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少年と宇宙  作者: 津本ジオ


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ササナミ襲来す

アステルと二人、組手で軽く汗を流して、通信塔の一画に構えた僕たちの住居に向かう。

アルは特殊な訓練の監督をするために自由訓練室に居残り。

対異種族近接戦闘の手ほどきを、マエストロがヨハンに行うそうだ。

少し見ただけだがマエストロのジャンプ力は相当なものだ。ヨハン、無事に乗り越えてくれ。

不安に思ったアルも訓練を見守るつもりなのだろう。


家に帰り着いて、リビングの扉を開くとお客さんが待っていた。

妙齢の女性と、その膝の上でだらしなく溶けているノワールだ。

「ノワール、この方はどなた?」

「ああ、お二人もよく知っている方ですよ」

「ササナミ」

アステルは一瞬で見破ったようだ。


「ササナミさん、シガ・シェルター以来ですね」

「ジーンちゃん、ノワールに聞かなかったかしらー。ササナミって呼んでよー」

あれ、ノワールの前なのに猫をかぶっていない。

「あ、そうだった。ササナミ、久しぶりだね」

「おっひさしぶりー! アステルちゃんも元気にしてたー?」

「うん元気」

この二人、勢いのコントラストに笑いそうになる。


「ほうほう、これは素晴らしい」

小さなウィンドウを目の前に浮かべて、何かのデータを眺めているノワール。

「ノワール、どうしたの? というか何でここにいるの?」

アエティアと共に膨大な重力波データの解析をしているはずなのに。

「それはですね、ササナミからいただいたお土産のおすそ分けに来たからです」


「いや、仕事中では?」

もう一人の私(エミュレータ)が作業を手放さないのです。凝り性なんですよ。なぜでしょうか?」

それはあんたが凝り性だからだろ!

言いたい気持ちを(こら)えて、もっと聞きたいことがあったと気を取り直す。


「それで、ササナミ。その体はどうしたの?」

「教祖ザルヴァの生体アンドロイド、あれって促成培養で作れることが分かったの。便利よねー」

「生体アンドロイドなんだ」

「そうよー。ノワールが温かくて柔らかい膝がいいって言うから、通信塔で作ってもらったのー」

当のノワールはササナミの膝の上で、ご機嫌にゴロゴロと喉を鳴らしている。


「お土産は何?」

アステルが遠慮なく聞く。

滋賀羽二重糯(しがはぶたえもち)で作った新作菓子よー」

椅子の後ろから手提げ袋を取り出して、テーブルに置く。

アステルが早速袋から菓子折りを取り出す。

菓子折りを開くと小さな白い球体が並んでいる。


「銘菓スノーボールアースです。さっきデータを見ましたが国際プロジェクトなのです」

「グローバル・ハーモニーが今アレでしょー? 世界シェルター交流プロジェクト自体は悪くないから引き継いだのー」

何でもこのお菓子は三つのシェルターと一つの大規模セツルメントの合作なのだそうだ。


シガ・シェルターからは羽二重糯で作った求肥(ぎゅうひ)、ブレスト・シェルター名産のフロマージュ・ブラン、ロンドン・シェルターのジンのジュレ。

そして、ブリュッセル大規模セツルメント産のホイップクリーム。

このスノーボールアース(凍結した地球)は、世界の皆が力を合わせて成り立っている。そんな風に感じてもらいたいのかな。


「まあ、実際はこんなに滑らかじゃないんだよね……」

「ジーン、これはイメージです。実際の商品(地球)とは異なる場合があります」

「早く食べる」

アステルは待ちきれないようだ。キッチンから小皿を持ってくる。

皿を並べると、ササナミがスノーボールアースを盛り付けてくれる。隅には菓子楊枝(黒文字)が添えられている


「いただきます」

皆でお土産を味わおう。

黒文字を表面に当てると、もっちりとした求肥の感触。

そのまま二つに割ると、真っ白なホイップクリームが現れる。

口に運ぶと滑らかな求肥に包まれたクリームが溶けていく。

このクリームが絶妙な味わいで、ふんわりと軽い口当たりのホイップに、混ぜ込まれた酸味の少ない濃厚なチーズの風味が口の中に広がる。

中心部にはジンのジュレ。キリっとしたハーブの香りが飽きさせない。


「これは美味しいね」

「美味しい」

「そうでしょうそうでしょう。なにせササナミのお土産です」

ノワールはササナミから食べさせてもらっている。お猫様か。

「その体はシガ・シェルターから遠隔で動かしてるの?」

「ううん、跳躍艇に居候(いそうろう)してるー」

「エトナさんと一緒に?」

「エトナはシガ・シェルターだよー。代わってもらったの。今は統括知性エトナ」

「ええ? 統括知性が変わるなんて聞いたことがないよ」

「ジーン、何事にも例外はありますよ。気にしたら負けです」


「シガ・シェルターの住民たちに引き留められなかった?」

「それねー。エトナが私の想いを純愛物語に仕立てたおかげで、涙と歓声で見送られたよー。で、今は押し掛け女房」

「私もジーンとアステルに当てられましてね。老いらくの恋もまた一興(いっきょう)かと」

「そう」

アステルは納得したようだ。

ササナミの脱猫かぶりの理由も分かった。


二人ともお幸せに……。

※押し掛け女房→押しかけ女房に修正(2026/05/08)

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激動への序章 ~来訪者~

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