そうなるのかぁ
両手で勇者の体を抱え込み、わき目もふらずにかぶりついている元剣聖の姿を見ていると、なんだかスイカを思い出す。
あんな風に顔面を押し付けて、必死に赤い果肉を貪り食うような芸があったなぁと考えてしまう。
「勇者様をお助けするのだ!」
誰かがそう叫んで、兵士達が元剣聖へ殺到。
抱え込んだ勇者をむしゃむしゃとたべている元剣聖の体へ容赦のない攻撃を加える。
その刃は元剣聖の体をいくらか傷つけ、血を流させはしたものの、傷はどれも浅くて致命傷となるようなものはなかった。
「なんつー密度だよあれ」
思わずそう呟く。
兵士達の攻撃が通らないのは元剣聖の体がとても密度の高い筋肉で覆われているせいだ。
「それだけじゃないですよ」
「何?」
「傷がものすごい勢いで治っていきます」
クロエに言われて気が付いた。
元剣聖の体の表面についた浅い傷が、ついた端からきれいに消え去っていくのだ。
何故そんなことが起きているのかと目を凝らしてみて、傷口がぼんやりとだが白く光っているのを見つけた。
「まさか、聖女を食ったからか?」
素の状態での身体能力は剣聖がベースになっていて、そこに食べたばかりの聖女が持っていた法術による治癒能力が加わったのだとすれば、とてもではないがあれは手に負える代物だとおは思えない。
そこまで考えた俺は、悲鳴を上げながら食われ続けている勇者や、その勇者を助けようとしてついでに喰われている兵士達。
そして元剣聖の突進によって虫の息となった状態で、抵抗もできないまま勇者の添え物のようにして食べられている王族、貴族達を見る。
「これ、ヤバくないか?」
食べたものの持つ能力を取り込んでしまうのであれば、勇者を筆頭にこれだけ食べられるものが散乱している状態はとても拙い。
何せ食べれば食べただけ強くなっていくと考えられるのだ。
これほど手に負えそうにない化物というのも、そうそういないだろうと思われる。
「ひぅっ!」
そんな俺の物思いを現実へと引き戻したのは、勇者が上げたと思われる悲鳴。
さすがは勇者と言うべきなのか、生命力の方も尋常ではなかったようで、体のあちこちを食い破られるような姿となってもまだしぶとく生きていた。
だがそれにも限度というものがあったようで、抵抗むなしく体の大半はかじり取られ、何故か比較的きれいに残っていた頭部に元剣聖の歯が当たった瞬間。
最期を悟って上げた悲鳴ごと飲み込むようにして勇者の頭部が元剣聖の口の中へと消えた。
そのままごくりと飲み下した元剣聖の体がさらに大きくなる。
「これはもう、どうしようもなくないか?」
巨大化した分だけ食べる量も増えたのか、兵士もゾンビも区別することなく手当たり次第に喰いついていく元剣聖を見て、これはもう色々と諦めざるを得ないだろうと俺は思った。
王国側の戦力はこの時点でほぼ壊滅。
ゾンビ共も元剣聖に喰われているとはいっても、その数はいまだに膨大だ。
そして剣聖をベースにして、聖女と勇者の能力を得たと思われる身長五メートルくらいの巨人が一体。
ちょっと体術をかじった程度のフリーターの手に負えるわけもない状況だ。
噛み殺されるのと、飲み下されるのとではどちらが楽な死に方だろうかと考えていると、クロエが俺の腕を軽く叩いて俺の注意を引いた。
「ソーヤさん、チャンスです」
「何のどこがチャンスだって?」
絶望的としか言いようのない現状のどこにチャンスがあるのやらと思いつつクロエを見ると、クロエは至極真面目な顔で言った。
「あの巨人を倒すチャンスです。私の見たところ、剣聖の体はそれほど大きな許容量を持っていません」
何を言っているのかと思えば、元剣聖が手当たり次第に捕食している姿の背中の辺りをクロエが指さした。
体の巨大化に伴って、衣服などは破れ落ちており、血の気が通っているようには見えない色をしたそこには、皮膚の内側に火種でも仕込んでいるのではないかと思ってしまうくらいに赤く輝いていたのだ。
「何だあれ?」
「内包する力を体の中にとどめておけなくなっているようです」
「それで?」
