人間の欲は底知れず
日仏村は、我らが依頼された蛭間野町から見れば月咎山は──ここから望むと非乃手山が西側にある。極楽浄土を求め西側に、住み着いた人たちがいたと想定する。
平安時代から貴族が信仰していた日想観が、民衆の仏教思想に強く現れ、関東地方で解かれた時期と合致する。
報告書にそう書かれていて、山伏式神はなるほど、と納得する。
(極楽浄土、聞いた事あるわ。人間たちが信じていた世界だった…たしか、私はあまり興味がわかなかったから、あやふやだけどね)
──中世になればなる程、人々は教えの通り『極楽浄土』に行けるよう神仏へ祈りを捧げていた。
そんな時代に、この身は生まれ落ちた。山伏式神として呼ばれるもっと前の話であった。
(月咎山って確か越久夜町にある山よね…神?が咎められたとか、そんな昔話があった、って迷子になった子供が教えてくれたわ)
もちろん、隙を見て食ったが。あちらは荒れ野の暴食魔神だと知らずに里の子供だと認識していた。
地理はあまり得意ではないが、聞きなれた単語が随所にあるではないか。
──日仏村は非乃手山という、埼玉県の端の端にある。ヒツから転化した呼び名ではあるが、やはり仏教的な意味合いが強いと思われる。
非乃手山にとても小さな村があったのは不思議ではない。ただ、かつて村には土着信仰による異形の神──ヒツが祀られていたが、とある理由でその地から居なくなってしまったという。そのために崇拝対象が必要であり、むしろ飛来したあの魔物は積極的に崇拝されていた。
西日をつかさどる仏(この土地では盧舎那仏)や神(土着信仰の神)として崇拝されていたようだ。
盧舎那仏は智慧の光であまねく法界を照らし輝かす仏身であるが、どうやら村では神仏習合やさまざまな分野の宗教が混ざり合い、独特なものへ変化していたようである。村人たちは不老不死を願った。それが目的でこの村に移住した人々が大半だった──。
この資料を作成した者はどうやら部外者のようだった。蛭間野町に依頼され、日仏村へ赴いた。
(口減らしの山にも元来の神がいた。けど、旅人どもが言っていたヤツらが連れて行って…ルシャが、飛来した?ルシャは宇宙から来たの?)
知識が人ならざる者は宇宙からやってくると物語っている。ならば、自らも同じく地球外からやってきたのか?
(私は何者?ただの地球から生まれた魔物じゃないの?)
(宇宙人なんてシャレにならないンじゃ…地球人としてせめても誇り──誇りなんて、持てやしないけど、混乱するう…)
ルシャ・アヴァダーナのルシャが盧遮那仏から来ている事が判明!




