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どうもダメっぽい

 とりあえず、多分感染によるゾンビ化の危険性はかなり小さくなったと思う。

 噛まれても発症前にクロエに治してもらえれば、ゾンビ化することはおそらくない。

 クロエが魔力切れだったりして治すのが間に合わなかったり、治す前に噛み殺されたりしていれば、その限りではないのだろうが、状況も気も楽になったのは確かだ。

 身の回りが楽になれば、多少なりとも周囲に気を配る余裕と言うものも生まれてくる。

 そんなわけで、身を隠していた柱の陰からそっと主戦場となっている広間出口付近を見てみた。

 外から本城へ入ってくるゾンビ共は不思議なくらいに一直線に勇者達のいる本隊を目指し、柱の陰にいる俺達にはほとんど目もくれようともしない。

 たまにこちらへふらふらとやってくる個体がいないわけではないのだが、その程度の数であれば俺とエクレールとで十分対処可能である。


「なるほど。確かに頭部は彼らにとって致命部位のようですね」


 死んだ兵士から拝借した剣を持ち、寄ってきたゾンビの胴へ素早く三回突きを放ち、それでも歩み寄ろうとしてくるゾンビの首をはねたエクレールが言う。

 さらりと何でもないような雰囲気を出しているが、胴への突きは心臓と肝臓と腎臓の三か所を的確に突いていたし、動いている人の形をしたものの首を一撃ではねるのはどちらも至難の業だ。