「今の奴はコップになみなみと水を注いだ状態です。少しの刺激で中身があふれて外へと零れ落ちます」
「少しの刺激って?」
「奴が食べて貯めこんだ力と同種のものを叩き込むのが最適ですね」
クロエはそう言うのだが、勇者達は三人しかおらず、その三人が一つの体に詰め込まれた状態でもまだぎりぎりとは言え耐えられているのだ。
これ以上、叩き込めるような同種の力などないだろうと言いかけて、俺は言葉を詰まらせる。
「もしかして……」
「もしかしなくとも現状、それが出来るのはソーヤさんしかいません」
「俺に喰われてこいと!?」
「私、そんな残酷なことをお願いするような人間に見えてますか……?」
「だったら……」
「力を込めて一発あれを殴ってきてください」
「あれを……?」
身長およそ五メートルの巨人。
手足のリーチは身長に比例して長く、俺との差は圧倒的と言っていい。
体が大きくなった分だけ動きが遅くなったかと言えば、見る限りではそんなことはない。
つまり、体が大きくなった剣聖並みの能力を持つ個体へ、一撃入れてこいというのだ。
一般人に頼むようなことでは絶対にない。
「死ぬだろ、俺」
「その時は私も死んでしまうでしょうね」
「体のどこでもいいのか?」
「手足は駄目だと思います。頭部か胴体のいずれかで」
「頭は届かないだろあれ」
「私とエクレールとで、援護はしますから」
「支援魔術もくれ」
気は進まないが、巨人を放置したまま逃げられるとは思わない。
こちらに気が付けば、すぐにでも襲い掛かってくるだろう。
ならばまだこちらに意識が向いていない、ほぼ確実に先制が取れる今、一撃に賭けてみるというのはそう悪い話ではない。
「顔を狙ってガードを上げさせてくれ」
「分かりました。タイミングはどうします?」
「俺がスタートしたら始めてくれ」
クロエから支援魔術をもらい、体に力が回ったのを感じてから俺は地面を蹴って巨人へと向かう。
その俺を追い越すようにして銀閃が二筋、巨人の顔面へ突き刺さった。
目を狙ったらしいそれは、おそらくエクレールが投げつけた二本の剣であり、片方は巨人の眼を貫いたものの、もう片方は外れてしまう。
一本だけとは言え目を潰された痛みは相当だったようで、剣を引き抜いて顔を手で押さえる巨人に対し、クロエが容赦なく炎の弾を次から次へと撃ち込むと、巨人は傷口をかばうようにして両腕を顔の前へと上げる。
真正面から近づくと、クロエが景気よくバラまいている炎の魔術の余波を受けそうな気がしたので、化物に対して斜めから接近。
身長五メートル近くともなると、俺の身長では目の高さに巨人の腰の辺りが来るので、胴体へ一撃を入れるためには拳をやや突き上げなければならない。
その分だけ、普段よりも標的に近づかなければならなくなるのだが、事ここに至っては尻込みしていられる余裕などなかった。
巨人の注意はクロエとエクレールが引き付けてくれているものと信じ、防御も回避も考えることなく突進。
踏み込みと同時に右の掌を巨人の脇腹辺りへ当てた。
攻撃にのみ意識を集中させた全力全開の掌打。
ただの人間に当てれば肉も骨も一緒くたに砕いて散らせるだけの力を込めて放ったそれを受けて、巨人の動きがぴたりと止まった。
「どうだ?」
打ち込んだ後のことは考えずに放ったので、体勢を崩して倒れ込んだ俺は自らの攻撃の結果を見るべく体を起こして、体のあちこちが赤く発光し始めている巨人の姿を目にする。
明らかに巨人の体内で何かが暴走しているであろう光景に、これはちょっとやらかしてしまったのではないだろうかと焦った。
「これってまさか……」
「ソーヤさんっ!」
クロエが叫び、俺の体をおそらくクロエとエクレールが少しでも巨人から引き離そうと引っ張りだす。
立ち上がらなくてはと引き摺られながらもがいた俺は、次の瞬間には巨人の内側から真っ赤な閃光が幾筋も迸るのを目にしたのだった。
面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。
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