二人の帰還
「好きだよ、アステル」
お互いの存在を確かめるように、何度も口づけを交わしたあと、静かに語りかける。
「我も」
淡い燭光の中に佇むアステルが答える。
暗灰色の恒星の周りに小さな三つの光点。その中で一番恒星に近い光点。
「あそこが僕たちが帰るべき場所なんだね」
「うん。帰ろう」
世界が反転する。燭光に満たされた暗闇から燦々と輝く太陽の下へ。
アステルが太陽至近のエッジ〇三を開き、現実宇宙に戻ってきたのだ。
驚異的な速度で進んだ結果、アステルに話しかけようと口を開く前に、凍結した地球が目の前に現れる。
「もう着いたんだ……」
「うん。アエティアの最適化を進めてる。もっと速くなる」
大気圏に突入。まるで空気など存在しないかのように、アエティアはなめらかに降下する。
眼下に灰色の巨塔が見えてくる。宇宙連接基幹塔、皆は通信塔と呼ぶ。
塔上部の開口部にアエティアは静かに降りていく。
発着場を守るハッチが音もなく開き、僕たちを迎え入れてくれる。
僕とアステルが発着場に降り立つと、太り気味の灰白猫と、小柄な黒猫が待っていた。
コハクさんとノワールさんだ。
「ジーン、アステル。おかえりなさい」
「二人とも無事に帰ってきたね」
「ただいま、ノワールさん、コハクさん」
「敬称をつけるのをやめて、呼び捨てにしておくれ。ジーンはもう立派な大人さ」
「私も呼び捨てにしてください。ササナミも言っていました。意外なことにマエストロさえも」
「何が意外なのかね?」
巨大なピグミージェルボアが跳ねながらやって来た。
「ジーンを童子などと呼んでいたからですよ。子ども扱いしていたでしょう」
「うむ。失言であったな。ジーンが経験してきた戦闘について、アルから聞いたのだ。年若いが立派な戦士であるな」
拙いなりに努力してきたのが認められたようだ。
「ジーン……急に大人になったねえ」
コハクさん、いや、コハクが感慨深げに言う。
「そうだな。マエストロと呼ぶのだぞ」
「分かったよ、マエストロ」
五人でぞろぞろと発着場を後にする。傍から見たら、さぞかし不思議な光景だろう。
「ノワール、思考機械の重力波データをもう一度解析したい」
ラウンジに到着して、すぐにアステルが口を開く。
「以前、解析に協力してくれたときは辛そうでしたが……」
ノワールが心配そうにつぶやく。
「人間の脳が情報量に耐えられなかった。今はアエティアがいる。平気」
「自身を二つに分けたとコハクから聞きましたが、そういうことですか」
「そう。アエティアの中枢はエネルギー体」
「分かりました。データは跳躍艇にアーカイブしています。自由にお使いください。私も手伝いますよ」
「助かる」
そういえば、重力波データをもっと詳しく分析すると嚮導者に話していた。
「ジーン、一緒に訓練したい」
アステルから訓練のお誘い。
「大丈夫? 思考機械の重力波データを解析するんじゃ?」
「大丈夫。そっちはアエティアでやる」
「同時に別々のことができるんだね」
「うん」
「では、アエティアと重力波の解析を進めておきます」
ノワールさんが機嫌よく尻尾を揺らしながら去っていった。
いつもの自由訓練室に到着。
気配を感じて後ろを見ると、静かにアルが鎮座していた。
「おかえり、ジーン、アステル。出かけていたのか」
「うん、アライアンス中核体に報告をしに行ってきた。詳しくは話せないけど」
「そうか。無事に帰ってきたならそれでいい」
帰ってきた。そう実感した。
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