 少なくともメイドの手並みでは絶対にない。

 多分普通に騎士を名乗っても通用するであろう剣の技量を持ちながら、メイドをやっている理由は俺には推し量れなかった。


「まぁ色々と事情があるんだろうけどな」


 そう呟いて俺は近寄ってきていたゾンビの横っ面を裏拳で一撃。

 首の可動域を超えてねじれたそいつの頭をわしづかみにして石造りの壁へ叩きつける。

 いかにゾンビがタフな存在だとしてもその体の物理的強度にまで不死級の補正がかかるわけではない。

 そして人の頭蓋骨は勢いよく石壁に叩きつければ、割れる程度の代物でしかないのだ。

 石壁に赤黒い大輪を咲かせてずるずると潰れた顔を壁に擦り付けながら床へと倒れていくゾンビになど興味はなく、俺は勇者達の方を見る。

 相変わらず、勇者達のとんでもない戦力と、押し寄せて来るゾンビ共の数とがバランスをとっているような状況に見えた。

 しかしよく目を凝らして見れば、戦力の天秤は少しずつではあるがゾンビ共の方へ傾いているように見える。


「押し返せないみたいですね」


 クロエが俺とエクレールとにゾンビ化を防ぐ魔術を行使しながら言う。

 この王都に、どれだけの数のゾンビ共がいるのか分からないが、その全数がここに集結しているのではと思ってしまうほどにゾンビ共は数が多く、一向に減る気配がない。

 対する勇者側は戦力こそ高いが、体力や魔力、装備といったそれぞれの量は有限だ。

 使えば使うほどにその残量は減少していき、補充の見込みはほとんどない。

 そして体力や魔力が尽きた者はゾンビ共の餌食となり、ゾンビ化して敵の戦力となるのだ。


「ジリ貧だな」


 勇者側に生き残る目があるとするならば、多少無理をしてでもゾンビ共の包囲を突破し、少なくとも全周囲が敵だらけといった状況から脱出することくらいしかない。

 だがこれを実行するためにはゾンビ共の包囲を突破する戦力と、すみやかに包囲の輪を抜け、距離を取る機動力が必要になる。

 ここで問題になってくるのが王族や貴族の存在だ。

 勇者達や騎士、兵士達だけであったのならば、包囲の突破は可能だったかもしれない。

 だが、王族や貴族といった重りを抱えたままで素早い移動など望めるわけもなく、俺の予想の範囲では現状を打破する方法はないように思えた。


「ソーヤさんが加勢しても、でしょうか」


 クロエの問われて考える。

 心情的には王国やら勇者やらには加勢したくない。

 彼らの反応から考えるに、俺はあくまでも本命のおまけでしかなく、それ以上の扱いをしてくれるとは思えないからだ。

 そんな俺の心情を考えから外してみたとしても。

 やはり加勢したいとは思えなかった。

 正確には、俺ごときがここで加勢に回ったところで、戦況に与える影響はとても小さく、意味のある行動になるとは思えない。

 そんなことを考えていると、ゾンビ共と戦う王国軍の方から一条の閃光が迸った。

 音もなく走ったその一閃に触れたゾンビ共が、悲鳴の一つも残すでもなくその光に飲まれて消えていく。


「これは?」


「勇者の一撃でしょうね」


「知っているのか、クロエ」


「え? えぇまぁ。過去に召喚された勇者も使っていたそうですし」


「出典はどこの書房なんだ?」


「何の話です?」


 まぁ通じるわけがないかと思いながら、俺は勇者に一撃とやらがもたらした効果を考える。

 勇者のと名前がつくくらいなのだから、相当な威力を持った一撃なのだろう。

 実際にその一撃が走り抜けた場所からは、きれいさっぱりとゾンビ共が消え去っていた。

 しかし、ただそれだけだ。

 確かに問答無用でゾンビ共を消し去れる一撃ではある。

 だが、ゾンビ共の包囲を破ることができるくらいの一撃かと問われると、はっきり否であると思う。

 亀裂のようなものは入ったが、その亀裂はすぐに周囲のゾンビ共がふさいでしまうからだ。

 城外からのゾンビの供給は全く止まっていないようで、敵が減った気配すらない。

 足手まといを連れているせいで、突破口らしきものが作られてもそれを活用することができないのだ。

 勇者の一撃とやらを連発することができれば話は変わってくるのだが、そうしてこないところを見ると連発はできないらしい。

 冷却時間が必要なのか、一発撃つごとにチャージが必要なのかは知らないが、撃てるものなら出し惜しみはしないだろう。

 勇者をフォローするかのように剣聖が何かの技を放つが、そちらは範囲と威力は大きいものの少なくない味方の兵士を巻き込んでしまっていた。

 傷を負って倒れる兵士や騎士達には聖女がが治癒の法術を使っているようで、倒れた兵士の内の一部はすぐに立ち上がるのだが、即死した者は蘇生することなく倒れたままで、しばらくするとゾンビ化して立ち上がり、味方だった者達を襲い始める。

 聖女に治癒してもらった者も無事ではない。

 傷を治して立ち上がったはいいものの、しばらくして耳や目から出血を始め、苦しみだしたかと思うとゾンビ化し、周囲の者達を襲い始める者が出始めたのだ。

 傍から見ると同士討ちに見えるこれは俺の推論を裏付ける証拠。

 つまり、ゾンビ化の原因が感染によるものだということだ。

 一旦感染してしまった者は、たとえ傷を癒しても体内に入り込んだ感染源をどうにかしない限りは、死なずともいずれはゾンビ化してしまう。


「クロエ様。一度発症した者も先程の魔術で治せたりはしないのでしょうか」


 エクレールにそう言われて、クロエは近くにいたゾンビに対して前に俺達へかけたキュア・ディージーズの魔術を行使。

 結果は、魔術をかけられた個体はその場で倒れて動かなくなった。

 つまるところこれは、発症した時点で生物としてはほぼ死んでしまっていると言うことなのだろう。

 ウィルスの影響で生きているかのように活動するものの、それを失ってしまえば今度こそ完全に死んでしまうというわけだ。


「キュア・ディージーズの魔術は定期的にかけた方が良さそうですね」


 クロエの言葉に俺とエクレールは無言のまま頷く。

 一旦発症してしまえば確実に死に至る上に、感染しているのかしていないのか発症してみるまで分からないとなれば、予防的な意味で定期的に魔術をかけてもらうしかなく、その魔術はおそらく俺達の中ではクロエしか行使できない代物だ。

 故に、クロエに何かあれば俺達は全滅もありえるし、クロエの魔力枯渇はもしもの場合に生死を分ける要素になる。


「何はともあれ、クロエの安全重視か」


「私は元よりそのつもりです」


「宮廷魔術師から御姫様になった気分ですね」


 冗談のつもりなのだろうが、そんな台詞を口にしてクロエは笑ったのだった。

面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。


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