アライアンス中核体 1
※タイトル変更、2話に分けました。(2026/05/02)
光が収まるとそこには暗闇が広がっていた。
「入れた」
アステルがほっとしたように言う。
「ここが?」
太陽系がストラクチャから切り離されて約百五十年。
全球凍結の地球に住まうもので、ここを訪れたのは僕が初めてだろう。
「うん、ストラクチャの深層」
アステルが答える。
「何も見えないね」
感慨深いのだが真っ暗で何も見えない。
「ここには光子が存在しない。現実空間とは違う物質で満ちてる」
そりゃ見えないわけだ。
「そうなんだ……残念だね」
「我が見ている光景を映す」
突如、全天球ディスプレイが光で満たされる。
幻想的に揺らめく光のカーテン。まるで、白一色のオーロラの中を漂っている心持ちだ。
「これがアステルが見ているストラクチャの姿なんだね」
「うん」
「きれいだ。すごく神秘的というか……」
淡く輝くベールが織りなす、光のページェントを二人して眺める。
「ノワールからエッジ識別パターンをいくつか聞いた。どこに行く?」
ウィンドウが開き、リストが表示される。
フェリシア、シミラ、バウル、エンテ、プロキシマ・ケンタウリ……。
聞きなれた惑星系のほかにもいろいろな星がある。
「……そうだ! アライアンス中核体に知らせないと」
「そうだった。忘れてた」
「中核体ってどこにあるの?」
「ここ」
「ストラクチャの中に!?」
「そう。我の母たる存在が作った。干渉を避けるため」
なんと、ストラクチャの中に拠点があるという。
「想像がつかないや」
通常の物質が存在しない場所でどうやって物を作るのだろうか。
「口うるさいのがいるけど気にしないで」
「ひょっとして……嚮導者って人?」
「ジーン、すごい。なぜ分かった?」
「嚮導者って響きかな。前に聞いたとき、アステルの教育を担当した人だろうなと思ったんだ」
「当たり」
「どんな人なの?」
「中核体で一番の古株。ジーンが見たら顔と声のギャップで笑う」
うん、すごく気になる。
「それじゃ行く」
「了解」
光のカーテンをくぐり抜けアエティアは進む。
遠くに光点。近づくと金色の円盤のように見える。
「これが中核体」
「ただの円盤だね……」
「ここは入口」
さらに接近すると大きさが実感できた。雛琵琶くらいはありそうだ。
「入る」
円盤にぶつかりそうになって、思わずのけ反る。
だが、何の衝撃もなく金色の表面を通り抜けた。
そこに広がるのは、黄褐色のグラデーションに染まる空。まるで木星のようだ。白い巻雲も見える。
雲の隙間から逆円錐の構造物が見え隠れしている。
その一つにアエティアは近づき、上部の鈍い銀色の表面に着陸。
「嚮導者、帰った」
アステルが通信で素っ気なく言う。
『Zrrrrrrrrt……Zrrrrrr……』
軽やかな機関砲の発射音のような音が響く。
アライアンスのデジタル通信フォーマットだ。アステルが初めて呼びかけてきたのもこれだった。
「EXLLMを送る。これで話して」
『おお、星の遺児よ。よくぞ戻られました。そのお姿は……?』
数十秒の間を置いて艶やかな女性の声が響く。
「アステル」
『それが、御名にございますか?』
「そう」
『アステル様。無事に放浪を終えたのですね』
「まだ途中。伝言を伝えに来ただけ」
『伺いましょう』
「プロテウスの形態が分かった。データを送る」
『調査に向かったマエストロからでしょうか?』
「うん。太陽系、地球にいる」
『アステル様! エッジが閉じた惑星系から来たのですか?』
「説明が面倒。データを見て」
『あなた様は……相変わらずですね。それでそのお姿は?』
「あとで話す。ジーンを紹介する」
いきなり話を振られた。
「初めまして、嚮導者さん。ジーン・タキザワです」
『これはご丁寧に。嚮導者にございます』
ここで初めて嚮導者の姿が表示された。
んぐっ。吹き出そうになるのを全力で堪える。
その顔はチベットスナギツネに瓜二つだった。
色香漂う声色でその顔立ちは反則だ!
毎日、23:00に更新しています。





