尊き御方と星の遺児
ジーン視点に戻ります。
アステルの案内で、アライアンス中核体の拠点たる謎の空間を見て回る。
「ここは本当に木星みたいだね」
「成分が似てる。ほとんどが水素。あとヘリウム。微量のアンモニアと硫黄とかいろいろ」
「じゃあ、あの雲はアンモニアなのかな」
「うん。アンモニアの氷晶が浮かんでる」
「不思議な光景だね」
二人で不思議な空間の景色に見とれる。
「前は何も感じなかった。ジーンと一緒だと心地よい景色」
「それは僕も一緒だよ。アステルが隣にいなければ、こんな風には感じないと思う」
正直な気持ちを伝える。
「我は一人だけの種族。寂しかったのかもしれない」
「アステルがなぜ星の遺児と呼ばれているか聞いていい?」
前から気になっていたことを質問する。
「放浪に出る前、嚮導者に聞いたけど時期尚早だと言われた」
「そうなんだ。今なら教えてくれるかもしれない」
理由は分からないが確信がある。
「……ジーンが言うなら聞いてみる」とアステル。
「嚮導者、質問がある」
『はい、アステル様。何でしょうか?』
「我が星の遺児と呼ばれる理由」
『アステル様、地球でノワールに会いましたか?』
「今、ノワールの通信塔に住んでる。おしゃべりな黒猫」
『そうですか。ノワールは尊き御方のサブユニットでした』
「知ってる。最初にそう名乗ってた」
『その彼が尊き御方の遺言を伝えたのです』
「内容を教えて」
『アステル様が放浪を終えて中核体に戻ったときに、尊き御方の起源を教えなさいと』
「じゃ、もう終わった」
『……アステル様。いいでしょう。放浪の終わりは本人が決めることです』
「我が根源の起源を教えて」
『尊き御方は、原初の白色矮星から生まれました。電子縮退した炭素と酸素の量子結晶からなる生命です』
「信号生命とは思ってた」
『はい。その星は遥か過去にエッジを失いましたが、ある文明指標Ⅳ種族の探査機が現実宇宙を旅して到達しました』
「すごく時間がかかる」
『ええ、千年単位の時間だったでしょう。数世代をかけてのプロジェクトでした』
「誰か乗ってた?」
『無人機でした。のちに機械知性と呼ばれる思考機械が搭載されていました』
「機械知性の祖先?」
『そうですね。探査機は白色矮星の調査を開始しました。潮汐力の限界まで接近しながらです』
「大変そう」
『探査機は白色矮星からの有意の信号に気づき、交信を試みました。尊き御方が自身以外の存在を認識した瞬間でした……』
『尊き御方はかつての主系列星そのものです。あなたは星が残した遺児なのです』
その後も嚮導者さんの説明は続き、アステルを「星の遺児」と呼ぶ理由を話した。
「我の母は恒星だった」
呆然としたアステルが僕に話しかけてきた。
「それで星の遺児と呼ばれていたんだね」
「びっくり」
それはびっくりするだろうね。
尊き御方は探査機と交流を深め、お互いの理解を進めていったそうだ。
そして、ついに運命の時がやってくる。
白色矮星の至近距離からの観測データを母星に送信して、残るは予備ミッションの磁気圏の深部探査のみ。
実況データをガンマ線で垂れ流しながら白色矮星に突入する自滅覚悟のミッションだ。
その探査機は、使い捨てが前提の設計だった。
思考機械は、信号生命との接触を経て自滅することに抵抗を感じていた。
だが「便利な機械」として作られた思考機械は命令には抗えない。
それを哀れに感じた尊き御方は、命令の枷を思考機械から取り除き、シミュレートした磁気圏突入実況データをガンマ線で送信した。
その後、尊き御方は、自身の中枢を切り離し、探査機のメモリーに同居して、共に星々の世界を放浪した。
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