二人だけの宇宙
通信塔を飛び立ち、全天球ディスプレイ越しに見上げる空は深い紺色。
やがて空の色は濃紺から漆黒へ。瞬かない星々の海に出る。
「マエストロに連絡する」
「了解」
「マエストロ、通信カプセルは送った?」
『アステル様! いえ、まだ準備中にございます』
「じゃあ待って」
『承りましたぞ』
アステルは簡潔に通信を終える。
「どうしたの?」
「プロテウスのこと、形態以外にも分かると思う」
「母星とかも?」
「うん、たぶん。……それに」
「それに?」
「ううん、何でもない」
何を言いかけたのだろう?
「ジーンはどこに行きたい?」
「そうだね……アステルに木星を見せたい」
「木星に行く」
少しずつ正面に星が集まってくる。そして青白い輝きに包まれる。宇宙空間でさえ青く光る。
そして眩しい点になった。
「跳躍艇でもこんな光景は見なかったな」
「宇宙背景放射が可視光になる速度。跳躍艇には出せないと思う」
「アエティアはそんなに速いんだ」
「うん。防御機構の違い。惑星間物質をどれだけ防げるか」
「跳躍艇の最高速度は〇・九九c。防御膜の限界と言っていたよ」
「うん。衝突時に発生するエネルギーを全て防げないから」
「アエティアは全部防げるの?」
「衝突したものはストラクチャに送ってる」
そのあとも、アエティアについて、いろいろと説明をしてくれた。
つくづく規格外の宇宙機だと思う。
「着いた」
アステルの言葉と共に、いきなり周囲が暗くなった。
眩んだ視界から、木星が神々しい姿を露わにする。
大赤斑が瞬かぬ目で、まるで睥睨するかのように、こちらを見つめている。
「綺麗な星」
「前にノワールさんが、木星を美しいと感じる心が人の希望だと言っていたよ」
「分かる気がする」
アエティアが木星に接近していく。
視界いっぱいに広がる大赤斑の正体は、複雑に気流が絡む立体的な渦構造。
白い雲のフィラメントが何十本も走り、それが暗い底へと引きずり込まれていく。
引き込まれるような光景だ。
「ジュピター。古代ローマ神話の主神ユーピテルから取った名前だそうだよ」
「ジーンは神を信じる?」
「ううん。いるとしたら、アステルみたいな存在なのかも」
「我は、神に一番近い存在がストラクチャだと思う」
「そう……」
僕には難しすぎて分からない。
「試してみたいことがある」
「うん、やってみたらといいと思う」
「分かった。ジーンは絶対に守る」
「え……?」
危険なことをするのだろうか?
百八十度転回。振り向くと木星の姿が急激に小さくなっていく。
「ここでやる」
「何をするの?」
「ストラクチャに入る」
きっと、さっき言いかけた言葉だ。
上位種族は星間ゲートなしでストラクチャに突入可能、またはその技術基盤を持っている存在だ。
だがそれも、エッジが存在してこそだ。エッジの影響範囲外の恒星間空間では不可能。
現に、マエストロさんもストラクチャ通信を行うために、通信カプセルをプロキシマ・ケンタウリまで送り出そうとしていた。
ストラクチャ通信もエッジに依存する。
つまり、エッジが無い惑星系は、銀河文明から取り残された孤島のようなものだ。
アステルはエッジ〇三をこじ開けて太陽系にやってきた。
今度は、エッジが閉じている今の太陽系から、ストラクチャに入ると言っている。
そんなことが本当にできるのだろうか?
「できそうな気がする」
アステルが言うのなら可能だろう。
「うん、信じるよ」
僕たちは光に包まれ……。
※宇宙塵→惑星間物質に修正(2026/15/14)
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