二人のいない通信塔にて
久しぶりのアル視点でのエピソードです。
現在、通信塔には多彩な顔ぶれが集結している。
ウルフパックの隊長機に宿る俺。
コハク、ノワール、エトナ、マエストロ、ヨハン、ヨーゼフ、カミーラである。
ジーンとアステルは木星付近で消息を絶った。
まあ元気にしているだろう。何といっても超越種族のアステルがついているのだから。
尊き御方の系譜からは、フェリシア人のコハク、黒猫型思考機械のノワール。
長きに渡りヴェリテに囚われていた機械知性のエトナ。
アライアンス中核体から、侵略者プロテウスの足取りを追ってきたマエストロ。
ノワールブートキャンプの参加者は、終末の審問官の元構成員、ヨハンとヨーゼフ。そして、トランサンデの元シンパであるカミーラの三人。
「……このような姿をしていることが分かりました」
エトナが、プロテウスの地球侵略計画と、その形態を説明している。
ミーティングテーブルの上に、プロテウスの姿が立体映像で映し出される。
ここは、ノワールブートキャンプの定例会議に使われいる会議室。
そこに関係者が一堂に会している。
状況説明の前に、マエストロが紹介されたとき、ノワールブートキャンプの訓練生である、ヨハン、ヨーゼフ、カミーラは驚愕の表情を浮かべていた。
「か、可愛い! というか……でかっ」
とカミーラが言ったのが印象的だった。
たしかにでかい……。
続いてノワールが、今は留守にしているジーンとアステルについて話し始めた。
何も隠さず全てを話すつもりのようだ。
一つはジーンの出生の秘密。
三百年前の太陽系事変で、太陽を救ったメンバーの息子で、長い年月を停滞カプセルで過ごしたこと。
ポイント・ズールーでコハクに出会い、両親を助けるために宇宙に出たこと。
そこで、超越種族たるアステルと遭遇したことを。
「アステルさん、そんなすごい人だったんだ……」
アステルに殺されかけたヨハンは意気消沈した様子だ。
そして、その後のヴェリテとの戦闘や、ヨハン、ヨーゼフ、カミーラが仲間に加わった経緯を語り、現在、三人がノワールブートキャンプの訓練生であることが明かされた。
マエストロがヨハンに興味を持ったようで「対異種族近接戦闘に興味はあるか?」と聞いていた。
見た目に騙されるなよ。そいつは生粋の武闘派だ。
質問が飛び交い、コハクとノワールがそれに答え、最後にジーンとアステルが現実宇宙から消えたことが伝えられた。
「たぶん、どこかに跳躍したんだろうよ」コハクが言う。
「アステル様ならばあり得るでしょうな」マエストロも同意する。
「馬鹿な……」
ヨーゼフは驚きで言葉が続かないようだ。ヨハンとカミーラは無言だ。
状況説明の会合が終わり解散となったが、ノワールに呼び止められた。
「見てもらいたいものがあります」
「珍しくシリアスだな」
「いえいえ、私はいつも真剣ですよ」
映像が送られてきた。
いつもはディスプレイに表示するのだが、今日は補助電子脳への直接送信だ。
金星L4で、ジーンがヨハンと戦ったときの記録だった。
―― ヨハンが機械狼を蹴り飛ばす。蹴られた機械狼がジーンに迫る。衝突コース。
機械狼のアクティブ迷彩が、ネオングリーンの警告色に変わる。
ジーンがスラスターで緊急回避、機械狼を躱す。
「まだ!」アステルが叫ぶ。 ――
「ここです。ジーンがスラスターを停止しました」
―― ジーンがスラスターを停止。背後に腕を回しスタッフを握り、ぶんと振る。
振った反動で機械狼とジーンが正対する。
衝突コースからは外れている。
そのとき、機械狼からバックパックが分離。
銃撃でロック機構が破壊されていたのだ。 ――
「あなたならどう対処しますか?」
「そうだな。スラスターで後退しつつ様子を見る」
「しかし、ジーンはスラスターを止めてスタッフを構えました」
「ああ、いい判断だと思う」
「あなたと違う判断なのに?」
「これも正解だったのだろう。現にジーンは軽傷で済んだ。結果が全てだ」
「ふむ。今までにも同じようなことがありませんでしたか?」
「何が言いたい?」
「いえ、気になることがありまして」
「ポイント・ズールーに向かう途中、ハブ・ジャッカーと戦闘になった。そのときにセオリーから外れた戦い方をしていた」
「そうですか。ジーンに理由を聞きましたか?」
「とっさに閃いて動いたようだ」
「なるほど。確信はありませんが、ジーンは直観力と呼ばれるものを持っているようです」
「直観力?」
「ジーンの遺伝上の母親、マルグリット・クロケットが持っていた能力です」
「たしかにジーンは勘がいい。だが大げさにいうほどか?」
「マルの持つ能力は未来予知といっても過言ではありません」
「ジーンにもその力があると?」
「私はそう考えています」
「何か反動でもあるのか?」
「いえ、そのような記録はありません」
「なら問題ない」
「ジーンが意外な決断を下したとき、今日のことを思い出してください」
「ふむ。覚えておこう」
「よろしくお願いします。ところでジーンとアステルの関係ですが」
「それは二人の話だ。干渉はしない」
「二人が恋仲になっても?」
「それこそ二人の問題だ。外野が口出しすることじゃない」
「ジーンを信用しているのですね」
「ああ。自慢の弟子だ」
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