあります」
ノワールがササナミを遮る。
「プロテウスの母星が判明した」
アステルが厳かに宣言する。





